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  旧校舎の三階奥にある男子トイレで、女子の制服へ着替え変装をし終えた。

  演劇部の部室で着替えて良いって言われてたけど、部員は女子ばかりだし迷惑かけるのも悪くて使うのに躊躇してしまう。

  旧校舎は資料置き場や予備の教科準備室、あとは体育祭や文化祭とかの準備や用品の保管で使ったりしているだけだから、普段は人の出入りはほとんどない。ましてや最上階の三階なんて誰も来ない。



  今日は陽人は生徒会の仕事があるから俺一人で下校だ。変装してるとはいえ、陽人には十分に気を付けてと言われたし、俺自身ここ何日かの出来事で、自分のような人間でも性的に狙われるという事を思い知らされた。とは言っても、女装する事で誰にも気付かれない事に、少しだけ気が緩んでしまう。






「おい!廊下は走るなって言ってるだろう!」



  さっさと帰ろうと男子トイレから出て、全速力で走ってると、後ろから怒号が飛んできた。
  聞き覚えのある、俺の嫌いな奴の声だ。
  恐る恐る後ろを振り返る。
  いつも俺を叱りつける、生徒指導の山崎が苛ついた顔で仁王立ちしていた。



  ーーヤバい……こいつにバレたら、本当にマズイ……説教とかも、すげー長いし……下手したら美空が呼び出される……なんとか誤魔化さないと……



「おまえ、名前は?」

「え…遠藤莉奈です」

「何年だ?」

「1年3組です」



  こんな事が必要あるのかなって思いながら、陽人と細かい所まで設定していたけど、今この瞬間その設定に助けられた。



  山崎は険しい顔をしながら、暫く考えていた。



「遠藤莉奈……?俺の知ってる生徒とは違うな」


「遠藤です……」

「ここから生徒指導室へ行くには遠いから、この校舎の二階の体育教官室に行くぞ。少し話を聞かせてもらう」

「はい……わかりました……」










  予備の体育教官室はほとんど使われてないのか窓は閉めっきりらしく、埃っぽくて空気が汚れていて息苦しかった。机の上には何も置いてなくてすごく殺風景だ。そんな机の横で背もたれのあるキャスターの付いた椅子に山崎はどっかりと座り、俺はその前に立たされて下から睨まれていた。



「さっき男子トイレから出て来てたな?」

「ち、違います…」

「おまえ、本当に女子か?」

「女です…」

「確かに見た目だけなら、完璧な女子生徒だな……」



  遠藤は椅子から立ち上がり、ぐるっと回って俺の背後へ立った。



「でもな、俺はこの学校の生徒、一人一人の顔と名前を完璧に覚えてるんだ。女子生徒の中に、おまえみたいな顔の奴はいない」



  ーーマズい……バレてるのか?でもまだ、俺だって気付いてないから、多分大丈夫だ。



「ひっ……」

「今から身体検査させてもらう。動くなよ……」



  遠藤は背後から抱きついて、耳元で囁いた。
  身体なんか調べられたら、男だってバレてしまう。



「せ、先生!やめて!」

「だから暴れるな」



  腕の中から脱出しようと、藻掻き抗った。
  胸の辺りにある、山崎の大きくて節くれだった手がすごく不快だった。



「そんなに動くからシャツに擦れて、ほら、勃ってるぞ……」

「やっ……!」



  両手で胸を揉みしだき、乳首を摘ままれた。



「女子なのに、ブラジャー着けてないのか?」

「む…胸が小さいから……」

「胸が小さくたって、こんなに厭らしく乳首勃てたら痴漢にあうだろう?ダメじゃないか?」

「あっ、やぁっ……」



  山崎はコリコリと、乳首を親指と人差し指で捏ね繰り回す。



「それとも、厭らしい身体を痴漢してほしくて、わざとブラジャー着けないのか?」

「ちが……ちが…う……」

「さっきより固くなって大きくなってるぞ……随分開発された淫乱乳首だな……」

「やめ……やっ」

「なんだ……?女なのに、スカートの前が膨らんでるぞ?」

「みっ、見ないで!」

「ははっ……でもお前のここは触ってほしくて、主張してるな……」

「やだ……ちが……やめ…て……」



  焦らすように遠藤の手が太ももを撫で回しながら、息を荒げて囁いた。腰の辺りに硬くなった遠藤の逸物が当たっていて気持ち悪い。



「おとなしくすれば、黙っといてやる、内海」



  身体が硬直して、鼓動が激しくなった。
  冷たい汗が頬を伝う。



「……わかってて…わざとかよ……卑怯だぞ、セクハラ教師……」

「お前の事は初めて見た時から、気に入ってたんだよ。まさか、こんなチャンスが来るなんてな……」

「……俺が騒げば、困るのは教師のあんただ…」

「大声、出すなら出してみろ。この学校で10年以上真面目に教師を勤め、保護者や他の教員、教育委員会にも厚く信頼されている俺と、素行も家庭環境も悪くて半グレと付き合いのあるお前……まわりはどっちを信じると思う?それだけじゃない……お前に名前を貸した遠藤莉奈だって、ただじゃ済まないぞ」






  莉奈ちゃん……

  俺の為に動いてくれた莉奈ちゃんまで捲き込むなんて……

  そんな事、絶対に出来ない……

  それに山崎の言う通りだ。



  俺は『オオカミ少年』と同じだ。



  俺自身は嘘はついてないけど、嘘ばかりの噂話で、勝手に自分のイメージが悪いように作られてしまっている。

  山崎が言った嘘を、まわりはきっと信じる。

  今までだって、俺が何を言っても誰も信じてくれないからって、諦めてきた。

  だから、誰とも関わりたくなかったし、独りでいる事を選んできた。






  そうだよ……
  また、いつもみたいに、
  諦めればいいだけ。
  俺が我慢すれば、
  莉奈ちゃんが助かるんだから……






「ははっ……わかればいいんだよ……」



  抗うのを止め、力を抜いて目を瞑った。
  山崎は鼻息を荒くし、机の引き出しをめいいっぱい開けた。



「触る度にピクピクさせて……スケベな身体だ……この引き出しにあるオモチャの中で、内海が好きなの選んでいいぞ。それでたっぷりと、嬲って可愛がってやる……」

「うぅっ……」

「これがいいか?こっちにするか?オモチャは初めてだろう?内海は敏感だから、何回でもイキそうだな。好きなだけイッていいぞ」



  おとなしくなった俺の身体を、再び厭らしく弄りながら、山崎は電マを取り出した。









「いやァ~、マジのセクハラの現場ァ、撮れちゃいましたァ~」

「おまえ……!」



  教官室のドアが開けられ、知らない男子生徒が入って来た。手にはデジタルビデオカメラを持っていて、ランプが赤く光ってるから録画中だ。



「やっべぇ~、これタイトル何にしよ。『セクハラ教師が嫌がるDCを職員室で陵辱』かな?『先生はショタが好き♡』かなァ?マジで悩む」

「おい、ふざけるな!」

「はぁ?ふざけてんの、あんたじゃねぇの?山崎せんせぇ。あんたのクズ発言もちゃんと録画されてるから、言い訳出来ないよォ」

「くっ……!」

「ま、取引してやってもいいよォ。あんたはこの事を見逃して、尚且つ絶対に口外しない。それと、柚希ちゃんには今後一切近付かない。その代わり、俺もあんたのやった事は黙認する」

「……わかった。そっちが破ったら、こっちにも考えはあるからな…」

「裏切らないって。だって、こんなイケメンで誠実そうな顔の俺が、そんな事する訳ないでしょ。ねっ?」

「………………とにかく、約束は守れよ」

「あれぇ~なんかはぐらかされたァ?すげー悲しいんだけどォ。……まっ、約束はちゃんと守りますわァ」



  山崎は俺を突き飛ばすと、男を睨んで乱暴にドアを閉めて出て行った。






「柚希ちゃん、大丈夫ゥ?」



  チャラい男が茫然と立ち竦む俺の肩を、後ろから抱きしめて慰めてきた。
  山崎の暴言とセクハラが地味に効いていて、放心状態になってしまい、返事をする事が出来ない。

 

「元々可愛いのに柚希ちゃんの男の娘姿、ヤバいくらい可愛いわ。カメラのレンズ越しで見てて柚希ちゃんすげー色っぽいから、俺途中から変な気分になっちゃってさァ」

「アッ、やめッ……」



  男はシャツにくっきりと形が現れてる、肥大した尖りを指で弾くように弄り始めた。その痺れるような刺激に、ガクガクと膝が震える。



「柚希ちゃんも、こんなんじゃ、スッキリした方が楽っしょ?その後は俺と一緒に、いっぱい気持ちよくなろーねぇ」

「んっ……」



  耳元で甘く囁きながら、耳へ繰り返しキスをしてくる。山崎によって昂られた身体は貪欲で、男からの快楽を受け入れてしまう。スカートを盛り上げてる俺の熱は益々膨らみ、男の細くて綺麗な指がそれに触れようとしていた。


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