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  月曜日の放課後、下校時間が過ぎてるのに、学校から出る事が出来ない。
  プールのコンクリートの擁壁沿いに息を潜めるようにしゃがみこみ、 警戒しながらそっと校内を覗き見る。洗ったばかりの真っ白な上履きは、土足で走り回ったせいで泥が付いて薄汚れていた。



  隠れ処の、屋上近くに2人。
  保健室のまわりに、3人。
  校門付近に、6人以上。
  校庭には何人いるのかすら、わからない。

  校内のあちこちに、学校中のヤンキーが彷徨いていた。



  ーーなんで、こんな事になってんだよ……!










  カシャッ



  ーーシャッター音?聞こえた気がするんだけど……それに視線…誰かに見られてる……?



  登校中、カメラのシャッター音といくつかの視線を感じて、周囲を見渡した。よく見かける同じような顔ぶれで、怪しい人物や車なんかはなかった。いつもの光景と特に変わりはなく、何の問題もない。



  ーー気のせい…?か……



  なんか変だ
  いつもと違う

  学校へ着いてからも、教室にいる時も、休み時間になっても……

  違和感は感じたけれど、確証みたいな物がつかめない。
  一応、警戒して度々まわりを気にしてみたものの、やはり何ら変化はない。そんな事を繰り返しているうちに、しまいには気にも留めなくなってしまった。






  ーー陽人……



  頭の中は陽人の事でいっぱいだった。
  陽人が家へ帰った後も、今朝目が覚めてからも、気が付くと陽人の事ばかり考えていた。
  


  帰ったら、陽人に会える……

  リハビリ……するのかな…?

  たくさん、キスしたい……

  陽人に触れたい……

  もしかしたら…今日は陽人と…………



  陽人の事を考えると、心がじんわりとあたたまり、体が熱くなった。心臓が激しく動き、生きてるって感じがした。
  それと同時に、考えれば考えるほど、逢いたくて仕方がない。



  ーー今すぐ逢いたい……



  愛しい人と離れているのが、こんなにも寂しくて苦しい事だなんて、気持ちに気付く前は知らなかった。友達だった頃の寂しさとは違い、逢えないというだけで虚無感まで感じてしまう。



  早く時間が過ぎてほしいのに、そんな時に限って時計の針は進まなくて…
  教室の時計を何度見ても、時間はさっきと同じままで動かない。
  1秒がまるで1分のように感じる。






  キーンコーンカーンコーン……



  終礼が終わり、待ち望んでいたチャイムが鳴った。
  一日がゆっくりと動いていて、ものすごく長く感じた。



  ーー陽人に逢える!



  バッグを肩に担ぎ、猛ダッシュで教室を飛び出した。その時、舌打ちや怒鳴り声が聞こえた気がしたけど、今はそんな事どうでも良かった。



  走るのだけは、昔から早かった。



  小学校6年までは運動会でリレーの選手に選ばれて、いつもアンカーで陽人と競っていた。

  何でも出来る優等生の陽人と、走る時だけは対等になれた。

  劣等生の俺が陽人と同じ場所へ立てた気がした。それがすごく嬉しくて、自分に自信を持つ事が出来た。



  ーー中学になってからは、逃げる時しか走ってないな。また陽人と、思いっきり走りたい。






  そんな事を考えている時、昇降口の方から人のざわめきが聞こえてきた。



  苛立って焦ってるような声や、バタバタと走り回る足音がして、やけに騒がしい。声の感じから、男連中が群れでいるみたいだ。

  うるさいな、と思いながらも逸る気持ちで下駄箱へ向かい、廊下を走る。

  だんだんと声が近付き、耳に入ってきた話の内容に、冷たい汗が流れ、背筋が凍りついた。

  慌てて足を止め、下駄箱手前の階段脇にある、大きな防火扉へひっそりと身を潜めた。






「内海、いたか?」

「こっちにはいねぇ」

「あのチビ逃げ足早いし、影が薄すぎて見つけにくいわ」

「顔以外なら、ボコっても良いって。見つけ次第、捕まえろ!」

「急がねぇと、樋浦さんイラついてて、マジでヤバいから!」






  ーーうそ…だ…ろ………


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