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第19章:母親

4話

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「実際、いないほうがいいだろ?」
「うん、父さんもヤクザなんていないほうがいいって言ってる。ま、そのためには犯罪者を自動で検出する装置が出来たり、人間が働かなくてもいい位にAIが発達した世界にでもならないと無理かもね……で、そんなことよりも本題。母親、どうするの? あんたの母親ね、子供は……あー、つまり裕也は自分のことを求めているはずって、なぜか信じて疑っていないのよ。
 明日香やあなた、父さんから聞いた話でしかないにせよ、あんたの母親が相当のロクデナシなのは私も知ってる。……父さんね、こう言ってた。あんたの母親はさ、体を提供することでしか誰かに必要とされた経験がないってさ。でも、結構顔はいい方だから、体さえ提供すればどんな男もその間だけは大事にしてくれたんでしょうね……だけれど、刑務所に入って、自分を愛してくれる人、大切にしてくれる人がいない日々を味わって。そこでどんな心境の変化があったのかはわからないけれど、あなたに対して執着が生まれたみたい」
「なんだよそりゃ、迷惑な……何がどうなったらそんなことになるんだ?」
 百合根が語る言葉に、
「ふむ……刑務所で囚人の監視をする刑務官ってさ。子供がいる女性の囚人に対して、なんて声をかけるか……割と悩むと思うのよ。囚人の中には外の世界へ出るのを怖がっている人もいるし。そんな人を励ますために、『子供のためにも、立派に更生しましょう』『子供のために頑張りましょう』『きっとお子さんも、寂しがってますよ』って、励ますようなこと、無きにしも非ずだと思うの。もちろん、これは私の勝手な決めつけだから、そんな迷惑な刑務官がいるかどうかはわからないけれど……でも、世の中、お花畑な人間もいるからさぁ。
 あなたの都合を考えずにそんなことを言った刑務官がいたかもしれないし……同じ囚人仲間からそんな風に励まされたかもしれないし……うん、なんにせよ、あなたの母親はあなたからの愛を求めている。それが、父さんの見立て。子供と親の絆っていうのは、傍から見ればそれくらい強く見えることもある。
 その絆を、母親が捨てたとしても、子供はそれでも母親を求めてるって、疑わない人はいるものよ。そういう人のそばで、何度も何度も励まされたら……ま、全て仮定というか推測なんだけれどさ」
「なんか、そう言われるとあり得ない話じゃないように思えてきた。周りの人も、希望を持たせるためにそういうことを言いそうだし、言われ続けたらそうもなるかもしれない、って」
「まぁ、なんにせよあなたの母親があんたと会いたがっていて、そのうえで体をちらつかせればあなたを手籠めにできると思い込んでいる。私も言っていて気持ち悪くなっている案件だし、あなたが母親に会いたくないという気持ちは、私も理解はできる。でも、その気持ちは別として、決着つけなくちゃいけないんじゃない?」
「……わかった。しゃーね―……そこまで話をこじらせてるなら、もう俺が出るしかないだろうしな。だけれど、あのクソ婆は俺に会えたらどうするって言っているんだ?」
「もう一度親子をやり直すんだって。呆れるわね」
「へー……まぁ、そこまで言うなら、その言葉がどれだけの真実か、会ったときの態度で見極めてやるか。どうせ、ダメなんだろうけれど」
 裕也が大きくため息をつく。全く、逮捕されてからも面倒な奴だ。
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