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日常
こんな時は
しおりを挟む何とか仕事をこなしお昼休憩になった。
ロッカールームでわたしがスマホを取り出していると、肩がぽんぽんと叩かれた。振り向くと真由香がにっこりと微笑みを浮かべていた。
「さあ、楽しみなお昼の時間がやって来たよ~」
真由香は満面の笑みを浮かべている。
「あ、うん。そうだね……」
「亜沙美ちゃんてば顔が暗いけどどうしたの? お客さんからクレームでも受けたのかな?」
「違うよ。大丈夫だよ」
「だったらいいけどね。じゃあ、さっき見せた定食屋にでも行ってたらふくご飯を食べて元気になろうよ」
そう言って真由香はニコニコと笑うけれど、今のわたしはその定食屋が暗くなる原因なんだよと言いたくなる。
いつもは真由香のほんわかとした優しい丸顔に癒されるけれど、今日はその顔が悪魔のように見える。
「あ、もう、亜沙美ちゃんってばどうして黙っているのよ。早く行こうよ」
真由香が頬をぷくぷく膨らませたその時、
手にしていたスマホがぷるぷると振動した。画面を見ると『松木』と表示されている。うげっと声を上げそうになるけれど、今は『松木』が救世主のように見えた。
「真由香、ごめん。電話が鳴ってる」と言ってわたしは電話に出た。
「もしもし」
『ぽんこつ先生原稿は進んでいるかな?』
松木の意地悪な声が電話口から聞こえてきた。
「ぽ、ぽんこつって失礼じゃない」
『ふ~ん、だったら亜沙美先生原稿は進んでいるのでしょうか?』
松木の意地悪な含みのある笑い声が聞こえてきた。その顔はきっと唇を歪めているのだろう。
「うっ、それは……」
『それは、どうしたんですか? 亜沙美先生』
「い、一行も書けていません……」
わたしは悔しくて地団駄を踏んだ。
『な、なんと亜沙美先生は一行も書けていないんですか。って、おい、一行も書けていないのかよ!』と松木は大声で叫んだ。
「そんなに大声で叫ばなくてもいいじゃない」
松木の大きな声が耳にキーンと響く。
『亜沙美先生いや、ぽんこつ先生、どれだけ頭が壊れているんだよ。一週間時間をやったのに何をしていたんだよ』
「……何をって仕事をしていたわよ」
『仕事って何の? 執筆かな?』
「コールセンターの仕事だけど……」
わたしがそう答えると、『ふざけるなよ!』と松木が大声で叫ぶものだから耳がキーンと痛くなるではないか。
うるさい男だ。
「松木うるさいよ。わたしだって一生懸命考えているのに何も思い浮かばないんだから仕方がないじゃない」
なんて言いながらちょっと情けなくなってくる。
「だからぽんこつだって言われるんだよ」
「……酷いよ」
わたしは耳に当てたスマホをぎゅっと強く握った。電話口から松木の大袈裟な溜め息が聞こえる。
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