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第11章:いいお話があります

28話

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 今回素華は、来夢と対面した時、怒った来夢に攻撃されたらどうしよう、という考えはずっと付きまとっていた。もちろん、そうならないように段取りは組んだし、イメージトレーニングはしたものの、失敗したらと考えると、自分は大変な役回りだったと思う。明日香は武力行使は得意だが、来夢に騙される馬鹿な女のふりをすることは出来ないため、自分がやるしかなかったとはいえ、危ない橋を渡ったものだ。
「及川さんはそれでいいんじゃないか? 人間、得意分野は全然違うんだし……素華はほら、口喧嘩が得意だし、なんかネットの情報から人の住所を特定することも出来るし? 荒事は俺達に任せておけよ、及川さんは及川さんの得意なことをやればいい。今回も、あの妊娠した女を捨てたやつの時も、すごく助かってる。特に今回は、危険な役割まで引き受けてくれて本当に助かったよ。来夢の自宅にまで潜り込むのは俺達じゃ絶対に出来ない役割だったし……明日香も、顔に出るから無理なんだろうなぁ」
 自分には荒事は難しいと自信を無くす素華に、そんなことはないと裕也は励ます。
「そう言っていただけると光栄です」
 裕也の励ましの言葉に、素華は頷きながら微笑んだ。失いかけていた自信は、どうやら保たれたらしい。
「ん? 桜川からメッセージだ。来夢から電話があって、『もう二度とお前に関わらないから許してくれ』って電話があったらしいよ。もう明日もお参りに行きますって、竹刀打ち込みに行きますってさ。良かった、美紀のやつを嫌いにならずに済んだぜ……」
 庄司は美紀から届いたメッセージを嬉しそうに読み上げる。
「あと、ついでに及川さんあてのメッセージなんだけれど……『私が来夢を紹介している時の及川さん、なんだか昔の私を見ているみたいな素晴らしい演技でした。客観的に見るとこんなにバカっぽく見えるんですね……』だってさ。良かったな、演技が上手かったって」
 どうやら、素華が言っていた『馬鹿だから?』というセリフは当人自身も自覚したらしい。
「あはは……あれが昔の美紀さん、かぁ」
 あんなカモが葱しょって歩いているような態度を演技無しでするような人間がいるのだと思うと、世界は広いなぁと素華は苦笑するのであった。
「おー、来夢君、ちゃんと学習したか。いい子いい子。俺達に逆らったら社会的に死亡するって、馬鹿でもわかるようにしたからな。さすがにあそこまでやれば、馬鹿でも理解するってわけだ」
 庄司さんのスマホに届いたメッセージを覗きながら、裕也は上機嫌だ。迅速に結果が出たことに満足しているらしい。
「恥ずかしい写真、一杯撮りましたからね。いやいや、見たいような見たくないような……」
 素華がどんな写真なのかと想像して苦笑する。
「見せてもいいぜ」
「嫌ですよ。汚い男の裸なんて見たくないですから」
 裕也が手を伸ばしてスマホを構え、写真を見せられそうになると、素華は笑顔で裕也のスマホを押し返す。もちろん、スマホはスリープ中で、画面は真っ黒、何も映っていない。裕也も本気でそんなものを見せるほどデリカシーのない男ではない。
「それがいい。あいつの裸は見るに堪えないぜ」
 期待通りの反応が返ってきた事が面白かった裕也は、三人で仲良く雑談をしながら神社まで帰っていくのであった。
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