上 下
74 / 75

祐介とカフェノート

しおりを挟む
  
  俺は不思議な旅をしている。見知らぬ女の子とカフェノートを通して旅をしている。

  その女の子は早乙女ちゃん。俺と同じ高校三年生なんだけれど、早乙女ちゃんは西暦二千二十二年の世界の女の子なのだ。

  そして、俺は西暦二千年の世界の高校三年生なのだ。

  カフェノートで『おはよう早乙女ちゃん』と挨拶をすると『祐介君おはよう』と早乙女ちゃんからカフェノートを通して返事が返ってくる。そのやり取りがとても楽しかった。

  早乙女ちゃんの小さくて細かい可愛らしい文字が愛おしい。この気持ちは一体なんだろうかとずっと考えていた。

  過去と未来の世界で俺と早乙女ちゃんは同じルートで関西旅行をした。俺は早乙女ちゃんと過去と未来ではあるけれど同じ空気が吸えたような気がして嬉しかった。

 たこ焼きを食べたりビリケンさんを見たり串カツを食べたり奈良で鹿に会ったり早乙女ちゃんと俺は過去と未来の世界で同じ体験をした。

  だけど、琵琶湖に行って透き通る湖水浴を満喫したあの日早乙女ちゃんからカフェノートを通して手紙が来た。

   それは、『今、宿泊しているこの花風荘はわたしが小学生の頃お父さんと琵琶湖旅行をした時に泊まった宿だったんだよ。

  まったく覚えていなかったのに無意識のうちに選んでしまったのかな?   という不思議なことがありました。早乙女』と書かれている文章を読むと違和感を持った。

  俺と早乙女ちゃんの関係は一体何なのだろうかと……。

  早乙女ちゃんと過去と未来で同じルートを辿る関西旅行は楽しくて大成功した。

  そして、現実の世界で俺は。

「祐介君おはよう~」

「千加子ちゃんおはよう。っておいおい千加子、祐介君なんて呼ぶと早乙女ちゃんに笑われるぞ」
 
  俺はきょとんとした顔で俺のことを見上げる大きな目をした娘の頭を撫でた。

「あはは、お父さんってばお母さんに祐介君て呼ばれているんだ~」

  まだ三歳になったばかりの早乙女が俺の顔をじっと見て笑った。

  俺は早乙女の良い父親になろうと思った。それと、まだ一歳になったばかりの奈央の良い父親になろうと思ったそれなのに。

  いつの日か俺は夢を追いかけ旅に出たり会社を経営しては上手くいかず借金をしては潰したりの繰り返しになってしまった。

  何もかも上手くいかなくなった俺は千加子や早乙女や奈央の前から逃げ出してしまった。

  俺は情けなくて千加子とは離婚をしたけれど、可愛い娘の早乙女や息子の奈央とは一週間に一回は会っていた。

  琵琶湖に旅行に早乙女や奈央と行った時はそれはもう楽しかった。だけど、その後も会社の経営が上手く行かず千加子に呆れられてしまい子供に会わないでと言われたのだった。



  今日、俺は久しぶりに懐かしい喫茶店にやって来た。高校三年生のあの日確かに未来の高校三年生である早乙女ちゃんとカフェノートを通してやり取りをした。

  早乙女ちゃんからカフェノートを通して手紙が来るとわくわくしていた。まさか、その女の子が自分の娘であるなんて夢にも思っていなかった。

  今は西暦二千二十二年の冬だ。俺は今年四十歳になった。まだまだ若いつもりでいるけれど高校三年生の女の子からすると立派なおじさんである。

  そして、俺は高校時代によく座った窓際のカウンター席へと向かった。

  すると、俺がよく座っていたその席に高めの位置でポニーテールにしている女の子が座っていた。

  あの子は、きっと……。

「すみません、あの合言葉は『二十ニ』早乙女ちゃんですか?」

  俺は勇気を振り絞り言った。

  女の子はこちらに振り向き俺を見上げた。その大きな目が俺を見上げる。この子は俺の娘だ。

「祐介君」と女の子は言った。

「早乙女ちゃんですか?」

「はい、早乙女です。祐介君はお父さんだよね?」

  早乙女ちゃんはそう言って満面の笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

私の日常

アルパカ
青春
私、玉置 優奈って言う名前です! 大阪の近くの県に住んでるから、時々方言交じるけど、そこは許してな! さて、このお話は、私、優奈の日常生活のおはなしですっ! ぜったい読んでな!

初恋の味はチョコレート【完結】

華周夏
青春
由梨の幼馴染みの、遠縁の親戚の男の子の惟臣(由梨はオミと呼んでいた)その子との別れは悲しいものだった。オミは心臓が悪かった。走れないオミは、走って療養のために訪れていた村を去る、軽トラの由梨を追いかける。発作を起こして倒れ混む姿が、由梨がオミを見た最後の姿だった。高校生になったユリはオミを忘れられずに──?

CROWNの絆

須藤慎弥
青春
【注意】 ※ 当作はBLジャンルの既存作『必然ラヴァーズ』、『狂愛サイリューム』のスピンオフ作となります ※ 今作に限ってはBL要素ではなく、過去の回想や仲間の絆をメインに描いているためジャンルタグを「青春」にしております ※ 狂愛サイリュームのはじまりにあります、聖南の副総長時代のエピソードを読了してからの閲覧を強くオススメいたします ※ 女性が出てきますのでアレルギーをお持ちの方はご注意を ※ 別サイトにて会員限定で連載していたものを少しだけ加筆修正し、2年温めたのでついに公開です 以上、ご理解くださいませ。 〜あらすじとは言えないもの〜  今作は、唐突に思い立って「書きたい!!」となったCROWNの過去編(アキラバージョン)となります。  全編アキラの一人称でお届けします。  必然ラヴァーズ、狂愛サイリュームを読んでくださった読者さまはお分かりかと思いますが、激レアです。  三人はCROWN結成前からの顔見知りではありましたが、特別仲が良かったわけではありません。  会えば話す程度でした。  そこから様々な事があって三人は少しずつ絆を深めていき、現在に至ります。  今回はそのうちの一つ、三人の絆がより強くなったエピソードをアキラ視点で書いてみました。  以前読んでくださった方も、初見の方も、楽しんでいただけますように*(๑¯人¯)✧*

最期の夏、始める為の終わり

片山瑛二朗
青春
この物語は終わる物語。 少年が青年になり、もう一度立ち上がる。 その前に一度膝を屈する物語。 世代ナンバーワン投手と呼ばれた千葉新。 彼の高校最後の夏、彼にいったい何があったのか、なぜ彼はプロ野球選手としての 将来を嘱望されながら舞台から消えたのか。 この物語が終わる時、もう一度物語の歯車は動き出す。 もう一度言おう、これは終わりの物語、そしてこの物語の続きは ――――再び立ち上がる物語だ。 本作品は「半身転生」の前日譚に当たります。 小説家になろう、カクヨムで掲載しておりますがこの後アルファポリスでも掲載開始いたします。 そちらの方も是非合わせてお読みください。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

お嬢様と魔法少女と執事

星分芋
青春
 魔法少女の嶺歌(れか)はある日をきっかけに不思議なお嬢様ーー形南(あれな)とその執事の兜悟朗(とうごろう)二人と関わりを持ち始める。  引き合わせ、友好関係の築きあげ、形南の隠された過去と様々な事態を経験していき少しずつ形南との友情が深まっていく中で嶺歌は次第に兜悟朗に惹かれていく。  年の離れた優秀な紳士、兜悟朗との恋は叶うのか。三人を中心に描いた青春ラブストーリー。 ※他の複数サイトでも投稿しています。 ※6月17日に表紙を変更しました。

金色の庭を越えて。

碧野葉菜
青春
大物政治家の娘、才色兼備な岸本あゆら。その輝かしい青春時代は、有名外科医の息子、帝清志郎のショッキングな場面に遭遇したことで砕け散る。 人生の岐路に立たされたあゆらに味方をしたのは、極道の息子、野間口志鬼だった。 親友の無念を晴らすため捜査に乗り出す二人だが、清志郎の背景には恐るべき闇の壁があった——。 軽薄そうに見え一途で逞しい志鬼と、気が強いが品性溢れる優しいあゆら。二人は身分の差を越え強く惹かれ合うが… 親が与える子への影響、思春期の歪み。 汚れた大人に挑む、少年少女の青春サスペンスラブストーリー。

処理中です...