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エクレールの本心(エクレールside)

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 俺が結婚! そんなの無理に決まっている!

 イオスライトからそんな話があった時、震えが止まらなかった。
 
 王宮の者と話すことさえ困難な俺が、妻を娶るだと!

 愛なんてわからないし、もしそれで心臓がドキドキバクバクしたらどんなことが起こるか……それを考えると恐ろしい。


 物心ついた頃から恐怖心が強大だった。有り余る魔力のせいで不安定になっているだけだから、心を強くお持ちくださいと医術士は言う。

 そんなことを言われたって、心なんて簡単に強くできないんだよ!

 試練ばかりの人生。十五歳で初陣。二十歳で即位。そこからは領土を守るために戦いに明け暮れて。
 俺の恐怖心は常に試され続けてきた。

 もう、クタクタだ……

 そんな俺が、なんとか人の姿を保っていられたのは、イーリスが贈り続けてくれた癒しの花のお陰だったんだ。

 それが、あのティアナ姫の魔力だったとは―――


 王宮にいる時は、なるべく人に会わないように暮らしている。
 少しでもストレスを減らすため。

 まあ、そのせいで、イオスライトには世話になりっぱなしだが。
 俺の身代わりからフォロー、果ては尻ぬぐいまで、なんでもやってもらっているから頭があがらない。
 
 五つ年上の従兄は、男の俺から見ても惚れ惚れするくらいなんでもできる男。
 彼が王だったら、良かったのではないか。そう思わない日は無いくらい。
 
 だから、世継ぎなんてつくりたくないんだ。こんなしんどい思いを自分の子にさせたいなんて思わないし、そもそも結婚なんてしたくない。妻となる女性の顔も真っすぐになんか見つめられないんだから。

 俺が死んだ時はイオスライトがいる。王位は彼に譲る。

 それが、この国にとって一番良いと本気で思っていたんだ。
 
  だから、彼が勧める縁談話をことごとくスルーしていた。

 でも、『塔の中の姫』だけはスルーできなかった。

 俺との結婚がなければ、彼女は塔の中で一生を終えることになるんじゃないか。そんな風に思ったら、ままならない自分と重なったんだ。

 ただ、外に引っ張り出して自由にしてあげるだけの結婚。

 そんなつもりだったのに―――


 彼女が完璧で優雅な挨拶をした時、俺の心が波打った。

 美しいと純粋に思った。
 一気に心惹かれてしまった。
 そして恐ろしくなった。

 これ以上魅了されてはならない。
 心を動かしてはならない。

 でなければ、と同じ悲劇を繰り返してしまうかもしれない……
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