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第16章:恋心の行方
5話
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「……大丈夫、今川さん?」
催涙スプレーを吹きかけたのは素華であった。実は彼女は同じ電車に乗っていたのだが、催涙スプレーを室内で使ってしまうと、地獄絵図になってしまいかねないので、降りるタイミングを見計らって使用したのだ。きちんと今の状況も録画中、悪党を見逃すつもりはない。
「こんな顔が怖い馬鹿そうな男に向かっていくなんて勇気あるじゃん。こういう馬鹿は、馬鹿だから後先考えずに行動するでしょ? 何の得もないのに、馬鹿みたいに抵抗して状況を悪くする馬鹿だと思ったら案の定! 馬鹿だから痴漢だけじゃなくって暴行傷害の罪まで犯して、ホント馬鹿!」
素華は大きな声を上げながら少しずつ歩いて移動する。その移動する場所とは、ホームの白線に近いところ。馬鹿、馬鹿と連呼された男は頭に血が上ったのだろう。催涙スプレーの激烈な刺激で今だ目も開けられないし、ゲホゲホと咳も止まらないのに、立ちあがって素華の声がする方を向く。
「てめぇ……ゲホッ」
「あら、じっとしていたほうがいいよ? 馬鹿にもわかりやすく教えてあげるけれど、私に手を出そうとしたら死んじゃうかもよ? 私は危険な女なの」
「うるせぇ! 黙れゲホッ」
そう言って、視力も完全に失われ、おぼつかない足取りで素華のほうへと向かっていく。素華は雑踏に紛れるよう、足音をなるべく立てないようにしてその場から離れた。男はそれに気づかない、そして……一時的に視力を失った彼は気付いたときには足を踏み外していた。体が傾き、転んでいる、落ちている、そう気づいたときにはもう手遅れで。
線路の上に落ちた男は手をつくのが間に合わず、顔面を思いっきり地面に打ち付け、胸は線路にもろに打ち付けてしまった。
「あー……マジかー本当にここまで馬鹿だったとは。痛そう」
どうにも直情的に行動するような奴だというのがアキラとのやり取りで感じられたので、もしかしたら挑発すれば線路に落ちるんじゃないかと思ったが、ここまでうまくいくとは思わなかった。
「おい、あいつ落ちたぞ!」
「駅員呼べ駅員!」
「これどうすりゃいいんだ、電車止めるのか? 駅員待ったほうがいいか?」
周りが騒がしくなる。電車はついさっき行ったばかりなので、すぐ轢かれるという危険はないだろう。駅員もすぐ来るみたいだし。
「電車が止まったら申し訳ないなー……まったく」
ため息をつきながら素華は苦笑した。警察官と駅員がやってくると、大慌てで電車の停止を行い、数人がかりで男は引き上げられた。
「ごめんね、慰謝料も取りたかったかもだけれど、あんな怪我をしたんじゃ払えるもんも払えなくなっちゃうかも」
痴漢の男は顔面からは血が溢れ、腕は折れているように見える。肋骨も、ヒビで済めばいいのだが。こんなことをしでかしたのでは当然仕事はクビだろうし、再就職は社会的にも身体的にもしばらく不可能。治療費も考えれば、痴漢被害にあった女の子や、アキラガ障害の慰謝料を請求できるとしても、支払いはいつになるかという状況だ。
「いいえ、私は大丈夫です……すっきりしました。痴漢したり、暴力を振るうための腕なんて折れちゃえばいいんですよ」
痴漢をされていた女生徒は、苦しみ呻きながら救急車の到着を待つ男を眺めてそう言った。
「大丈夫そうでよかった……はぁ、なんにせよ、警察に行かないとね」
「付き合うよ。他にも動画を取っている人はいるだろうし、証言には困らないと思うから」
警察は大怪我をした痴漢の犯人のほうにつきっきりだが、それが終わればこっちに来るだろう。1限目の授業には出られそうにないなぁと、アキラたちはため息をつくのであった。
催涙スプレーを吹きかけたのは素華であった。実は彼女は同じ電車に乗っていたのだが、催涙スプレーを室内で使ってしまうと、地獄絵図になってしまいかねないので、降りるタイミングを見計らって使用したのだ。きちんと今の状況も録画中、悪党を見逃すつもりはない。
「こんな顔が怖い馬鹿そうな男に向かっていくなんて勇気あるじゃん。こういう馬鹿は、馬鹿だから後先考えずに行動するでしょ? 何の得もないのに、馬鹿みたいに抵抗して状況を悪くする馬鹿だと思ったら案の定! 馬鹿だから痴漢だけじゃなくって暴行傷害の罪まで犯して、ホント馬鹿!」
素華は大きな声を上げながら少しずつ歩いて移動する。その移動する場所とは、ホームの白線に近いところ。馬鹿、馬鹿と連呼された男は頭に血が上ったのだろう。催涙スプレーの激烈な刺激で今だ目も開けられないし、ゲホゲホと咳も止まらないのに、立ちあがって素華の声がする方を向く。
「てめぇ……ゲホッ」
「あら、じっとしていたほうがいいよ? 馬鹿にもわかりやすく教えてあげるけれど、私に手を出そうとしたら死んじゃうかもよ? 私は危険な女なの」
「うるせぇ! 黙れゲホッ」
そう言って、視力も完全に失われ、おぼつかない足取りで素華のほうへと向かっていく。素華は雑踏に紛れるよう、足音をなるべく立てないようにしてその場から離れた。男はそれに気づかない、そして……一時的に視力を失った彼は気付いたときには足を踏み外していた。体が傾き、転んでいる、落ちている、そう気づいたときにはもう手遅れで。
線路の上に落ちた男は手をつくのが間に合わず、顔面を思いっきり地面に打ち付け、胸は線路にもろに打ち付けてしまった。
「あー……マジかー本当にここまで馬鹿だったとは。痛そう」
どうにも直情的に行動するような奴だというのがアキラとのやり取りで感じられたので、もしかしたら挑発すれば線路に落ちるんじゃないかと思ったが、ここまでうまくいくとは思わなかった。
「おい、あいつ落ちたぞ!」
「駅員呼べ駅員!」
「これどうすりゃいいんだ、電車止めるのか? 駅員待ったほうがいいか?」
周りが騒がしくなる。電車はついさっき行ったばかりなので、すぐ轢かれるという危険はないだろう。駅員もすぐ来るみたいだし。
「電車が止まったら申し訳ないなー……まったく」
ため息をつきながら素華は苦笑した。警察官と駅員がやってくると、大慌てで電車の停止を行い、数人がかりで男は引き上げられた。
「ごめんね、慰謝料も取りたかったかもだけれど、あんな怪我をしたんじゃ払えるもんも払えなくなっちゃうかも」
痴漢の男は顔面からは血が溢れ、腕は折れているように見える。肋骨も、ヒビで済めばいいのだが。こんなことをしでかしたのでは当然仕事はクビだろうし、再就職は社会的にも身体的にもしばらく不可能。治療費も考えれば、痴漢被害にあった女の子や、アキラガ障害の慰謝料を請求できるとしても、支払いはいつになるかという状況だ。
「いいえ、私は大丈夫です……すっきりしました。痴漢したり、暴力を振るうための腕なんて折れちゃえばいいんですよ」
痴漢をされていた女生徒は、苦しみ呻きながら救急車の到着を待つ男を眺めてそう言った。
「大丈夫そうでよかった……はぁ、なんにせよ、警察に行かないとね」
「付き合うよ。他にも動画を取っている人はいるだろうし、証言には困らないと思うから」
警察は大怪我をした痴漢の犯人のほうにつきっきりだが、それが終わればこっちに来るだろう。1限目の授業には出られそうにないなぁと、アキラたちはため息をつくのであった。
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