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第10章:家出のお手伝い・前編
18話
しおりを挟む「そうだよ。もちろん、世の中人が苦しんでるところを見るのが大好きって、どうしようもねえ奴もいるけれどよ。でも、ヤクザだろうと俺達ろくでなしだろうと、多くのやつは誰かと仲良くするのが好きだし、目の前で苦しんでいる奴がいたら、助けちまうようなやつばっかりだ。だから、機嫌がよさそうな時とかなら、あの刺青の兄ちゃんと話してみたらどうだ? あいつも怖い時は怖いけれど、いっつも怒ってるわけじゃないからよ。真面目に三日も働けば、普通に話しかけても怒らねえよ」
「……はい!」
博の話を聞いて、遼は思わず笑顔になる。今まで勉強ばっかりで、頭の悪い人とは話しちゃいけないだとか、交友関係すらも制限されてきた自分には、目から鱗が落ちるような話であった。
食事が終わり、午後になったら掃除の続きだ。最も吐き気を催したのはトイレで、男女共用だというのに こびりついた排せつ物が掃除もされずに放置されている。トイレは室内ではなく、離れたところにあるので、寮まで匂いが漂ってこないのは不幸中の幸い……だからと言って、これでは用を足すときは息を止めていなければならない。こみ上げる吐き気を堪えて掃除を終えても、まだまだやることはたくさんだ。
そうして一日かかって掃除を終えた遼は、作業員たちに感謝されながら夕食の席に着く。夕食は廃棄寸前だった色が悪いひき肉と、しなびて『ス』が入った大根の煮物を食べ、昼間とは違う相手と大いに会話をした。
真由美は百合根からさんざんセクハラやおさわりがあるかもしれない等と脅されていたためにおっかなびっくりだったが、彼女も勇気を出して作業員の男性たちと話すことにした。ただし、百合根が『怖いお兄さんが監視してるからめったなことはないと思うけど……』と言っていたことを思い出して、怖いお兄さんのすぐ近くに座っている作業員に話してみる。
これは存外に当たりであった。わざわざ怖いお兄さんのすぐ近くに座るような奴は、この生活に慣れており、怖いお兄さんとも親しくなっていて、めったなことでは怒られないような、良くも悪くもベテランの作業員だ。こちらも話してみるとボディタッチなどされることもなく、作業員たちは口とか服が臭いこと以外はさして不快になる要素もない。少しだけキャバクラなのか風俗なのかは知らないが、そういうノリでセクハラじみた質問をされることもあるが、一度『そういう質問はやめたほうがいいですよ? ここはキャバクラじゃないんですからね』と釘を刺したら、変な質問はしてこなくなった。おかげでいろんな話を聞くことが出来たし、こちらも自分の家庭の事情を沢山話した。
普通に高校生活を送っていたら絶対に知り合うことのなかった人間との会話は、新しい価値観に触れる貴重な経験だ。
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