上 下
290 / 423
第14章:愛情不足の代償

2話

しおりを挟む
「そりゃ、コンクールで歌えるってなったら嬉しいけれど、ちょっとそんな単純な話じゃなくて……」
 要は言う。この学校の中では唯一と言っていい強豪に入るであろう合唱部には、外部からプロのボイストレーナーが来ていて生徒たちを指導している。そのおかげもあって、合唱部は何年も高レベルを維持してはいるが、全国大会への切符はまだつかめていない。まぁ、いいコーチがついたくらいで全国に行ければ苦労はしないので、強豪とは言えど現実はそんなものである。
 とはいえ、一応は強豪校ということもあり部員はかなり多く、レギュラーとしてコンクールに出場出来るのは数多くの部員のうち3人に1人ほど。32名まではエントリーできる決まりではあるが、要求されるレベルに満たなければ枠が余っていても参加させてはお貰えない。
 部員は皆、青春時代に思い出を残そうと必死で凌ぎを削りあっているため、ちょっとやそっとの努力では人前で歌うことすら敵わないのである。だから、明日香の言う通り、要がコーチに誘われたのであれば、是非とも出場するべきだ……というのは当然の考えだが……
「コーチは、『俺の家で特別レッスンを受けるならレギュラーになれるぞ』って……言ってきたのよ」
 要は簡潔に言ってため息をつく。
「その、小島春斗ってコーチはさ。音大を出てて、歌唱力はマジで高いの。教えることに関してはすごくまじめだし……歌声だけなら惚れるよ。でも、女子に対して露骨にボディタッチが多くって、不快なの。男子はどうなのかって聞いてみたところ、触られたことは全然ないって……女生徒はほぼ全員触られてる感じなのにさ」
「そんなセクハラコーチが特別レッスンってそれ、なんというかもう、アレね。怪しさ満点ね……っていうか、まさかそのコーチ、女子高生を自宅に誘い込んで強制わいせつでもする気なんじゃ……」
「こういう場合も強制わいせつっていうのかな? まぁ、そんなことはどうでも良くて……」
「どうでもよくないってそれ、絶対断りなさいよそれ絶対! そんなのにホイホイついていったら、青春時代が買春時代になるから絶対にやめときなさいマジで」
「本宮さん、別に上手いことを言ってほしかったわけじゃなくって……っていうか、私はもともと、断るつもりだから安心して。だからどうでもいいの」
「はぁ……それならいいけれど……」
 そう言いながら、明日香は要のことを見る。そして、彼女と以前話した何かを思い出してはっとした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハーレムに憧れてたけど僕が欲しいのはヤンデレハーレムじゃない!

いーじーしっくす
青春
 赤坂拓真は漫画やアニメのハーレムという不健全なことに憧れる健全な普通の男子高校生。  しかし、ある日突然目の前に現れたクラスメイトから相談を受けた瞬間から、拓真の学園生活は予想もできない騒動に巻き込まれることになる。  その相談の理由は、【彼氏を女帝にNTRされたからその復讐を手伝って欲しい】とのこと。断ろうとしても断りきれない拓真は渋々手伝うことになったが、実はその女帝〘渡瀬彩音〙は拓真の想い人であった。そして拓真は「そんな訳が無い!」と手伝うふりをしながら彩音の潔白を証明しようとするが……。  証明しようとすればするほど増えていくNTR被害者の女の子達。  そしてなぜかその子達に付きまとわれる拓真の学園生活。 深まる彼女達の共通の【彼氏】の謎。  拓真の想いは届くのか? それとも……。 「ねぇ、拓真。好きって言って?」 「嫌だよ」 「お墓っていくらかしら?」 「なんで!?」  純粋で不純なほっこりラブコメ! ここに開幕!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

処理中です...