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  家の前で陽人と待ち合わせをした。
  一緒に登校するのは下校と同じで、中学1年のあの時以来だ。

  玄関を出ると、既に陽人は門の前に立っていて、すごく嬉しそうな顔でソワソワしながら俺を待っていた。



「おはよう、柚希」

「おはよ……二回目だけどな」

「挨拶は気持ちいいから、何回してもいいと思うんだけどな」

「本当に……俺と一緒にいて、平気なのか?」

「俺はまわりの目とか、内申書とか気にしないし。そんな事で不合格にするような高校なんて、こっちから願い下げだよ」

「なんか……ごめん」

「柚希は何も、悪くないでしょ?じゃ、行こうか」



  爽やかな笑顔で俺の手を取り、強引に引っ張る。
  いつもなら恥ずかしくて、振り払う手。
  甘い余韻を思い出すと、堪らなくなって握り返した。



  夜だけじゃなくて……
  朝起きてイチャイチャしてるうちに、二人とも昂ってしまい……
  美空にバレないよう、声を殺して抱き合った。

  ひとときでも、陽人と離れてるのが切なくて仕方なかったけど、学校へ行く支度をする為に陽人は一旦家に帰って、それから待ち合わせた。



  朝から手を繋いで陽人と一緒にいられるだけで、フワフワして夢を見てるみたいだった。
  でも、これが現実なんだって思うと、頬が緩んでニヤけてしまいそうで、口を固く結んだ。



  ちらほら生徒が登校してる姿が見えてきて、慌てて手を放した。俺と陽人が二人で歩いてるのが珍しいのか、人の視線が痛いくらい刺さる。









  1時限目の数学の授業の後、黒板を写したノートを見て、解らなくて考え込んでいた。



「ここ、わからないの?これはこの公式に当てはめて、一つずつ計算してくと……ほら、解けたでしょ?」



  困ってるのに気付いた陽人が、ノートに書き込みながら教えてくれた。



「ありがとう。陽人が教えてくれると、すげーわかりやすい」

「柚希の飲み込みが早いんだって」



  今まで一言も喋ってなかった陽人と俺が喋るようになって、教室でも沢山の視線を感じた。



「はるはる~、ゆずゆず~、おはよぉ」

「陽人、柚希、少し時間いいか?」



  数学の教科書とノートを片付けていると、廊下から二人の客人に呼び出された。

  成都は相変わらずふわっとしていて、征爾は眉間に皺を寄せ難しい顔をして立っていた。
  様子からして、あまり人に聞かれたくない話みたいだ。教室から出て人気のない廊下の隅へ移動し、4人で向かい合った。



「今朝登校してきた轟なんだが、眼帯や包帯、痣だらけで……どうやら暴行を加えられたようなんだ」

「他にも不良達で凹られてる人が何人かいてぇ、大夢をいじめてた主犯格グループの3人も同様にやられてたよぉ」

「柊側に動きがあるみたいなんだが、何かわからないか?」



  聞きたくない名前を朝から聞いて俯くと、陽人がギュッと手を握ってくれた。動揺して早まった鼓動が、陽人の手の温もりで少しずつ落ち着いてきた。



「昨日……柊が学校にいたんだ。樋浦建設の社員として来てたみたいだけど……多分、柚希の事を探す為だと思う。俺と変装した柚希に出くわしたから……もしかしたら、気付かれたのかもしれない……」

「陽人は落ち着くまで、一緒に帰れないだろう?とりあえず、今日の帰りはいつも通り変装して、誰か護衛を付けるようにしよう。俺の方で探してみる。あとは、不良達の動きに注意して、動きがあるようなら、早急に対策を考えた方がいいな」

「征爾、すぐに連絡しなくて悪かった。迅速に動いてくれて、ありがとう」

「陽人は柚希の側にいてやれ。顔色がすごく悪い……保健室で休ませたらどうだ?」

「ゆずゆず、大丈夫?無理しないで、休んできなよぉ」

「二人とも、悪ィ……いろいろと、ありがとな……」

「柚希、休んでこよう」

「陽人、ごめん……」

「柚希の事、寝不足にしちゃったからね。俺の方こそ、無理させてごめん」



  心配そうな顔で陽人が覗き込んできて、繋いでる手を強く握って絡めてきた。
  寝る時間ですら惜しくて、激しく求めあった夜を思い出す。指先でも陽人と繋がっていると、嫌な事を忘れられるような気がした。






「じゃあ、またねぇ~」

「また、連絡する」

「征爾、成都、ありがとう。また、後でね」



  陽人は二人にすまなそうに顔を向けた後、保健室へ向かった。征爾も成都も心配そうに、見送ってくれている。
  休み時間も終わりに近付き、廊下に人は少なくなっていた。陽人は俺を見つめながら、繋いでいる手を隠すようにして、離さないでいてくれた。






「あの二人、うまくいったのかなぁ。なんか雰囲気が、すごく良い感じに変わったぁ」

「気さくで隠し事なんてしない陽人が、柚希の事だけは俺達に紹介せず、一言も話さないで隠してたんだ。それだけ、大切で心底惚れてるんだろうな」

「はるはるってああ見えて、独占欲強いんだねぇ」

「男はみんなそうだ」

「せいじぃも、そうだもんねぇ。ふふふ」

「わかってるなら、いつも俺の側にいろ」

「ふふ、照れてるぅ」

「……いいから、教室に戻るぞ。授業が始まる」

「はぁ~い」



  俺と陽人を見送りながら、仲睦まじく二人は暫く喋った後、チャイムが鳴る前に早足で教室へ戻って行った。


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