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第2章:いじめを終わらせよう
25話:嬉しそう・終
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一方、その日の夜の裕也はといえば、素華にお礼を言われた時の光景を、シャワーを浴び、夕食を食べ、流行おくれの型落ちゲームをしている今でも、頭の中で何度も何度も反芻している。思い出すたびに嬉しい気持ちが溢れてくる。ゲームに集中できていない。
『嬉しそうねぇ』
古々に話しかけられ、裕也はようやく自分の顔がニヤついてしまっていることに気が付いた。
「いやまぁ、うん……そんなに嬉しそうだった?」
『感情の匂いがわかる私達じゃなくてもわかるくらい、いい顔をしていたわ』
古々に微笑みそう言われ、裕也は照れる。
「俺、今まで軽い感謝をされたことはあったけれど。でも、あんなに深く頭を下げられたことってなくって。なんというか、その、お礼を言われるって、こんなに気持ちがいいんだなって、すごく、その……衝撃で……」
『ありがとうって言葉はね、言う方も言われるほうも気持ちのいいものよ。その言葉を適切に使うだけで、世の中に潤滑油が増えるくらいにはね』
「ほんと……そうだな。ってことはさ、俺……今まで、色んな人にお礼をしてきた。友子(明日香の母)さんとか、ディアン(百合根の母親)さん……総一郎(百合根の父)さんとかも……みんな、同じ気分だったのかな? 俺、ちゃんとうまくお礼を言えていたのかな?」
過去、自分もお礼を言ったことを思い出して裕也は自問する。答えは当然返ってくるわけもないのだが。
『私は、木村さんの家族のことについては、その場を見ていないからわからないけれど。でもね、友子さんのことなら見ていた事があるからよくわかってる。大丈夫、貴方の気持ちはちゃんと伝わってたから』
古々にそう言われると、裕也はしばし言葉に詰まる。
「良かった……」
『私も、嬉しいわ。大人に頼ることしかできなかったあなたが、誰かを助けられるようになったってね』
「ん……なんだよ、何だか母親みたいなことを言って」
『ダメだった?』
裕也の照れ隠しに意地悪な返答をすると、裕也はまた少しの間黙ってしまった。
「嬉しいよ」
小声でぼそぼそと本心告げた彼は、自分の顔をあまり見られないように少し俯いている。かわいい反応だ、と古々は思わず口元が緩んだ。
『その気持ち、忘れちゃだめだからね? ありがとうって言われた思い出は、きっとあなたの財産になるから』
老婆心で古々がアドバイスをすると、裕也は『うん』とだけ言ってゲームを中断し、トイレへと立つ。照れ隠しがわかりすぎる、だけれど素直な裕也の後ろ姿が、古々には妙に可愛く思えた。
『嬉しそうねぇ』
古々に話しかけられ、裕也はようやく自分の顔がニヤついてしまっていることに気が付いた。
「いやまぁ、うん……そんなに嬉しそうだった?」
『感情の匂いがわかる私達じゃなくてもわかるくらい、いい顔をしていたわ』
古々に微笑みそう言われ、裕也は照れる。
「俺、今まで軽い感謝をされたことはあったけれど。でも、あんなに深く頭を下げられたことってなくって。なんというか、その、お礼を言われるって、こんなに気持ちがいいんだなって、すごく、その……衝撃で……」
『ありがとうって言葉はね、言う方も言われるほうも気持ちのいいものよ。その言葉を適切に使うだけで、世の中に潤滑油が増えるくらいにはね』
「ほんと……そうだな。ってことはさ、俺……今まで、色んな人にお礼をしてきた。友子(明日香の母)さんとか、ディアン(百合根の母親)さん……総一郎(百合根の父)さんとかも……みんな、同じ気分だったのかな? 俺、ちゃんとうまくお礼を言えていたのかな?」
過去、自分もお礼を言ったことを思い出して裕也は自問する。答えは当然返ってくるわけもないのだが。
『私は、木村さんの家族のことについては、その場を見ていないからわからないけれど。でもね、友子さんのことなら見ていた事があるからよくわかってる。大丈夫、貴方の気持ちはちゃんと伝わってたから』
古々にそう言われると、裕也はしばし言葉に詰まる。
「良かった……」
『私も、嬉しいわ。大人に頼ることしかできなかったあなたが、誰かを助けられるようになったってね』
「ん……なんだよ、何だか母親みたいなことを言って」
『ダメだった?』
裕也の照れ隠しに意地悪な返答をすると、裕也はまた少しの間黙ってしまった。
「嬉しいよ」
小声でぼそぼそと本心告げた彼は、自分の顔をあまり見られないように少し俯いている。かわいい反応だ、と古々は思わず口元が緩んだ。
『その気持ち、忘れちゃだめだからね? ありがとうって言われた思い出は、きっとあなたの財産になるから』
老婆心で古々がアドバイスをすると、裕也は『うん』とだけ言ってゲームを中断し、トイレへと立つ。照れ隠しがわかりすぎる、だけれど素直な裕也の後ろ姿が、古々には妙に可愛く思えた。
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