私の推しは雑草男子

涼月

文字の大きさ
上 下
57 / 62
Step6 胡蝶蘭男子と約束しました

スズメノエンドウ④

しおりを挟む
「その通りだな。怜、お前が怒るのは当然のことだ。本当にすまなかった」
「怜、私が浅はかだったわ。ごめんなさい」

 ご両親そろって頭を下げられて、怜さんは怒りの矛先を向ける先が無くなったようだった。拳を強く握り締めて、自らの膝をガツッと一回叩いた。
 その姿があまりにも痛々しくて、私は思わず握る手に力を籠める。
 怜さんが直ぐに反応してくれた。伝わってくる強い意志。
 この手だけは絶対離さない。そう言っているようで嬉しかった。

「明香里がお前に危害を加えるとは思わなかったから、呑気に考えてしまっていたんだ。だが、その矛先が水樹さんに向かってしまったのは、本当に申し訳なく思っている」
 社長が私にも頭を深く下げた。

「怜のことを支えてくださって、本当にありがとうございました」
 怜さんのお母さんも一緒に頭を下げてくれたの。

 想像していたようなご両親では無かった。ううん。きっと怜さんもご両親がこんなに優しい方たちだったってこと、今初めて知ったんだろうな。
 きっととても混乱しているはず。

「いえ、そんな。私は怜さんが好きで、だから怜さんと一緒にいられるようにがんばろうって思っただけなんです」

「あの時の私たちに、そんな純粋な気持ちがあったら、今こんなことにはなっていなかったかもしれないな」
「いいえ、あの時のあなたに選択肢は残っていなかったはず。あなたは会社のことを一番に考えて自分を犠牲にされたんです。でも、私は違った。勝手に子どもを産んで、勝手に預けて……身勝手だったんです。その付けを、怜が一方的に払うことになってしまった。怜の苦労は私のせいです」
「いや、それは違うだろう。別れた時、君は怜がお腹にいることを知らなかった。気づいた時にはまだ中絶だってできたはずなのにそれをしなかったのは、怜が大切だったからだろう。怜を私に預けたのだって、怜の為を思って」

 互いを責めずに思いやっている二人が、今も愛し合っていることは会話から伝わってくる。それなのに、一緒にいられなかったんだ……。悲しいな。

「二人とも。俺の前で互いに庇いあうのは止めてくれ。俺からしたら、二人とも酷い。自分たちで勝手に俺の人生を決めやがって。そのせいで俺がどれほど寂しい思いをしたか。どれほど辛い思いをしたかなんて。そんなの今更知ったようなこと言われても遅いんだよ」

 社長と真美さんが、怜さんを見つめた。そして、その通りだと頷いた。

「だから、俺は同じ轍は踏みたくない。頼む。水樹さんと結婚すること、認めて欲しい。俺には彼女しかいないんだ」

 そう言って頭を下げた。私も慌てて一緒に頭を下げる。

「二人の気持ちは分かった。もちろん私も真美さんも応援している。だから、明香里の強硬手段に備えて、銀行の融資を断る準備をしていたんだ。いざとなったら、明香里とも縁を切る覚悟だ」

「父さん……」
「会社のことは、心配しなくていい。私の目の黒いうちは、なんとかするから。だから、お前はお前の理想に向かって、水樹さんと計画をたてなさい。それを、私たちも応援するから」

 思いがけない言葉に、怜さんの体から力が抜けた。
 
 良かった―――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

処理中です...