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変化
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時告げる鶏の声で目を覚ます。
もう、朝なのね。
四角い空が橙に色づいていた。
ガチャリと鍵の開く音に身を固くする。
ここへ来て初めてのことに驚いた。
いつもは必要な物が扉の横の小窓から差し入れられるだけの生活だったから。
ぎぎーっと開かれた鉄の扉の向こうから、顔を黒い布で覆った数名の者たちが足音高く近づいて来て、私を取り囲んだ。
そして私にもその黒い布を被せた。
視界が黒くなって、おぼろげになる。
そこで、ほうっと安堵の息を吐く音が聞こえた。
私と視線を合わせたら魅了の魔法で虜にされて運命を狂わされると、そう言う噂が広がっているから、みんな恐れているんだわ。
誰も私を見たいとなんて思わないのよね。
「連れていけ」
指揮官らしき人の指示の声。
連れて行くってどこへ?
とうとう処刑されることになったのかしら……
恐怖が沸き起こってきたけれど、どうすることもできない。
不明瞭な視界のままに引っ張られて行った。
意外なことに、処刑台では無くて王の私室へ通された。
叔父であるローグ王は、冷たい声で事務的に私に言い渡してきた。
「ティアナよ、お前はアルタイル帝国のエリクール王へ輿入れすることが決まった。これより準備に入り、三日後には出立するように」
私が結婚!
そんな日が来るなんて思いもしなかった。
しかも、隣国のアルタイル帝国は大国。その王、エクレール王は『破滅王』と言われて恐れられている。そんな方に嫁ぐことになるなんて。
私でいいのかしら?
いや、反対だわ。
エクレール王は初陣を果たした王子の頃からとても残虐で容赦のない方と言う噂だったわ。
そんなところへ自分の娘をやりたくないのでしょうね。
自らの手では殺すことができない私を、隣国の王に殺させて禍を振りまけば、このナジュム王国は安泰。場合によってはアルタイル帝国を倒すこともできるかもしれない。
そんな策略を練っているのかもしれない。
疑念が沸き起こったが、それを確認したり婚約を阻止する力が私にあるわけが無い。
本当の私は魅了の魔法の力なんて無い。
ほんのちょっと。花に纏わせる程度の癒しの力があるだけなんだから。
反論の余地もなく、私はそのまま湯あみへと連れて行かれた。
もう、朝なのね。
四角い空が橙に色づいていた。
ガチャリと鍵の開く音に身を固くする。
ここへ来て初めてのことに驚いた。
いつもは必要な物が扉の横の小窓から差し入れられるだけの生活だったから。
ぎぎーっと開かれた鉄の扉の向こうから、顔を黒い布で覆った数名の者たちが足音高く近づいて来て、私を取り囲んだ。
そして私にもその黒い布を被せた。
視界が黒くなって、おぼろげになる。
そこで、ほうっと安堵の息を吐く音が聞こえた。
私と視線を合わせたら魅了の魔法で虜にされて運命を狂わされると、そう言う噂が広がっているから、みんな恐れているんだわ。
誰も私を見たいとなんて思わないのよね。
「連れていけ」
指揮官らしき人の指示の声。
連れて行くってどこへ?
とうとう処刑されることになったのかしら……
恐怖が沸き起こってきたけれど、どうすることもできない。
不明瞭な視界のままに引っ張られて行った。
意外なことに、処刑台では無くて王の私室へ通された。
叔父であるローグ王は、冷たい声で事務的に私に言い渡してきた。
「ティアナよ、お前はアルタイル帝国のエリクール王へ輿入れすることが決まった。これより準備に入り、三日後には出立するように」
私が結婚!
そんな日が来るなんて思いもしなかった。
しかも、隣国のアルタイル帝国は大国。その王、エクレール王は『破滅王』と言われて恐れられている。そんな方に嫁ぐことになるなんて。
私でいいのかしら?
いや、反対だわ。
エクレール王は初陣を果たした王子の頃からとても残虐で容赦のない方と言う噂だったわ。
そんなところへ自分の娘をやりたくないのでしょうね。
自らの手では殺すことができない私を、隣国の王に殺させて禍を振りまけば、このナジュム王国は安泰。場合によってはアルタイル帝国を倒すこともできるかもしれない。
そんな策略を練っているのかもしれない。
疑念が沸き起こったが、それを確認したり婚約を阻止する力が私にあるわけが無い。
本当の私は魅了の魔法の力なんて無い。
ほんのちょっと。花に纏わせる程度の癒しの力があるだけなんだから。
反論の余地もなく、私はそのまま湯あみへと連れて行かれた。
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