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  手を繋いでるのを人に見られるのが、どうしても照れ臭くて……

  部室から出る時に「やっぱり、無理」って絡めた指をそっと解いた。陽人は少し寂しそうだったけど、わかったって言ってくれた。



  一緒に並んで下校するのが馴れなくて、緊張して何も喋る事が出来ない。陽人も珍しく緊張してるのか、ずっと無言のままだ。綺麗な顔にうっすらと笑みを浮かべていて、一見余裕な感じに見えるけど、小さい時から見てるから何となくわかった。



  そんなに距離がある訳じゃないのに、校門までの道のりが、やけに長く感じた。






  沈黙が続く中、部室で陽人が言っていた事を思い出していた。



『女の子の格好でも柚希は可愛いから、またナンパされそうだよね……その時は俺と恋人のフリしようか』



  陽人の考えたアイデアだった。
  彼女とは最近別れたって言ってたから、ちょうど今はフリーみたいだ。



  例え形だけだとしても、陽人の恋人になれるという事に、幸せな気持ちでいっぱいになった。



  名前は莉奈ちゃんの名前を借りてるから、人前では「遠藤莉奈」を演じなきゃいけない。

  陽人は恋人らしく呼び捨てで「莉奈」って呼ぶ事になった。クラスは莉奈ちゃんと同じ1年3組って設定を決めた。









「陽人先輩……お話しがあるんですけど……良いですか?」



  校門から出る前に二人組の女子に、後ろから突然声を掛けられた。一人はモジモジしていて、一人はその子の背中に手を添えていて……
  雰囲気的に告白しに来たんだって、直感で感じた。



「何かな?ここで話せない事?」

「はい……出来れば二人だけのが良いです……」

「じゃ、莉奈ここで待っていて」

「…………」

「莉奈?」



  ーーあっ、俺は今“莉奈ちゃん”だった……



  忘れていて返事をしなかったら、陽人が顔をのぞいてきたから慌てて頷いた。



  二人は旧校舎の人気のない方へ歩いていった。



  その姿をずっと目で追っていた。

  正直、気になって仕方がなかった。



  陽人が自分以外の誰かと、二人きりでいる事がすごく嫌だった。






  ーーこんな事しちゃ、ダメだろ……



  そう思ってるのに、二人の後をつけてしまった。
  二人は旧校舎の昇降口前で立ち止まると、向かい合う。俺はちょうど死角になる、昇降口の入口横の凹んだ場所に隠れた。



「…………陽人先輩、好きです。私と付き合って下さい……」



  陽人は彼女を見つめたまま、少しの間黙っていた。そして真剣な眼差しになり、意を決したように口を開いた。



「ごめんね……好きな子がいるんだ。保育園の時から、ずっとその子の事が好きなんだ。だから……ごめん……」



  陽人にキッパリと断られ、女の子は俯いたまま泣いていた。暫くすると「スッキリしました。ありがとうございます」と、晴々とした表情で足早に去って行った。









  初めて聞いた……
  陽人に好きな子がいたなんて
  そんなの知らない……
  保育園からって
  一体、誰なんだよ……



  陽人とは子供の頃から、何でも話し合ってきた。
  まさか、その陽人に隠し事があるなんて知らなかった。
  隠していた事もそうだけど、ずっと好きな子がいたという事実が、ものすごくショックだった。






  ーーあぁ…くそ……なんで………涙、止まんないんだよ……



  告白した女子より、何倍もボロ泣きしていた。



  陽人が他の子といるのが許せなくて、

  誰かを好きなのが、悲しくて、苦しくて……



  自分がこんなに欲張りな人間だなんて、思わなかった。

  

  陽人が俺に気持ちがなくても……
  ひとつになれただけで幸せで嬉しくて、
  それだけで十分だった筈なのに……



  ひとつ手に入ると、次が欲しくなるみたいに、俺の心は欲張りで……
  


  陽人の気持ちまで、欲しいと思ってしまう。






  陽人は『友達』なんだ……

  それ以上にはなれない。

  恋人になりたいだなんて、望んじゃいけないんだ。

  例え上手く行ったとしても、結婚も子供も望めない。

  そうなれば、いずれは『別れの時』がくる……

  欲張ってしまえば、陽人を失う事になる……



  ずっと一緒にいたいなら、
  このまま、友達のまま
  側にいる事が一番なんだ。



  冷静になり、現実をみて、自分の気持ちに蓋をした。
  待っていてと言われた校門前へと、重い足を引き摺るようにして戻った。
  





「柚希……!無事で良かった……ナンパとかされなかった?大丈夫?」



  いなくなった事を咎めないで、俺の事を心配してくれる。



「トイレ行きたくて……人目に付かない所探してたら、時間かかって……」

「あっ……男子トイレ入れないからか……気付かなくてごめん」



  トイレなんて嘘なのに、気遣って謝ってくれる。



「謝んなくていいから……」

「柚希……元気ないね。嫌な事あった?」



  様子が変だと、すぐに気付いてしまう。



「探してて疲れただけ。気にすんなよ」



  これ以上、優しくされると辛い……



「……んっ、そっか。柚希、疲れたなら……甘いもの食べたくない?どっか行こう」



  そう思っていた時、陽人は突拍子もない事を言い出した。



「……学校帰りに寄り道、禁止だろ」

「ふふっ、マジメだな。俺は柚希とデートしたい」

「なんだよ、デートって」

「行きたいお店があってさ、実は今から行くって連絡しちゃったんだよね」

「俺、小遣いそんな持ってないから、いいよ」

「友達の家だから、大丈夫」

「陽人の友達じゃ、余計悪いし……」

「恋人と行くかもって言ったら、『絶対連れて来て!』ってうるさくてさ。友達の手前、付き合ってよ!お願いっ!」

「しょうがねぇな……わかったよ…」



  片手でごめんてポーズで、目を瞑って必死に懇願する陽人が可愛らしくて、断ることが出来ずに半ば強引にデートする事になった。



  さっきまで落ち込んでたのに、陽人の仕草にときめいて、デートをするのが嬉しかった。



  元々感情の波は激しい方だけど、陽人の事になると今まで以上にすごく不安定だ。



  ーー人を好きになると、強くも脆くもなるんだな……






  柊によってボロボロになった心と身体は、陽人に抱きしめられ、慰められた事で傷が癒える事が出来た。

  陽人が誰かと仲良くしたり、好きな子の存在が悲しくて、嫉妬したり、落ち込んだりして傷ついてしまう。



  ただの友達同士だった頃には、こんな気持ちにならなかった。






  一緒にいられて、すごく幸せなのに……



  苦しくて、辛い……





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