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第1話 おやつタイム
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「ね~え~、鈴村君」
「なんでしょうか? 玄子さん」
山積みの書類越しにひょっこりと顔を出した黒髪の女性は両頬に手を添えながら、上目遣いで俺の方をチラリと見た。
「ちょっとちょうだい。でないと集中力がもたないの」
「仕方ないですね。もうすぐおやつタイムですし、少しだけですよ」
「やった~。鈴村君優しい~」
「……」
「んふっ」
玄子さんは嬉しそうに俺のところへやってくると、俺の膝の上に座り込む。
俺は彼女が滑り落ちないように腰に手を回した。
彼女の白くて細い指先が、俺の首筋を愛おしそうに一なでする。
俺はくすぐったくて思わず身を捩ろうとしたが、すぐさま甘い吐息に追いかけられた。
「あふっ」
「―――っつ」
玄子さんの白い牙が首筋に吸い込まれる。ペロリと艶めかしい舌の感触が、感覚を痺れさせた。
そのまましばらくの間、チュッチュと音を立てながら俺の血を吸いこんだ後、幸せそうな笑顔のまま唇も吸いに来る。
わずかに香る鉄臭い匂い。自分の血だとわかっていても美味しいとは思えないけれど、続けて投げ込まれる玄子さんの舌は柔らかくて甘かった。
俺の名前は鈴村 崇。この探偵事務所の事務員兼調査員兼、餌だ。
もう少し正確に言えば、点滴に近いかな。
所長兼探偵の彩華氏 玄子は、俺のボスであり、俺の……恋人。
でもって、その実態は吸血系人族だ。
まあ、大昔の伝説の吸血鬼では無くて基本は人間だから、昼間でも活動できるし、血液以外の食事で生活できる。でも、やっぱり少しは血を飲まないと、元気がなくなってしまうんだよな。特に事件解決の糸口が見つからない時にね。
そんな時のスポーツドリンクみたいな役割として、俺はここにいるわけだ。
「子どもの面前でそれはやめろ。教育に良くない」
野太い声が響いてくる。筋骨隆々の大男が、古い事務所の床をきしませながら入ってきた。
「子どもじゃありません!」
むっとしたような可愛らしい声が、斜め前の席から聞こえてきた。うず高く積み上げられた書類の向こうから、白い猫耳だけが見えている。
迦楼羅の奴、普段は無表情のくせに、興奮すると猫耳が隠せなくなるからわかりやすいな。
「キスくらいで興奮してんじゃねえかよ」
大男はそう言って俺の隣にドカッと座り込む。椅子がギシッと悲鳴をあげた。
こいつの名前は來田 竜星。ドラゴンのような硬化系体質の人族。腕っぷしが強いので事務所のボディーガードだ。
でもって、葉隠 迦楼羅は、猫耳もちの人族。会計管理をしてくれているが、他にもたぐいまれな聴覚とハッキング技術を駆使して、あらゆる情報を集めてくれている。
何を隠そうこの事務所、俺以外はちょっと変わった人族だらけの事務所だった。
そんなやり取りに目もくれず、俺の唇を吸い続けていた玄子さん、急に顔を上げて來田を見た。
「竜ちゃん、それでどうだったの?」
「ビンゴ! 玄子の言っていた通りだったぜ」
「ふふふ、じゃあ、後は奴をテーブルにつかせるだけね」
「しろまるは無事でしたか?」
「誰に頼んだと思ってんだよ。俺がしくじるわけないだろ」
ほっとした顔になった迦楼羅、來田から渡されたデータの分析にとりかかった。
玄子さんは、この件を持ち込んだおっさんへ電話する。状況を報告して応援を頼むためだ。
今回の事案は、おそらく俺たちだけでは無理だろうからな。
「じゃあ、私たちも準備をしましょうか」
電話を終えて颯爽と立ち上がった玄子さん、艶やかな笑みを見せた。
「鈴村君も、いつも通りよろしくね」
「仰せのままに」
こうして俺たちは事件解決に動き出したのだった。
「なんでしょうか? 玄子さん」
山積みの書類越しにひょっこりと顔を出した黒髪の女性は両頬に手を添えながら、上目遣いで俺の方をチラリと見た。
「ちょっとちょうだい。でないと集中力がもたないの」
「仕方ないですね。もうすぐおやつタイムですし、少しだけですよ」
「やった~。鈴村君優しい~」
「……」
「んふっ」
玄子さんは嬉しそうに俺のところへやってくると、俺の膝の上に座り込む。
俺は彼女が滑り落ちないように腰に手を回した。
彼女の白くて細い指先が、俺の首筋を愛おしそうに一なでする。
俺はくすぐったくて思わず身を捩ろうとしたが、すぐさま甘い吐息に追いかけられた。
「あふっ」
「―――っつ」
玄子さんの白い牙が首筋に吸い込まれる。ペロリと艶めかしい舌の感触が、感覚を痺れさせた。
そのまましばらくの間、チュッチュと音を立てながら俺の血を吸いこんだ後、幸せそうな笑顔のまま唇も吸いに来る。
わずかに香る鉄臭い匂い。自分の血だとわかっていても美味しいとは思えないけれど、続けて投げ込まれる玄子さんの舌は柔らかくて甘かった。
俺の名前は鈴村 崇。この探偵事務所の事務員兼調査員兼、餌だ。
もう少し正確に言えば、点滴に近いかな。
所長兼探偵の彩華氏 玄子は、俺のボスであり、俺の……恋人。
でもって、その実態は吸血系人族だ。
まあ、大昔の伝説の吸血鬼では無くて基本は人間だから、昼間でも活動できるし、血液以外の食事で生活できる。でも、やっぱり少しは血を飲まないと、元気がなくなってしまうんだよな。特に事件解決の糸口が見つからない時にね。
そんな時のスポーツドリンクみたいな役割として、俺はここにいるわけだ。
「子どもの面前でそれはやめろ。教育に良くない」
野太い声が響いてくる。筋骨隆々の大男が、古い事務所の床をきしませながら入ってきた。
「子どもじゃありません!」
むっとしたような可愛らしい声が、斜め前の席から聞こえてきた。うず高く積み上げられた書類の向こうから、白い猫耳だけが見えている。
迦楼羅の奴、普段は無表情のくせに、興奮すると猫耳が隠せなくなるからわかりやすいな。
「キスくらいで興奮してんじゃねえかよ」
大男はそう言って俺の隣にドカッと座り込む。椅子がギシッと悲鳴をあげた。
こいつの名前は來田 竜星。ドラゴンのような硬化系体質の人族。腕っぷしが強いので事務所のボディーガードだ。
でもって、葉隠 迦楼羅は、猫耳もちの人族。会計管理をしてくれているが、他にもたぐいまれな聴覚とハッキング技術を駆使して、あらゆる情報を集めてくれている。
何を隠そうこの事務所、俺以外はちょっと変わった人族だらけの事務所だった。
そんなやり取りに目もくれず、俺の唇を吸い続けていた玄子さん、急に顔を上げて來田を見た。
「竜ちゃん、それでどうだったの?」
「ビンゴ! 玄子の言っていた通りだったぜ」
「ふふふ、じゃあ、後は奴をテーブルにつかせるだけね」
「しろまるは無事でしたか?」
「誰に頼んだと思ってんだよ。俺がしくじるわけないだろ」
ほっとした顔になった迦楼羅、來田から渡されたデータの分析にとりかかった。
玄子さんは、この件を持ち込んだおっさんへ電話する。状況を報告して応援を頼むためだ。
今回の事案は、おそらく俺たちだけでは無理だろうからな。
「じゃあ、私たちも準備をしましょうか」
電話を終えて颯爽と立ち上がった玄子さん、艶やかな笑みを見せた。
「鈴村君も、いつも通りよろしくね」
「仰せのままに」
こうして俺たちは事件解決に動き出したのだった。
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