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第4章:人の痛み

19話

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「でも、家にいるなら最低限、身を守れるようにしないといけないと思う。と、いうわけで……今日は真由美さんには刃物の使い方を覚えてもらおうと思うんだけれど……」
「ナイフ、ですか? まさか、もしもの時は刺せって言うんですか?」
 明日香は首を横に振る。
「ううん、刺すよりかは、切りつけるって感じかな? このダミーのナイフを使って、ちょっと練習してみよう」
 明日香は言いながら、刀身がゴム製のナイフを取り出し、その刃を指で曲げて安全性をアピールする。
「練習、ですか……」
「そう、真由美さんは裕也君に腕や体を掴まれたら負け。裕也君はこの刃が体に触れたら負け。って条件で戦ってみましょう。ま、負けても別に殺されたりはしないから安心して負けなさい」
「真田さんは俺が父親だと思って、全力で来てくれ。つっても、真由美さんの勝利の条件が俺の体に刃で触れる……だから、狙うのは腹とか首みたいな急所じゃなく小手。拳や手首を狙ってナイフを振り下ろせばいい。簡単でしょ?」
「そんなんでいいんですか?」
 裕也の説明に真由美は首をかしげる。裕也は苦笑する。
「なんか、ゲームとか漫画とかを見ていると、木刀とか金属バットで殴られただけじゃ大したことがないように見えるし、手首や拳を傷つけられてもまだまだ戦えそうに見えるけれど、現実は無理だから。かといって、手首を切りつけただけじゃ殺すことはめったにない。だから、思いっきり振り下ろせ。殺さなければ罪は軽い、さらに正当防衛という良い制度もある。さらに言えば俺達は法律上はまだ少年だ。少年法があるから大丈夫だよ」
「その理論、、ちょっとおかしくないですか? 殺す必要がないからって……普通の人間は刃物なんか振り下ろせませんよ」
 二人のやり取りを見ていた素華に言われ、明日香と裕也はお互いの顔を見合わせながらその通りだと我に返る。
「ま、まぁ……そうかもしれないけれどさ。でも、命を守るためなら仕方ないでしょ? でね、もしもあなたの父親が仕掛けてくるとしたら、寝込みとか風呂の最中だと思うの。でも、濡れた体でスタンガンを扱うのは危ないしさ、だからこうして刃物を使うことを推奨してるんだけれど……やっぱ、難しい?」
 気まずそうな顔で裕也が問う。
「私って、そこまで気をつけなきゃいけない立場なんですね……なら、やるしかないですよね」
 母親が父親に丸め込まれないように見張るつもりだった真由美だが、裕也と明日香が散々に脅すので、自分は間違いを犯したのだろうかと少し後悔し始めた。
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