303 / 423
第14章:愛情不足の代償
15話
しおりを挟む
「じゃあ、私も家族に暴力を振るえっていうんですか!? そんなことしたって愛されるわけもない!」
望海が感情的になって声を上げる。真由美の方法はあまりにも乱暴だ、そんな方法で愛を手に入れられるわけがない、と。だが、真由美が言いたいのは愛を手に入れる方法ではない。
「違いますよ。愛されなくっても別にいいじゃないですか」
愛を返してくれない相手のために、愛されるための努力をするのは辞めたほうがいい、と真由美は言いたいのだ。
「私は家族に愛されていないとは言いませんが、少なくとも、父親には愛されていなかった。母親には愛情があるから育てて貰えているわけじゃなく、寂しいからそばに置きたいだけのような感じですし。今は、妹と、部活の仲間のほうがよっぽど……心を通い合わせられている気がします。両親なんかよりもずっと、愛されている気がします」
言いながら真由美はつばを飲み込み望海を見つめる。
「……何よりあなたは、ただ同じ部活で歌を歌っている仲間というだけで、体を張ってくれる人がいるじゃないですか。家族に相談する前に、そんな人に弱音を漏らせたってことは、それが答えなんだと思いますよ。心の奥底では、家族よりも、部活仲間のほうを信用してる」
「そりゃ……あんなこと、家族に言ったら、今以上に……家族にバカにされて、疎まれるだけで」
「話を聞く限りだとそうなんでしょうね。だとしたら、辛いときに助け合えないのを、家族だなんて言いませんよ。実際、私を助けたのは家族じゃなく、その時点では赤の他人だった相撲部でした。あなたを助けたのも、血のつながりなんてない赤の他人だったじゃないですか?」
真由美に言われた望海は、俯き首を横に振る。すぐに受け入れられる話ではないが、反論をしないところを見ると、頭の中ではわかっているらしい。感情的に反論をすることもしない。
「私は飯塚さんのことを、ただの合唱部の部員ということしか知りません。でも、貴方のことを私よりもよく知っている人が、あなたを心配しています。もしも、貴方と血のつながりがある存在が、あなたのことを心配していないというのなら……いっそ、捨てちゃってもいいんじゃないですかね? 私は、今の母親にそうしようと考えています」
「真田さんは、それで辛くないんですか?」
「辛いですよ。でも、辛くても、相撲部のみんながいて救われるんです。人を助けてくれる人の傍って、すごく居心地がいいんです。皆優しくて……気のいい人たちだから。望海さんも、近くにいる人を、もっと信頼したほうがいいと思います。
遠くの親類より近くの他人……これは何も物理的な距離だけじゃなく、心の距離も、だと思いますよ?」
真由美が自身の経験を交えて語る話に、望海が思うところは多い。しかし、彼女はまだ家族をあきらめきれない、家族の愛を求めてしまう。
望海が感情的になって声を上げる。真由美の方法はあまりにも乱暴だ、そんな方法で愛を手に入れられるわけがない、と。だが、真由美が言いたいのは愛を手に入れる方法ではない。
「違いますよ。愛されなくっても別にいいじゃないですか」
愛を返してくれない相手のために、愛されるための努力をするのは辞めたほうがいい、と真由美は言いたいのだ。
「私は家族に愛されていないとは言いませんが、少なくとも、父親には愛されていなかった。母親には愛情があるから育てて貰えているわけじゃなく、寂しいからそばに置きたいだけのような感じですし。今は、妹と、部活の仲間のほうがよっぽど……心を通い合わせられている気がします。両親なんかよりもずっと、愛されている気がします」
言いながら真由美はつばを飲み込み望海を見つめる。
「……何よりあなたは、ただ同じ部活で歌を歌っている仲間というだけで、体を張ってくれる人がいるじゃないですか。家族に相談する前に、そんな人に弱音を漏らせたってことは、それが答えなんだと思いますよ。心の奥底では、家族よりも、部活仲間のほうを信用してる」
「そりゃ……あんなこと、家族に言ったら、今以上に……家族にバカにされて、疎まれるだけで」
「話を聞く限りだとそうなんでしょうね。だとしたら、辛いときに助け合えないのを、家族だなんて言いませんよ。実際、私を助けたのは家族じゃなく、その時点では赤の他人だった相撲部でした。あなたを助けたのも、血のつながりなんてない赤の他人だったじゃないですか?」
真由美に言われた望海は、俯き首を横に振る。すぐに受け入れられる話ではないが、反論をしないところを見ると、頭の中ではわかっているらしい。感情的に反論をすることもしない。
「私は飯塚さんのことを、ただの合唱部の部員ということしか知りません。でも、貴方のことを私よりもよく知っている人が、あなたを心配しています。もしも、貴方と血のつながりがある存在が、あなたのことを心配していないというのなら……いっそ、捨てちゃってもいいんじゃないですかね? 私は、今の母親にそうしようと考えています」
「真田さんは、それで辛くないんですか?」
「辛いですよ。でも、辛くても、相撲部のみんながいて救われるんです。人を助けてくれる人の傍って、すごく居心地がいいんです。皆優しくて……気のいい人たちだから。望海さんも、近くにいる人を、もっと信頼したほうがいいと思います。
遠くの親類より近くの他人……これは何も物理的な距離だけじゃなく、心の距離も、だと思いますよ?」
真由美が自身の経験を交えて語る話に、望海が思うところは多い。しかし、彼女はまだ家族をあきらめきれない、家族の愛を求めてしまう。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
ハーレムに憧れてたけど僕が欲しいのはヤンデレハーレムじゃない!
いーじーしっくす
青春
赤坂拓真は漫画やアニメのハーレムという不健全なことに憧れる健全な普通の男子高校生。
しかし、ある日突然目の前に現れたクラスメイトから相談を受けた瞬間から、拓真の学園生活は予想もできない騒動に巻き込まれることになる。
その相談の理由は、【彼氏を女帝にNTRされたからその復讐を手伝って欲しい】とのこと。断ろうとしても断りきれない拓真は渋々手伝うことになったが、実はその女帝〘渡瀬彩音〙は拓真の想い人であった。そして拓真は「そんな訳が無い!」と手伝うふりをしながら彩音の潔白を証明しようとするが……。
証明しようとすればするほど増えていくNTR被害者の女の子達。
そしてなぜかその子達に付きまとわれる拓真の学園生活。
深まる彼女達の共通の【彼氏】の謎。
拓真の想いは届くのか? それとも……。
「ねぇ、拓真。好きって言って?」
「嫌だよ」
「お墓っていくらかしら?」
「なんで!?」
純粋で不純なほっこりラブコメ! ここに開幕!
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる