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泊まりがけの同窓会とオレンジ色

やっぱり怖いそして懐かしい

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  その後は大好き唐揚げの味もよく分からなくなってしまった。あんなに柔らかくてジューシーな唐揚げだったのにだ。

  美奈も「わたしもポストカードを買って自分宛に手紙でも送ろうかな~」と言って嬉しそうに笑っている。

  早く帰りたい。ここから逃げ出してしまいたい。どうしてオレンジ色の提灯に怯えなくてはならないのだろうか。

  そんなことを考えていると隣のテーブルの斜め前に座っている佐和と目が合った。

  アパレルの販売員をしている佐和はおしゃれで華やかでまつ毛がくるんとカールされている。

  わたしは佐和の目をじっと見てしまった。すると、佐和は目を逸らした。

  美奈と久野君にそれから多香子と真夜は今もポストカードの話で盛り上がっている。わたしは、耳を塞ぎたいのを我慢してご飯を口に運んだ。

  オレンジ色の提灯と血のついた包丁血だらけの床。

  ポタポタドボドボ流れ落ちる血。気持ち悪くて頭の中から追い出そうとするのに追い出すことができない。

  わたしは、頭に浮かぶ恐ろしい映像を消し去りたくてご飯を無理やりかきこんだ。

  だけど、一瞬忘れてもすぐにオレンジ色の提灯と血のついた包丁が思い浮かぶのだった。

  ポタポタ流れ落ちる血と血だらけの床が頭の中から離れてくれなかった。

  わたしは無理やりご飯を食べた。

  そして、やっと定食屋から出ることができたのだけど。


  外に出ると店先に吊るされている明かりの灯ったオレンジ色の提灯がかすかな風にゆらゆらと揺れていた。

  わたしは見たくもないのにオレンジ色の提灯を眺めてしまった。

「亜沙美ちゃん、この提灯幻想的で綺麗だね」

  気づくと美奈がわたしの隣に立ち提灯を見上げながら言った。

「う、うん。そうだね……」

  わたしは答えながら美奈の横顔をじっと眺めた。高校生の頃の美奈も気づくとわたしの隣に立っていてよく話しかけてきたな。

「わたしレトロで幻想的な雰囲気が好きなんだ」

  そう言ってくるりとこちらに振り向いた美奈の顔は童顔なのに妖艶に輝いている。

  なんだかオレンジ色の明かりに灯された提灯と美奈のその顔が一枚の絵画のように見え、可愛らしくて妖艶な小悪魔のようだ。

「亜沙美ちゃんどうしたの?」

  わたしが美奈の顔を見ていると小首を傾げ聞いてきた。

「……この風景に美奈ちゃんが溶け込んでいるんだけど、なんだか存在感があるなと思って……」

「ん?  それって褒め言葉かな?  でも、この風景に溶け込んでいるなんてちょっと嬉しいな~」

  美奈はにっこりと笑った。その顔から妖艶さは消えていていつもの可愛らしい笑顔だった。

「うん、褒め言葉だよ……」

  だけど、オレンジ色の提灯に灯った明かりはゾクゾクする。

「さあ、宿に帰ろう」

  美奈はそう言って歩き出した。その美奈のツインテールが左右に揺れそして、ミニスカートがふわっと風に揺れる。

  そんな美奈の後ろ姿を見ているとアニメや漫画や小説の中の女の子のように見えた。

  オレンジ色の提灯なんて気にしないでわたしも宿に帰ろう。

「メンチカツ美味しかったぜ」

  気づくと松木がわたしの隣に立っていた。

「松木はメンチカツが好きだもんね」

  わたしは隣を歩く松木の横顔を見て言った。

「うん、メンチカツめちゃくちゃ好きだよ。亜沙美は唐揚げが好きだよね」

「あ、うん、わたし唐揚げが大好物で学生時代のお弁当に必ず唐揚げを入れてもらっていたな~」

  懐かしい唐揚げ弁当を思い出しわたしの頬は緩む。お母さんの作ってくれた唐揚げ弁当は冷めていてもジューシーでそれはもう美味しかった。

「そっか、懐かしいよな。俺の弁当はメンチカツがどーんと入っていたな」

  松木は過去を思い出すように遠い目をした。

  懐かしい味とお母さんの笑顔にみんなと一緒に食べたお弁当に制服を思い出す。

  あの頃が懐かしくて切ない気持ちになった。それと同時になんだかよく分からない思いが浮かびそうになった。

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