上 下
29 / 87
泊まりがけの同窓会とオレンジ色

もう安心だよね

しおりを挟む

  お茶の時間が終わり部屋に戻った。もうオレンジ色の提灯キーホルダーのことで悩まされることはないのだなと思うとほっとする。

  わたしは部屋に入り明かりをつける。

  部屋の中はしんと静まりかえっていた。ベッド、テレビ、小型の冷蔵庫が置かれている部屋の中をわたしは眺めた。

  そして、わたしは視線を木製のテーブルに移した。オレンジ色の提灯キーホルダーは無かったし特に変わったこともない。そのことにわたしはほっとした。

「良かった~」と思わず声を出してしまった。

  そうだ、久しぶりに小説でも書いてみようかな。先ずは案からだ。わたしは鞄の中からノートと筆記用具を取り出し木製のテーブルに置く。

  オレンジ色の提灯キーホルダーが置かれていたテーブルを使うのはちょっと嫌だなと思ったけれど、この木製のテーブルしかないのだから仕方がない。

  わたしはペンを握った。

  同窓会、楽しかったあの日の思い出にまた出会えた。懐かしい友達の笑顔。揺れるツインテール。

  とここまで書いて、駄目だなと思った。

  ツインテールだなんて美奈の後ろ姿を思い出してしまうしオレンジ色の提灯キーホルダーと繋がってしまいそうだ。

  それに真っ赤な血も……。

  わたしは、小説を書くことを諦めてノートを閉じた。

  お風呂に入ってゆっくりしようかなと思いわたしは立ち上がる。


  わたしは部屋を出て薄暗い廊下を歩きお風呂に向かった。

  女湯と書かれた暖簾をくぐる。レトロな懐かしい雰囲気が漂うお風呂だ。脱衣場には木製の古めかしいロッカーが並んでいる。

  わたしは適当にロッカーを選び脱いだ服を入れた。タオルを持って浴室の扉をガラガラと開け中に入った。

  レトロだけど掃除が行き届いている清潔感のあるタイル張りの浴室だった。なんだか昔にタイムトリップした感覚になる。

  わたしは体を洗い湯船に浸かった。一日の疲れがふわふわと和らぐ感じだ。湯気で満たされて幸せだ。

  温かいお湯に全身浸かるとリラックスできる。うふふ、このまま眠ってしまいそうなほど心地よい。

  オレンジ色の提灯キーホルダーにさようならも出来たし明日は町田に帰るんだもんね。

  もう何も恐れることはない。わたしは温かいお湯に包まれた。

  わたしは幸せな気分で湯槽から出た。

  服を着てふんふんと鼻歌を歌いながら髪の毛をドライヤーで乾かした。

 さてと、部屋に戻ろう。わたしは風呂場から出た。

  すると、美奈が扉の前に立っていた。

「あ、美奈!」

「亜沙美ちゃん!  わっ、しまった~」

  美奈は慌てたように髪の毛を触った。

「美奈、ツインテールじゃないんだね」

  そうなのだ。美奈はツインテールをほどいていたのだ。

「あはは、お風呂に入ろうと思ってほどいてしまったよ~ああ、ツインテールじゃない姿を亜沙美ちゃんに見られてしまったよ……」

  美奈はそう言って悔しそうな顔をした。

「美奈ちゃんってばそんなにツインテールに拘りがあるの?」

  わたしは悔しそうに唇を噛んでいる美奈の顔を見てなんだかちょっと可笑しくて笑ってしまった。

「別に拘りはないけど、今回泊まりの同窓会でツインテール姿を貫くと決めていたからね」

  美奈は「まあいっか」と言ってニカッと笑った。

  ツインテール姿でもそうじゃなくても美奈は可愛らしくてあの頃とほとんど変わらない童顔だった。

「どっちでも可愛いからいいんじゃない?」

「わっ、可愛いってそれは嬉しいよ。じゃあ、亜沙美ちゃんわたしはお風呂に行くよ」

「うん、いってらっしゃい」

  わたしは、女湯の暖簾をくぐる美奈の背中を見送った。そのツインテールじゃない少し茶色っぽい髪の毛はキラキラ輝いていた。

  懐かしい少女の頃の美奈と少しだけ大人になった美奈が重なって見えた。

『亜沙美ちゃん、こっちにおいでよ』

  あの日の美奈が笑っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さや荘へようこそ!(あなたの罪は何?)

なかじまあゆこ
ホラー
森口さやがオーナーのさや荘へようこそ!さや荘に住むと恐怖のどん底に突き落とされるかもしれない! 森口さやは微笑みを浮かべた。 上下黒色のスカートスーツに身を包みそして、真っ白なエプロンをつけた。 それからトレードマークの赤リップをたっぷり唇に塗ることも忘れない。うふふ、美しい森口さやの完成だ。 さやカフェで美味しいコーヒーや紅茶にそれからパンケーキなどを準備してお待ちしていますよ。 さやカフェに来店したお客様はさや荘に住みたくなる。だがさや荘では恐怖が待っているかもしれないのだ。さや荘に入居する者達に恐怖の影が忍び寄る。 一章から繋がってる主人公が変わる連作ですが最後で結末が分かる内容になっています。

あの子が追いかけてくる

なかじまあゆこ
ホラー
雪降る洋館に閉じ込められた!! 幼い日にしたことがわたしを追いかけてくる。そんな夢を見る未央。 ある日、古本屋で買った本を捲っていると 『退屈しているあなたへ』『人生の息抜きを』一人一泊五千円で雪降る洋館に宿泊できますと書かれたチラシが挟まっていた。 そのチラシを見た未央と偶然再会した中学時代の同級生京香は雪降る洋館へ行くことにした。 大雪が降り帰れなくなる。雪降る洋館に閉じ込められるなんて思っていなかった未央は果たして……。 ホラー&ミステリになります。悪意、妬み、嫉妬などをホラーという形で書いてみました。最後まで読んで頂くとそうだったんだと思って頂けるかもしれません。 2018年エブリスタ優秀作品です。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

小さな鏡

覧都
ホラー
とある廃村の廃墟検証の映像配信者の映像から始まる恐怖のお話です。

アララギ兄妹の現代心霊事件簿【奨励賞大感謝】

鳥谷綾斗(とやあやと)
ホラー
「令和のお化け退治って、そんな感じなの?」 2020年、春。世界中が感染症の危機に晒されていた。 日本の高校生の工藤(くどう)直歩(なほ)は、ある日、弟の歩望(あゆむ)と動画を見ていると怪異に取り憑かれてしまった。 『ぱぱぱぱぱぱ』と鳴き続ける怪異は、どうにかして直歩の家に入り込もうとする。 直歩は同級生、塔(あららぎ)桃吾(とうご)にビデオ通話で助けを求める。 彼は高校生でありながら、心霊現象を調査し、怪異と対峙・退治する〈拝み屋〉だった。 どうにか除霊をお願いするが、感染症のせいで外出できない。 そこで桃吾はなんと〈オンライン除霊〉なるものを提案するが――彼の妹、李夢(りゆ)が反対する。 もしかしてこの兄妹、仲が悪い? 黒髪眼鏡の真面目系男子の高校生兄と最強最恐な武士系ガールの小学生妹が 『現代』にアップグレードした怪異と戦う、テンション高めライトホラー!!! ‎✧ 表紙使用イラスト……シルエットメーカーさま、シルエットメーカー2さま

ゾバズバダドガ〜歯充烏村の呪い〜

ディメンションキャット
ホラー
主人公、加賀 拓斗とその友人である佐々木 湊が訪れたのは外の社会とは隔絶された集落「歯充烏村」だった。 二人は村長から村で過ごす上で、絶対に守らなければならない奇妙なルールを伝えられる。 「人の名前は絶対に濁点を付けて呼ばなければならない」 支離滅裂な言葉を吐き続ける老婆や鶏を使ってアートをする青年、呪いの神『ゾバズバダドガ』。異常が支配するこの村で、次々に起こる矛盾だらけの事象。狂気に満ちた村が徐々に二人を蝕み始めるが、それに気付かない二人。 二人は無事に「歯充烏村」から抜け出せるのだろうか?

月夜のさや

蓮恭
ミステリー
 いじめられっ子で喘息持ちの妹の療養の為、父の実家がある田舎へと引っ越した主人公「天野桐人(あまのきりと)」。  夏休み前に引っ越してきた桐人は、ある夜父親と喧嘩をして家出をする。向かう先は近くにある祖母の家。  近道をしようと林の中を通った際に転んでしまった桐人を助けてくれたのは、髪の長い綺麗な顔をした女の子だった。  夏休み中、何度もその女の子に会う為に夜になると林を見張る桐人は、一度だけ女の子と話す機会が持てたのだった。話してみればお互いが孤独な子どもなのだと分かり、親近感を持った桐人は女の子に名前を尋ねた。  彼女の名前は「さや」。  夏休み明けに早速転校生として村の学校で紹介された桐人。さやをクラスで見つけて話しかけるが、桐人に対してまるで初対面のように接する。     さやには『さや』と『紗陽』二つの人格があるのだと気づく桐人。日によって性格も、桐人に対する態度も全く変わるのだった。  その後に起こる事件と、村のおかしな神事……。  さやと紗陽、二人の秘密とは……? ※ こちらは【イヤミス】ジャンルの要素があります。どんでん返し好きな方へ。 「小説家になろう」にも掲載中。  

グリーン・リバー・アイズ

深山瀬怜
ホラー
オカルト雑誌のライターである緑川律樹は、その裏で怪異絡みの事件を解決する依頼を受けている。緑川は自分の能力を活かして真相を突き止めようとする。果たしてこれは「説明できる怪異」なのか、それとも。

処理中です...