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第3章:くだらないこと

2話

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 素華の立場から言えば、明日香の強さのほうがよっぽどすごく思えた。かなわない理由は武道の経験の差や年齢の差もあるだろうが、明日香が今まで相当の努力を重ねてきたのは、一度取り組みをさせてもらったときに嫌というほど理解した。勝てるとは思っていなかったが、抵抗すらさせてもらえないくらいに相撲で圧倒されるとも思わなかった。何故って、身長は明日香よりも素華のほうが上だ。多分、体重も。相撲なんて体格があればどうにかなる、そう思っていたが、通じない。
 そうして改めて明日香を観察してみると、彼女は見た目からして『やばい』のだ。つぶれた耳、男のものと見まがうような分厚い手。そして、ただものじゃない雰囲気は、武道に明るくない素華でも察せられる。そんな調子で、二人は互いが互いのことをすごいと尊敬しあっている。
 二人の仲が良好で、裕也としても一安心だ。最初は女子が相撲部に入るなんて一体どうなることやらと警戒したものではあるが、始まってみれば何のこともなく仲良くお互いを高めあっている。突然、明日香と素華、女子二人から入部届を出された顧問の教師は困惑していたようだが、少なくとも中互いの心配はなさそうだ。
 女子だから取り組みできないのが残念で仕方がない。

 しばらく練習を続けた後、今日の料理当番となった明日香が買い物のために抜けて、裕也と素華が取り残される。
「……相撲部はどうだ? 女子部員の指導なんて全然わからないから、俺の指導が悪くても勘弁してくれよ」
「うーん……めっちゃ痛いですね。バレー部も、ボールが当たったところがもれなく痛かったけれど、相撲部はそんなのと比較にならないくらいに痛いです。力士とか、どうやって生きてるんですかねほんと?
 体中滅多打ちにされて、めっちゃ痛いと思うんですけれど……っていうか、力士になったらこれを顔面に受けるし、何なら頭突きしてぶつかり合ったりするんでしょう? マットにぶつかりに行くだけでも痛いのに、相撲やってる人、体か頭のどっちかがおかしいですよ……」
「だろうな。俺も今でも痛いくらいだし……ちなみに、力士の体と頭、おかしいのは『どちらか』じゃない。『どちらも』だよ。スポーツマンなんてみんなそうさ」
 素華の率直すぎる感想に、俺も同じだと裕也は笑う。
「でも、しばらくすれば痛くても動けるようになるさ」
「痛くなくなったりはしないんですね?」
「それなら大相撲の怪我人はもっと少なくなったろうな。相撲の中継見てみろよ? 怪我で欠場したり、蹴り技を受けたわけでもないのに膝のテーピングが痛々しい力士ばっかりだろ? 脂肪という鎧をまとっても、打撃で骨を傷めることだってあるし、立っているだけで膝も傷めるし、時には掴まれた関節を偶発的にひねられることもある」
「力士って命、削ってますよねぇ」
 素華は当たり前だよなぁ、あんな激しい格闘技だし、とため息をつく。彼女の顔を見てみると、早く体が痛くなるのにも慣れたいな、とでも考えているのだろう、表情が渋かった。
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