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第6章:自分のために

10話

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 明日香と恭平が出会ってから数日。雪野恭平はたっぷりと録画された隠しカメラの記録を持ってきた。すさまじいことに、恭平は髪の毛をわしづかみにされながらぐわんぐわんと頭を揺らされる。皆の見ている前で長々と説教をし、『この時間にも給料が発生している自覚はあるのか?』等と言いながら、定時にタイムカードを切らされ『説教で失った時間分無給で働け』と、理不尽な要求を突き付けられながらサービス残業をさせられる。休日出勤も日常茶飯事で、どうやらパソコンのログイン履歴、メールソフトの送信履歴などから、過去にさかのぼってもサービス残業の証拠にも困らなそうだ。その情報を、精査こそしていないものの、パソコンの履歴は二か月分、メールソフトの送信履歴は去年の入社時から丸ごと、ログを遡れたそうだ。
 もちろん、それだけの長時間働かせて残業代をつけないのは労働基準法違反なので、残業代がつかないことに抗議もしたのだが、『クビにしてやる』、『懲戒解雇にしてやる』と脅されては下手に逆らえない。奨学金の返済もあるから、仕事は辞められない。そうやってずるずると上司の要求を受け入れ続けた結果が今の状況のようであった。それも、あえて苦言を呈すことで上司を挑発し、今回録音したわけだが。
 明日香は彼に必要以上のアドバイスはしなかったが、わざと口答えして相手の横暴な態度を引き出す、という方法は真由美にも言った『あと一回だけ殴られて』というアドバイスと同じだ。何も言わないでもそれをやってきたあたり、この雪野恭平という男はそれなりに強かな分もあるようだ。
 しかし、聞けば聞くほどブラックな職場なようだ。頻繁に起こることではないので今回の記録にはその現場が納められることはなかったが、恭平は自分の手柄を上司のものにされてしまったこともあるそうだ。ついでに、被害者は自分ではないが、その上司が女性社員の肩をべたべたと触っている所なども撮れてしまったそうで。これは、上司の行く末が心配である。もちろん、どうなっても自業自得だが。
「すさまじいなこれ……どうしてこう、この、やり返されない前提なのかなこれ? どういう人生を過ごしていたらここまで醜くなれるんだろ……相手がブチキレて、階段から突き落とされたりとか考えないのかな?」
 映像を見せられた明日香はもう見ちゃいられないと言った感じだ。
「これ、訴えられたら勝てるんですか?」
 一通り映像を見せ終わったところで、恭平が不安げに訪ねる。
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