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第8章:部活にクレーム
12話
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「そんなことよりも、あなた、こんなところでこんなタイミングでそんなこと言っちゃっていいの? セクシャリティって、結構プライベートな問題だと思うけれど……」
明日香が尋ねる。明日香だって、自分のセクシャリティは家族を除けば裕也くらいにしか告げていない。そんなものを他人に大っぴらに言ってもいいのかと心配したが、アキラはもうすべてをあきらめたような顔をする。
「以前、俺は別の人にゲイってことを告白したら、イジメられそうになっていたんです。それを、そちらの裕也さんに、助けてもらって……だから、この相撲部には恩があるんです。みんなで人助けをしてるんですよね? おかげで、助けてもらって……恩人たちが迷惑をこうむるくらいなら、俺はどうなっても構いませんよ」
「だからって、俺達から矛先を逸らすためにあんなこと母親に言うか? ……お前の母親、なんか頭おかしいし、家に帰ったら何をされるかわかったもんじゃないだろ。ゲイなんて悪魔だ! とかって、アメリカじゃ殺人にすら発展してるって話を聞くぜ?」
「でしょうね。でもいいんです。相撲部の皆さん……それと、この神社の人達に迷惑をかけるくらいなら……」
アキラにそんなことを言われ、明日香は悔しげな顔をする。自分のことで気を遣わせるだなんて、あまりいい気分ではない。
「この前、母親にぽろっと話したんです。今の相撲部は女子部員のほうが多いってこと……清掃活動や人助けなんかもしていていい部活だって話していたのに、母親は女子部員が多い事にばっかり意識がいっちゃったみたいで」
「頭おかしいなそりゃ。そんなどうでもいい事よりも、人助けしてるってことに意識を向けろよなぁ……普通そこは、人助けしているなんて良い部活じゃない! ってなるところだろ」
「えぇ、まぁ。昔から話を聞かないというか、自分の都合のいいように解釈する人なので。そして、子供の意見は一切聞きません」
裕也の言葉をアキラは肯定することしかできなかった。
「ともかく、何かこれ以上問題があるようなら、俺はもう弓道部をやめようと思います」
「いやまて、そんなのおかしくないか?」
「おかしいんですよ。母親がおかしいですから」
全てをあきらめたような表情でアキラは言う。
「あー……家に帰りたくないなぁ」
「家に味方はいなくても、お前に味方がいないわけじゃないからな……? 殴られたら警察に行け。殴られるならその様子を撮影しろ。お前の母親の異常さをきちんと外に発信していけ。ゲイだってことまで周囲にばらしたお前に、今更恥ずかしがることなんてないだろ?」
「ありがとうございます。もしもの時は、頼りますから」
「何なら隠しカメラも貸すぜ。なぁ、明日香?」
「え? あぁ、うん……貸す」
そういえば、その手を使う案件だと気付いて明日香も頷く。
「……そうですね、借ります。でも俺、殴り返せますから、逆に不利になっちゃうかも……やり過ぎないように注意しなきゃだなぁ」
励ます裕也に、アキラははそう言って、弓道部の部室となっている射場へと向かう。その日、彼は弓道部の練習に参加せず、ただ他の部員が射っている様をぼーっと眺めているだけだった。
明日香が尋ねる。明日香だって、自分のセクシャリティは家族を除けば裕也くらいにしか告げていない。そんなものを他人に大っぴらに言ってもいいのかと心配したが、アキラはもうすべてをあきらめたような顔をする。
「以前、俺は別の人にゲイってことを告白したら、イジメられそうになっていたんです。それを、そちらの裕也さんに、助けてもらって……だから、この相撲部には恩があるんです。みんなで人助けをしてるんですよね? おかげで、助けてもらって……恩人たちが迷惑をこうむるくらいなら、俺はどうなっても構いませんよ」
「だからって、俺達から矛先を逸らすためにあんなこと母親に言うか? ……お前の母親、なんか頭おかしいし、家に帰ったら何をされるかわかったもんじゃないだろ。ゲイなんて悪魔だ! とかって、アメリカじゃ殺人にすら発展してるって話を聞くぜ?」
「でしょうね。でもいいんです。相撲部の皆さん……それと、この神社の人達に迷惑をかけるくらいなら……」
アキラにそんなことを言われ、明日香は悔しげな顔をする。自分のことで気を遣わせるだなんて、あまりいい気分ではない。
「この前、母親にぽろっと話したんです。今の相撲部は女子部員のほうが多いってこと……清掃活動や人助けなんかもしていていい部活だって話していたのに、母親は女子部員が多い事にばっかり意識がいっちゃったみたいで」
「頭おかしいなそりゃ。そんなどうでもいい事よりも、人助けしてるってことに意識を向けろよなぁ……普通そこは、人助けしているなんて良い部活じゃない! ってなるところだろ」
「えぇ、まぁ。昔から話を聞かないというか、自分の都合のいいように解釈する人なので。そして、子供の意見は一切聞きません」
裕也の言葉をアキラは肯定することしかできなかった。
「ともかく、何かこれ以上問題があるようなら、俺はもう弓道部をやめようと思います」
「いやまて、そんなのおかしくないか?」
「おかしいんですよ。母親がおかしいですから」
全てをあきらめたような表情でアキラは言う。
「あー……家に帰りたくないなぁ」
「家に味方はいなくても、お前に味方がいないわけじゃないからな……? 殴られたら警察に行け。殴られるならその様子を撮影しろ。お前の母親の異常さをきちんと外に発信していけ。ゲイだってことまで周囲にばらしたお前に、今更恥ずかしがることなんてないだろ?」
「ありがとうございます。もしもの時は、頼りますから」
「何なら隠しカメラも貸すぜ。なぁ、明日香?」
「え? あぁ、うん……貸す」
そういえば、その手を使う案件だと気付いて明日香も頷く。
「……そうですね、借ります。でも俺、殴り返せますから、逆に不利になっちゃうかも……やり過ぎないように注意しなきゃだなぁ」
励ます裕也に、アキラははそう言って、弓道部の部室となっている射場へと向かう。その日、彼は弓道部の練習に参加せず、ただ他の部員が射っている様をぼーっと眺めているだけだった。
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