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カフェノートのこと
しおりを挟むどんな話をしたのかと聞かれると困ってしまう。これから先の人生のこと以外にお父さんの話もしたけれど、それを亜子ちゃんに話して良いのかなと考えてしまう。
だけど、わたしはお父さんのことも含めて亜子ちゃんに聞いてもらおうと思ったんじゃないのと自問自答する。
「早乙女ちゃん、難しい顔をしてどうしたのかな? 大丈夫?」
「あ、うん、大丈夫だよ。そうそうカフェノートのことを考えていたんだけど、お互いのこれからのことやそのノートの人が夢を叶えたかどうかだけじゃなくてわたしのお父さんのこともノートを通じて聞いてもらっていたんだ……」
わたしは、勇気を出してお父さんのことを言った。因みに亜子ちゃんにはお父さんがいないことは話してある。
亜子ちゃんはわたしの話をじっと聞いていた。
そして、亜子ちゃんは言葉を選ぶように「早乙女ちゃんは、お父さんのことが大好きだったんだもんね。それに今はいろいろ将来について悩む時期だもんね」と言った。
亜子ちゃんはわたしが将来のことで悩んでいたりお父さんのことを考えたりして疲れているのかなと思っているのかもしれない。
カフェノートはわたしの空想だと思っているのだろう。
でも、カフェノートも祐介君とのカフェノートを通しての会話はわたしの空想でも妄想でもないのだ。ノートを通して笑顔や優しい言葉に出会えているのだから。
「……亜子ちゃん、カフェノートを見て」
わたしは、亜子ちゃんの顔を真っ直ぐ見て言った。
「ふへっ? カフェノート!?」
亜子ちゃんは驚いたのか素っ頓狂な声を出した。
「うん、亜子ちゃんカフェノートを読んでね」
わたしは言いながら鞄からカフェノートを取り出した。そして、亜子ちゃんの目の前に置いた。
年季が入っていて染みのある表紙に小さな文字で『2000年』と書かれているカフェノートが存在感を見せつけていた。
「……読んでもいいの?」
亜子ちゃんは目の前に置かれたカフェノートに目を落としそして顔を上げてわたしを見た。
「うん、亜子ちゃんに読んでほしいの」
「分かった。じゃあ、読ませてもらうね」
亜子ちゃんはゆっくりとカフェノートを開き読み始めた。亜子ちゃんのノートに目を落として読む真剣な表情とノートをめくる音だけしかこの空間に存在しない。
そんな感覚に陥った。
そして、亜子ちゃんはカフェノートから顔を上げた。
「こんなことってあるの? 早乙女ちゃん!
びっくりしたよ」
亜子ちゃんはかなり興奮しているようだ。鼻息も荒くなっている。それもそうだろと思う。
だって、わたしの書いた文章に過去の世界に存在している祐介君からの返事が届いているのだから。
「わたしもお返事がカフェノートに届いた時はびっくりしたんだよ」
「早乙女ちゃんこれは奇跡が起こっているんだよ」
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