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14話
しおりを挟む悠理とルイ王子は、白狼ルージャの背に跨り、森の中を駆けていた。
ルージャは、頭は残念……失礼、大人の神獣に比べたらまだ子供の方らしいのだが、体長は悠理とルイ王子の二人を乗せても大丈夫なくらい大きい。
「ルージャ、本当に道に迷っていないだろうな?」
ルイ王子はどこか心配そうにして、ルージャに問いかける。
『うん、任せて…ください。もうすぐで森から出るはず、です』
なんとか敬語を使おうとするルージャ。多分ルージャの中ではルイ王子>悠理≧自分という順位付けになっているのだろう。
神様の決定により契約を結ぶ羽目となったルイ王子とルージャ。
それにしても……ルージャと契約する際、相手の口元に口付けをしなければならないと知った時のルイ王子の絶望の顔は凄かった。まるでこの世の終わりだと言わんばかりの顔をしていた。
一方のルージャというと、駄々を捏ねていた。「ユウリがいい」と。もちろん、ルイ王子に黙殺されました。
「なんで私がこんな奴と……あ!」
突然ルイ王子は声を上げ、笑みを浮かべながら悠理に近付いてくる。そして、悠理が抵抗する間もなく初めての口付けを奪い取った。
「な、なななッ!!」
茹でタコのように顔を真っ赤にする悠理を見て、満足気に頷くルイ王子。
「流石にファーストキスが駄犬なんて嫌だからね。ユウリ、驚かせてしまってごめん」
目尻を下げ、どこか申し訳なさげに言うルイ王子……口元は緩んでるけれど。
「そう……で済むか!!」
一瞬ルイ王子に流れそうになりながらも、思わず悠理は突っ込んでしまった。
その場の成り行きだとはいえ、イケメン王子とキスができたのだから、地味でブス女の代名詞である自分からしたらある意味役得。不本意であったが、悠理は、そう考えることにした。
じゃないと……今にも泣きそうになるからだ。ルイ王子にとって悠理は、珍動物みたいなもので、恋愛対象ではない。自分ばかりが盛り上がっているなんて、正直言って恥ずかしいし、辛い。だから、ファーストキスをルイ王子みたいなイケメン王子に奪って貰ったのだからラッキー、と。
もし自分が姫川麻里みたいな美少女だったら……ルイ王子と恋仲になることはできたのだろうか? ッ……馬鹿馬鹿しい。自分の身の程に合わないことは望まないって決めたじゃない、と悠理は自らを叱責する。
『あ、お城が見えたよ! じゃなくて、見えました』
ルージャの声に、悠理はハッと我に返る。
悠理は目を凝らして見てみるが……何も見えない。
「おい、駄犬。何も見えないぞ」
『え? 見えないの、ですか? ルイ、様は目が悪い、ですね』
ルージャの言葉にルイ王子の眉間に皺が寄る。それに背後からは、真っ黒なオーラが……。
「へえ、駄犬のくせに随分と生意気なことを言うね」
ルイ王子は、口元に黒い笑みを浮かべる。
『ご、ごめんなさい! です!』
生命の危機を感じたのか、ルージャは慌てて謝る。
「分かればいいんだよ? 駄犬はただ大人しく走っていなさい」
イケメンになら罵られてもいいかな? って思っていたけど……前言撤回です!! 残念ながら私にそんなプチ属性はないです! 他でやってください!!
悠理は心の中でそう叫んだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
無事に……とは言えないが(主に精神面が)、なんとか王都に辿り着くことができた。
乗馬の経験値がゼロである悠理は、走行中、ルージャから振り落とされないように後ろからルイ王子にガッチリとホールドされていたのだ。
乙女ゲームでいうあれですよ。『背中が彼の胸板と密着する』っていう奴。画面越しの悠理だったら、世界の裏側にまで聞こえるレベルで大絶叫していましたよ。
でもね、いざ自分の身体で体験してみて分かったこと。崩壊します、主にメンタルが。
悠理はヘロヘロになりながらも、なんとか耐え凌いだ。
王都付近の森で一旦ルージャを休ませ、森の中でお留守番をさせようとしていると、ルージャは駄々を捏ね出した。
『ヤダ、です! 僕も行きたい! です!!』と。
すかさずルイ王子の却下が言い渡される。
「ダメだ。お前は目立つ」
ルイ王子の指摘は、ごもっともである。なんせこの大きさだ。ルージャは、大人二人をいともたやすく乗せてしまう。こんな大きな狼がいたら、街は大パニックになるだろう。
『僕が目立たなければいいの?』
「……まあ、そうなる」
『分かった!!』
ふぬぬ、と力み出すルージャ。え? 何? まさか……お花摘み?
そんな悠理の考えとは裏腹に、眩い光がルージャの身体を包み込む。光りは変形し、人型をとった。
『これならいい?』
光がおさまると、そこには一人の美幼年がいた。
真っ白でフワフワな髪に、琥珀色の瞳。神話に登場する妖精のような可愛らしさがある。
「どう? 上手く人化できている?」
人化は完璧だと思う……が、小さな体から隠してきれていない神秘的な雰囲気が問題である。
「か、可愛い~~!!」
悠理は思わず、目の前の美幼年に抱きついてしまった。
「ユウリ~、くすぐったい~~」
少年特有の可愛い声が聞こえるが、そんなの無視だ、無視。こんな可愛い男の子を前にして、この衝動を止められるか!!
「……ユウリ、何してるの?」
ルイ王子の優しい声に、悠理の身体がピシッと固まる。恐る恐る振り返ると、そこには漆黒の翼を生やす天使が舞い降りていた。
「ルージャが…可愛かったから、つい」
「取り敢えず、ルージャから離れようか?」
小心者のユウリが黒天使様に敵うはずもなく、すごすごとルージャから離れる。
「……王城についたら、この駄犬の躾をし直さないと……」
そのルイ王子の独り言が、悠理とルージャの耳に届くことはなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
次の話で、加賀美浩介と姫川麻里の視点を入れることができたら、と思います。
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