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二日酔いの延長戦

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 ──うぅ……頭が痛い。昨日は飲みすぎたわね。うぷ、吐きそう……。

 通勤中の来羅は、二日酔いによる頭痛と目眩に酷く悩まされていた。
 自業自得である。

「ッ……、仕事に支障をきたさなければいいんだけど……」

 吊り革に揺られること数分、来羅は一つの違和感を覚えた。

 ──ち、痴漢?

 来羅の引き締まったお尻を何者かがさわさわと厭らしい手つきで撫でてきたのである。

 ──今は通勤ラッシュ中……何かの間違いというものあるわね。

 そんな来羅の考えと反して、来羅のお尻を触る手は大胆になっていく。

「……お姉ちゃん、いい尻してるね?」

 息荒くした男が来羅の耳元でそう呟いてくる。

 ──ぶっ殺す!!

 来羅は、ハイヒールのかかとを男の靴目掛けて落とそうとした……が、二日酔いの影響で身体が怠く、足元がフラフラつく。

「ふふ、抵抗のつもり? 次の駅で降りようね」

 来羅の腕を男が掴んでくる。流石の来羅もヤバイと思い、息を深く吸い込んだ。

「この人ッ、ちか──」

「おいお前。俺のものに何をしているんだ?」

 来羅が叫ぼうとした瞬間、その身体を誰かが包み込む。

「な、何が起きてるの??」

 突然のことに頭が混乱する。

「よくも俺のものに手を出したな? 覚悟しやがれッ!!」

 来羅を救出した思われる男は、片手で来羅を抱きつつ、空いた手で痴漢の腕を思いっきり捻る。

「っ!? ヤ、ヤメロっ! 一体俺が何をしたというんだよっ!?」

「俺のものに手を出しただろ。その証拠もあるぞ?」

 来羅の雇い主こと斗真はそう言って、ケータイを取り出し、一つの動画を見せてくる。

──うん、がっつり男の手が私のお尻を弄ってますね。疑いようのない痴漢です。

「う、嘘だっ、こんなのデマに決まってるっ!!」

「安心しろ、警察を呼んでおいた。デマかどうかは、警察署でじっくりと説明してもらおうか?」

 斗真は口元に笑みを浮かべ、痴漢男にそう言った。

 ──た、助かった……って、なんで斗真がここにいるのよ! 社長って普通は、高級車に乗って通勤するものじゃないのっ!?

「来羅、お前は俺のものなんだから他の野郎に気安く触らせるな」

「待って、色々と突っ込みたいんだけど? いつ、どこで、私が斗真さんの所有物になったというの?」

「契約したその日から、お前は俺のものだ」

 ──きっとあれだわ。斗真さんの中では、『会社のもの=社員=俺のもの』となっているのね。

「斗真さんって社員一人一人を大切に思っているのね。素晴らしい心構えだわ。で、どうして大手企業の社長様が庶民の味方である電車に?」

 来羅はそう問いかけた。

 ──華やかな生活をしていると思っていたんだけど、質素倹約に心がけているのかしら? 

「……普段は電車なんかに乗らない。お前がフラフラと道端を歩いているものだから、心配になって運転手に車を止めてもらい、跡をつけてきたんだよ」

「……へ?」

 斗真から語られる真相に来羅の脳内が真っ白になった。

 ──それってストーカー? いや待てよ、そのおかげで私は助かったのか。

 来羅は少し複雑な気持ちになった。

「……いつも電車で通勤しているのか?」

 斗真が来羅に問いかけてくる。

「え、そうだけど?」

 来羅がそう言うと、斗真の眉間にシワが寄る。

「今度から俺が迎えに行く」

「そう……、ん? 今なんて?」

「お前は警戒心が足りなすぎる。危険だ。だから俺がお前の家に迎えに行く」

 ──な、何を抜かしての、この男はっ!?

「誰もそんなこと──」

「拒否権はない。上司として命令する。社員の安全を守るのも俺も役目だ」

 ──な、何も言えないじゃないのっ!?

「……かなり不本意でありますが、よろしくお願いします。通勤料は給料から引いてください」

「いや、その必要はない。お前の家は丁度俺の通勤路にあるからな」

「そうですか……って、どうして私の家の場所を知ってるのよ!?」

「お前の履歴書に書いてあったんだから、知っているんに決まっているだろ。そんなことも分からないのか?」

 ──いやいや、一社員である私の住所を知っているとか、逆にあなたが可笑しいでしょう!? ダメだ、突っ込む気を失せてきた。

「……社長の意思に従います」

「それでいい」

 斗真は満足そうに頷き、こう続けた。

「お前少し酒臭いぞ?」

「私にもプライベートというものがあるので」

「……酒を飲む余裕があったのか。もう少し仕事量は増やすか」

 ──この人、恐ろしいことを呟いているんですけど?? 

「待ってください。私にだって付き合いというものがあるんですよ」

「分かっている。そのときは俺に言え」

 少なからず、そこらへんは配慮してくれるようだ。

「……ありがとうございます」

「気にするな。俺が心配なんだ」

 斗真はそう言って優しく微笑んだ。

 その後、次の駅で痴漢男は警察へと引き渡された。
 痴漢は物的証拠が乏しく立証が難しいため、現行犯以外での逮捕は難しい。
 その痴漢男は常習犯だったらしく、動画を物的証拠として見せた斗真は、警察に深く感謝されたのであった。


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 投稿が遅くなり、申し訳ありません。言い訳をすると、リアルで多忙が続いており、執筆活動をすることができませんでした。
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