8 / 87
日常
オレンジ色の提灯と血
しおりを挟む
「……それってオレンジ色の提灯が出てくる小説を書いたらっていいってことかな?」
「うん、そうだよ。赤色の提灯はたこ焼き屋、おでん屋とか焼き鳥屋にそれから居酒屋などに灯されていたりするけどオレンジ色は少なそうだぜ」
松木はそう言ってフフンと笑っているけれど、わたしは笑えなかった。
だって、明かりが灯るオレンジ色の提灯と血まみれの包丁からぽたりぽたりと血が滴る。そんな恐ろしい映像が頭の中に思い浮かぶ。
ぽたりぽたりぽたりと血が滴り落ちる。ぽたぽたぽたり……床に真っ赤な血溜まりができた。
「おい、亜沙美! 顔が真っ青になっているぞ。大丈夫か?」
松木の声が遠くに聞こえた。
あのオレンジ色の提灯と包丁から滴り落ちる血は実際に起こったことなのだろうか。あの場所は存在しているのだろうか?
そんなはずはないよと自分に言い聞かせた。
「おい、亜沙美! 大丈夫かよ」
松木に身体を揺さぶられ、ハッと気がついた。
「あ、えっ。うん、大丈夫だよ……」
「だったらいいんだけど、亜沙美具合が悪いんじゃないよな?」
顔を上げると松木が心配そうに眉をひそめていた。
「具合が悪いと言うか……」
わたしはオレンジ色の提灯のことを松木にちゃんと話してしまおうかと悩んだ。
「どうしたんだよ。何か心配事があるなら言ってみなよ」
松木のその声がいつもより優しくて話してみようかなと思った。
「松木、ちゃんと聞いてくれるかな?」
わたしは松木のアーモンド型の綺麗な二重まぶたの目をじっと眺めながら言った。
「俺は亜沙美の担当だよ。それに昔からの友達なんだからちゃんと聞くぞ」
松木のその言葉に嘘はないと思った。
わたしは、ティーカップを持ち上げ口に運び紅茶を一口飲み心を落ち着かせた。
そして……。
「わたし、オレンジ色の提灯に明かりがぽつんと灯っている恐ろしい夢を見るんだよ」とわたしは言った。
「ん? オレンジ色の提灯に明かりがぽつんと灯っている恐ろしい夢?」
松木は不思議そうに首を傾げた。
わたしはあの恐ろしい夢の話をした。
明かりの灯ったオレンジ色の提灯、オレンジ色の暖簾、一見穏やかそうな定食屋で包丁を握りしめていたわたし。
そして、包丁からぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたりと血が溢れ落ち床の上は血の水たまりのようになっている。
そんな恐ろしい夢の話を松木に話した。
松木は黙ってわたしの話を聞いていた。
「う~ん、内容的には面白いと思うんだけどな。でも、亜沙美はその夢が怖いんだよね」
「うん、もうなんとも言えないほど怖いよ……」
わたしはそう答えながらケーキの上に載っているイチゴをフォークで刺し口に運んだ。イチゴの爽やかな甘酸っぱさが口の中に広がった。
「……そうか。だったら仕方がないか」
「うん、オレンジ色の提灯は却下ね」
わたしはホッとしたのだけど松木が、
「じゃあさ、オレンジ色の提灯は無しにして同窓会に行こうぜ」と言った。
「えっ! 同窓会……」
「うん、高校の同窓会に行って青春時代を思い出そうぜ」
松木はそう言ってニッと笑った。
「どうして同窓会に行って青春時代を思い出す必要があるの?」
わたしはその理由が分からないのとそれからなぜだか同窓会に行きたくないなと思う気持ちがあったのだ。
「亜沙美決まっているじゃないか」
「決まっている?」
「うん、高校時代の懐かしい友達に会うと小説の良い案が思い浮かぶかもしれないだろう」
松木はフフンと得意げに笑っている。
わたしは笑えなくてイチゴの無くなったショートケーキをぼんやりと眺めた。
同窓会に参加しない理由も見つからず行くことになってしまった。
高校時代は楽しかった思い出もたくさんあるはずなのに不安な気持ちが渦巻く。この気持ちは何だろうかと考えてみるけれどさっぱり分からない。
「じゃあな、亜沙美。同窓会に行ってリフレッシュしようぜ」
松木は赤い看板とコーヒーカップのイラストが目印のカフェの前でにんまりと笑った。
「……リフレッシュになるかな?」
「なるはずだよ。ぽんこつから亜沙美先生に昇格するかもだよ」
「……ぽんこつじゃないもん」
「あはは、だったら同窓会のハガキの参加するにマルを付けて出すんだよ」
「うん、一応参加することにするけど……」
「よし、決まりだ。じゃあ、俺は寄るところがあるからまたな」
松木はそう言って手を振りさっさと歩き去ってしまった。わたしは松木の背中をぼんやりと眺めた。
同窓会に出席することでとんでもないことが起こるなんてこの時のわたしは夢にも思っていなかった。
少し寂しげな秋の風がわたしの頬を撫でた。
「うん、そうだよ。赤色の提灯はたこ焼き屋、おでん屋とか焼き鳥屋にそれから居酒屋などに灯されていたりするけどオレンジ色は少なそうだぜ」
松木はそう言ってフフンと笑っているけれど、わたしは笑えなかった。
だって、明かりが灯るオレンジ色の提灯と血まみれの包丁からぽたりぽたりと血が滴る。そんな恐ろしい映像が頭の中に思い浮かぶ。
ぽたりぽたりぽたりと血が滴り落ちる。ぽたぽたぽたり……床に真っ赤な血溜まりができた。
「おい、亜沙美! 顔が真っ青になっているぞ。大丈夫か?」
松木の声が遠くに聞こえた。
あのオレンジ色の提灯と包丁から滴り落ちる血は実際に起こったことなのだろうか。あの場所は存在しているのだろうか?
そんなはずはないよと自分に言い聞かせた。
「おい、亜沙美! 大丈夫かよ」
松木に身体を揺さぶられ、ハッと気がついた。
「あ、えっ。うん、大丈夫だよ……」
「だったらいいんだけど、亜沙美具合が悪いんじゃないよな?」
顔を上げると松木が心配そうに眉をひそめていた。
「具合が悪いと言うか……」
わたしはオレンジ色の提灯のことを松木にちゃんと話してしまおうかと悩んだ。
「どうしたんだよ。何か心配事があるなら言ってみなよ」
松木のその声がいつもより優しくて話してみようかなと思った。
「松木、ちゃんと聞いてくれるかな?」
わたしは松木のアーモンド型の綺麗な二重まぶたの目をじっと眺めながら言った。
「俺は亜沙美の担当だよ。それに昔からの友達なんだからちゃんと聞くぞ」
松木のその言葉に嘘はないと思った。
わたしは、ティーカップを持ち上げ口に運び紅茶を一口飲み心を落ち着かせた。
そして……。
「わたし、オレンジ色の提灯に明かりがぽつんと灯っている恐ろしい夢を見るんだよ」とわたしは言った。
「ん? オレンジ色の提灯に明かりがぽつんと灯っている恐ろしい夢?」
松木は不思議そうに首を傾げた。
わたしはあの恐ろしい夢の話をした。
明かりの灯ったオレンジ色の提灯、オレンジ色の暖簾、一見穏やかそうな定食屋で包丁を握りしめていたわたし。
そして、包丁からぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたりと血が溢れ落ち床の上は血の水たまりのようになっている。
そんな恐ろしい夢の話を松木に話した。
松木は黙ってわたしの話を聞いていた。
「う~ん、内容的には面白いと思うんだけどな。でも、亜沙美はその夢が怖いんだよね」
「うん、もうなんとも言えないほど怖いよ……」
わたしはそう答えながらケーキの上に載っているイチゴをフォークで刺し口に運んだ。イチゴの爽やかな甘酸っぱさが口の中に広がった。
「……そうか。だったら仕方がないか」
「うん、オレンジ色の提灯は却下ね」
わたしはホッとしたのだけど松木が、
「じゃあさ、オレンジ色の提灯は無しにして同窓会に行こうぜ」と言った。
「えっ! 同窓会……」
「うん、高校の同窓会に行って青春時代を思い出そうぜ」
松木はそう言ってニッと笑った。
「どうして同窓会に行って青春時代を思い出す必要があるの?」
わたしはその理由が分からないのとそれからなぜだか同窓会に行きたくないなと思う気持ちがあったのだ。
「亜沙美決まっているじゃないか」
「決まっている?」
「うん、高校時代の懐かしい友達に会うと小説の良い案が思い浮かぶかもしれないだろう」
松木はフフンと得意げに笑っている。
わたしは笑えなくてイチゴの無くなったショートケーキをぼんやりと眺めた。
同窓会に参加しない理由も見つからず行くことになってしまった。
高校時代は楽しかった思い出もたくさんあるはずなのに不安な気持ちが渦巻く。この気持ちは何だろうかと考えてみるけれどさっぱり分からない。
「じゃあな、亜沙美。同窓会に行ってリフレッシュしようぜ」
松木は赤い看板とコーヒーカップのイラストが目印のカフェの前でにんまりと笑った。
「……リフレッシュになるかな?」
「なるはずだよ。ぽんこつから亜沙美先生に昇格するかもだよ」
「……ぽんこつじゃないもん」
「あはは、だったら同窓会のハガキの参加するにマルを付けて出すんだよ」
「うん、一応参加することにするけど……」
「よし、決まりだ。じゃあ、俺は寄るところがあるからまたな」
松木はそう言って手を振りさっさと歩き去ってしまった。わたしは松木の背中をぼんやりと眺めた。
同窓会に出席することでとんでもないことが起こるなんてこの時のわたしは夢にも思っていなかった。
少し寂しげな秋の風がわたしの頬を撫でた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ゴーストバスター幽野怜
蜂峰 文助
ホラー
ゴーストバスターとは、霊を倒す者達を指す言葉である。
山奥の廃校舎に住む、おかしな男子高校生――幽野怜はゴーストバスターだった。
そんな彼の元に今日も依頼が舞い込む。
肝試しにて悪霊に取り憑かれた女性――
悲しい呪いをかけられている同級生――
一県全体を恐怖に陥れる、最凶の悪霊――
そして、その先に待ち受けているのは、十体の霊王!
ゴーストバスターVS悪霊達
笑いあり、涙あり、怒りありの、壮絶な戦いが幕を開ける!
現代ホラーバトル、いざ開幕!!
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
COME COME CAME
昔懐かし怖いハナシ
ホラー
ある部屋へと引っ越した、大学生。しかし、数ヶ月前失踪した女が住んでいた部屋の隣だった。
何故か赤い壁。何があるのだろうか。
そして、笑い声は誰のだろうか。
トランプデスゲーム
ホシヨノ クジラ
ホラー
暗闇の中、舞台は幕を開けた
恐怖のデスゲームが始まった
死にたい少女エルラ
元気な少女フジノ
強気な少女ツユキ
しっかり者の少女ラン
4人は戦う、それぞれの目標を胸に
約束を果たすために
デスゲームから明らかになる事実とは!?
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
あの子が追いかけてくる
なかじまあゆこ
ホラー
雪降る洋館に閉じ込められた!!
幼い日にしたことがわたしを追いかけてくる。そんな夢を見る未央。
ある日、古本屋で買った本を捲っていると
『退屈しているあなたへ』『人生の息抜きを』一人一泊五千円で雪降る洋館に宿泊できますと書かれたチラシが挟まっていた。
そのチラシを見た未央と偶然再会した中学時代の同級生京香は雪降る洋館へ行くことにした。
大雪が降り帰れなくなる。雪降る洋館に閉じ込められるなんて思っていなかった未央は果たして……。
ホラー&ミステリになります。悪意、妬み、嫉妬などをホラーという形で書いてみました。最後まで読んで頂くとそうだったんだと思って頂けるかもしれません。
2018年エブリスタ優秀作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる