上 下
143 / 423
第7章:男になりたい?

24話

しおりを挟む
「あれだけ大暴れしたんだ。あの弟も、お前の言うことは聞くとは思うが……情けはかけるなよ?」
 昨日、弟はすすり泣くとか、痛みをこらえて泣くとかそういう感じではなく、恥も外聞もなく泣いていた。まるで小学生の低学年か幼稚園児くらいに何が何だかわからない感じで泣いていた。あそこまで泣きわめくくらいなら、今後は女性を大事にするどころか、恐れてしまうかもしれない。
「はい……料理は下手でもいいですが、泣きごとを言うなら、弟は絶対に引き取らせない。それで、母親を納得させてみます」
 憑き物が落ちた(というか、振々と古々が落とした)綾乃は、胸を張ってそう言った。そんな彼女を見て微笑んでいるのは、何も明日やや真由美だけではない、古々もだ。
「ただ、色々と問題はありまして。慰謝料の問題とか……私が暴れちゃったから、そのせいで慰謝料が相殺はされるかもしれませんが、ちゃんと強制わいせつとか、家事の一方的な押し付けとか、そういうので取れるのかな、とかいろいろと考えたり争わなきゃいけないこともありますし……それに、離婚するならどうあれ私は遠くに引っ越すことになりそうです」
 綾乃の言葉に素華は首をかしげる。
「あれ、高校には通い続けられないの?」
「母親の収入が不安ですし、それに、母方の両親が少し、歳で生活に心配があるとかで……老人ホームに入る前に色々、念のためってことらしいです、引っ越しの段取りもしなきゃですね……通う高校も」
「なるほど、大変ね。そうなると高校は入学試験をやり直す感じ?」
 素華が尋ねると綾乃は頷いた。
「はい、まぁ……そんなところです」
 綾乃の答えに残念そうな顔をしたのは明日香だ。
「そっかぁ……ウチの神社にお参りをしてほしかったところだけれど、残念ね……あのさ、綾乃さん。引っ越しても、ウチの神社にお参りに来てとは言わないけれど……たまにでいい、感謝の心を神社に捧げてはくれないかな?」
 明日香の頼みに綾乃は意外そうな顔をする。
「いいですけれど、そんなことでいいんですか? 感謝してもしきれない程なんですか……というか、神社よりも、貴方や、裕也さんに恩返ししたほうがいいんじゃないでしょうか?」
「大丈夫。あんたに感謝されただけで、俺はもう満足してる」
「私も同じく、私は感謝されるだけでもういい。恩返しなら、よそでやって欲しいな」
 明日香が微笑みかける。明日香は言ってしまった後で、言葉の選択が悪い印象だったかなと思い苦笑する。 
「は……はぁ。と、言いますと?」
 明日香に言われて綾乃は首をかしげる。恩返しをよそでやる、とはどういうことか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】夜に咲く花

すだもみぢ
現代文学
タワーマンションの最上階にある展望台。ショウコとアズサとレイはいつもそこで出会う。 お互いのことを深く訊いたりせず、暗闇の中で会うだけのそれが暗黙のルールだ。 だからお互いに知っていることはわずかなことだけ。 普通すぎるショウコに比べて、アズサとレイは神様から特別を与えられている存在だった。 アズサは優秀さで。レイは儚い美しさで。 しかし二人はショウコに言うのだ。「貴方はそのままでいて」と。 ショウコは夢を持つこともできずにいるのに。 自分はこのまま枯れるだけの存在だというのに、なぜ二人はそんなことを言うのだろうか。 そんなある日、レイが二人の側からいなくなった。 そして、ショウコも引っ越すことを親から告げられて……。 大人になる前の少女の気持ちを書いた作品です。 6/1 現代文学ジャンル1位ありがとうございました<(_ _)>

男爵令嬢に転生したら実は悪役令嬢でした! 伯爵家の養女になったヒロインよりも悲惨な目にあっているのに断罪なんてお断りです

古里@10/25シーモア発売『王子に婚約
恋愛
「お前との婚約を破棄する」 クラウディアはイケメンの男から婚約破棄されてしまった…… クラウディアはその瞬間ハッとして目を覚ました。 ええええ! 何なのこの夢は? 正夢? でも、クラウディアは属国のしがない男爵令嬢なのよ。婚約破棄ってそれ以前にあんな凛々しいイケメンが婚約者なわけないじゃない! それ以前に、クラウディアは継母とその妹によって男爵家の中では虐められていて、メイドのような雑用をさせられていたのだ。こんな婚約者がいるわけない。 しかし、そのクラウディアの前に宗主国の帝国から貴族の子弟が通う学園に通うようにと指示が来てクラウディアの運命は大きく変わっていくのだ。果たして白馬の皇子様との断罪を阻止できるのか? ぜひともお楽しみ下さい。

勇者がパーティーを追放されたので、冒険者の街で「助っ人冒険者」を始めたら……勇者だった頃よりも大忙しなのですが!?

シトラス=ライス
ファンタジー
 漆黒の勇者ノワールは、突然やってきた国の皇子ブランシュに力の証である聖剣を奪われ、追放を宣言される。 かなり不真面目なメンバーたちも、真面目なノワールが気に入らず、彼の追放に加担していたらしい。 結果ノワールは勇者にも関わらずパーティーを追い出されてしまう。 途方に暮れてたノワールは、放浪の最中にたまたまヨトンヘイム冒険者ギルドの受付嬢の「リゼ」を救出する。 すると彼女から……「とっても強いそこのあなた! 助っ人冒険者になりませんか!?」  特にやることも見つからなかったノワールは、名前を「ノルン」と変え、その誘いを受け、公僕の戦士である「助っ人冒険者」となった。  さすがは元勇者というべきか。 助っ人にも関わらず主役級の大活躍をしたり、久々に食事やお酒を楽しんだり、新人の冒険者の面倒を見たりなどなど…………あれ? 勇者だったころよりも、充実してないか?  一方その頃、勇者になりかわったブランシュは能力の代償と、その強大な力に振り回されているのだった…… *本作は以前連載をしておりました「勇者がパーティーをクビになったので、山に囲まれた田舎でスローライフを始めたら(かつて助けた村娘と共に)、最初は地元民となんやかんやとあったけど……今は、勇者だった頃よりもはるかに幸せなのですが?」のリブート作品になります。

小説女優《ノベルアクトレス》~あたしは小説を演じて、小悪魔先パイに分からされちゃう???~

夕姫
青春
『この気持ちは小説《嘘》じゃないから。だから……ずっと一緒にいてほしい……』 思春期女子が共感できるところが1つはある。涙なくしては語れない至極のモヤキュン青春百合小説誕生!どうぞ御堪能ください✨ ※プロローグは前置きで本編は2話から始まります。 【あらすじ】 様々なジャンルの中で唯一「恋愛物」が嫌いな主人公 新堂凛花(しんどうりんか)。 彼女は恋愛物以外ならなんでも好き。小説の中の恋愛はあり得ないと常々思っている。 名門花咲学園に入学した凛花は、必ず部活に入らなくては行けない決まりを知り、見たことも聞いたこともないような部活の「小説同好会」に興味を持つ。 そしてその小説同好会に行くと黒髪で美人な見た目の二年生の先パイ 小鳥遊結愛(たかなしゆあ)がいた。 彼女は凛花を快く迎えいれてくれたが、凛花が恋愛物の小説が嫌いと知ると態度が一変。 そう、ここは小説同好会ではなく小説演劇同好会だったのだ。恋愛経験も乏しく男性経験もない、恋愛物を嫌っている主人公の凛花は【小説女優】として小鳥遊結愛先パイに恋愛物の素晴らしさを身を持って分からされていくことになるのだが……。 この物語は女子高生の日常を描いた、恋に勉強に色んな悩みに葛藤しながら、時に真面目に、切なくて、そして小説を演じながら自分の気持ちに気づき恋を知り成長していく。少しエッチな青春ストーリー。

歩みだした男の娘

かきこき太郎
ライト文芸
男子大学生の君島海人は日々悩んでいた。変わりたい一心で上京してきたにもかかわらず、変わらない生活を送り続けていた。そんなある日、とある動画サイトで見た動画で彼の心に触れるものが生まれる。 それは、女装だった。男である自分が女性のふりをすることに変化ができるとかすかに希望を感じていた。 女装を続けある日、外出女装に出てみた深夜、一人の女子高生と出会う。彼女との出会いは運命なのか、まだわからないが彼女は女装をする人が大好物なのであった。

感情とおっぱいは大きい方が好みです ~爆乳のあの娘に特大の愛を~

楠富 つかさ
青春
 落語研究会に所属する私、武藤和珠音は寮のルームメイトに片想い中。ルームメイトはおっぱいが大きい。優しくてボディタッチにも寛容……だからこそ分からなくなる。付き合っていない私たちは、どこまで触れ合っていんだろう、と。私は思っているよ、一線超えたいって。まだ君は気づいていないみたいだけど。 世界観共有日常系百合小説、星花女子プロジェクト11弾スタート! ※表紙はAIイラストです。

コウカイ列車に乗って

天咲 琴葉
青春
偶然乗り合わせた電車は別世界行きだった――?! ある日の朝、何時もの電車に乗る筈が、異世界に行く電車に誤って乗車してしまった主人公。 その電車に乗っていたのは、得体の知れない車掌にツンデレ女子高生?! 後悔を晴らすまで下車は許されない――。 果たして、主人公は無事に現世に戻って来られるのか……!

とうもろこし畑のダイヤモンド

文月 青
ライト文芸
大学の野球グラウンドの前で再会したのは、母方の祖父母に招かれ、田舎を訪れた春休みに一度だけ遊んだ、一つ年上の板倉大輔だった。 毎年選抜高校野球の時期になると思い出していた。ダムに沈むことが決まった村での、最後の六日間。下手くそな野球少年の大輔と、故郷を離れる間際の大人達との、何とも適当で楽しい空き地ベースボールをして過ごした日々のことを。 「大事なのはどこで何をするかじゃない。誰と好きなことをするかだ」 祖父の言葉と、とうもろこし畑の思い出を胸に、再会後の大輔との恋に戸惑いながらも、文緒は好きなことに向かって進む。 *「二週間のエール」に登場する、岸司の仲間・桂の、女子軟式野球同好会を作る原点となったお話です。

処理中です...