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カフェノートの向こうから
しおりを挟むわたしは、今日も木の温もりを感じる喫茶店の二階のカウンター席にアイスティーとケーキを注文して座っている。
そして、テーブルの上に置かれているカフェノートを手に取った。
わたしは、祐介君から返事が来ているかなとドキドキしながらノートの表紙をじっと眺めそれから勇気を出して、えいやとノートのページを捲った。
すると、そこには……。
『早乙女ちゃんは半額のケーキを食べたかな? ケーキかいいな。俺もケーキ好きなんだよね。モンブランやチョコレートケーキなんて最高ですよ。じゃあ、またね。祐介』と書かれていた。
わたしは、祐介君が書いてくれた輪郭がぼやけていて少し薄くなっている文字をじっと眺め微笑みを浮かべた。
そして、ペン執り、
『昨日は半額ケーキを買いました。いちごをたっぷり使ったショートケーキとレモンケーキを食べました。もうほっぺたが落っこちてしまうかもなんて思うほど美味しかったよ。あ、それと今、このノートにペンを走らせながらモンブランを食べています』
わたしは、そう書きながらモンブランにフォークを入れ口に運んだ。
マロンクリームが甘くて濃厚で生クリームもたっぷりでたまらなく美味しい。
わたしはモンブランに舌鼓を打ちながら祐介君から返事がくるかなとノートを眺めた。
だけど、返事はこない。スマホを鞄から取り出し時間を見る。わたしがノートにペンを走らせてから恐らく二十分ほど経過しただろう。
そうだよね。過去の世界にいる祐介君が未来のわたしと同じ時間にこのカフェに来ていることそれこそ奇跡なんだよね。
仕方がない、今日返事がなくても次回の楽しみが増えるからいいやと、わたしは前向きに考えてみることにした。
アイスティーに口をつけるとレモンの香りが口の中にふわりと広がった。
わたしは、ペンをぎゅっと握り日記でも書こうかなと思った。その前に祐介君が書いた読み飛ばした文章を探して読むことにした。
カフェノートをわたしはぺらぺらとめくった。過去の記憶がノートに書かれていていろいろな人達の思いが溢れていた。
このカフェノートの中には人生の記憶がたくさん残されている。そう思うと知らない誰かと文章の中で出会えたような気がして不思議な気持ちになった。
○月○日
家族で旅行に行くことになった。なのでこのカフェにはしばらく来られない。高校生にもなって親と旅行だなんてちょっと恥ずかしい。友達に笑われたら嫌だな。それに友達と遊ぶ方が楽しい。
お父さんが家族旅行は思い出になるし、美味しいものを食わせてやるぞと言うので我慢して行くことにした。祐介
わたしは、文章を読み首を傾げた。祐介君は家族旅行がどうして恥ずかしいのかなと思った。わたしだったら喜んで行くのにな。男の子と女の子は考え方が違うのだろうか?
それに、お父さんと旅行に行けるなんて羨ましくて仕方がない。わたしがお父さんと旅行に行ったのはいつだったかなと思い出してみる。
そういえば、小学生の頃にお父さんと琵琶湖旅行に行った。その頃、お父さんとお母さんはすでに離婚をしていたけれど、わたしと奈央はよくお父さんに会っていた。
そんなある日、お父さんが旅行に行くぞと言った。わたしと奈央は嬉しくて飛び上がって喜んだことを今でも覚えている。
琵琶湖で泳いだわたしと奈央は真っ黒に日焼けした。楽しかった思い出がよみがえってくるけれど、あれから一度もお父さんと旅行に行っていないことを思い出した。
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