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Step3 胡蝶蘭男子の恋人役を務めることになりました
ヒメツルソバ⑤
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一体どれくらいの時を、そのまま過ごしていたのだろう―――
ほんの数秒のような気もするし、数時間のような気もする。
そんな短くて、永遠を感じる時間だった。
「ありがとう。お休み」
優しい低音が直接体に響いてくる距離。
ようやくほどけた腕が、名残惜しそうにもう一度私を引き寄せた。
「恋人らしいこと。もう一つだけ」
そう言って、私の額へと唇を落とす。続けて私の顎を引き上げた手が途中で止まった。
「これ以上はまたね」
また? もう無いはず。
心に沸き上がった落胆の気持ちに、自分で混乱する。
「おやすみ。明日もよろしく」
そう言って笑った高梨室長は、そのままバイバイと手をふりながら後ろを向いた。
それっきり。
振り返ることなく、黒い車は走り去って行った。
ほうっ―――
鍵を開けて部屋へ入って、その場に頽れた。
疲れた。でもそれ以上に……心がぐちゃぐちゃになっている。
心が動くことなんてないと思っていたのに。私ったら、一体どうしちゃったの。
胡蝶蘭男子の悩みを知ったからって、雑草が何かしてあげられるわけは無いんだから。
私なんて、なんの役にも立たないんだから……
だから、今日のことは、もう忘れよう。
明日はまた、室長と派遣社員なんだから。
シャワーを浴びてほっとする。そうだわ。こんな時はやっぱり『ひなたぼっこ』さんの写真を見て、心を落ち着かせよう。
―――『ヒメツルソバ』。金平糖みたいな形で可愛い花。花言葉は『愛らしい』『気が利く』『思いがけない出会い』。
自分を変えてくれる出会いなんてものは、早々あるわけじゃない。でも、絶対ないわけでも無い。
愛らしくて気が利いて、そんな人との出会いが、たまらなく嬉しい時もあるんだな―――
え!
『ひなたぼっこ』さん、素敵な人と出会えたのかしら?
嬉しいような寂しいような……複雑な気持ち。
でも、そうだよね。優しい『ひなたぼっこ』さんのことを好きになる人は、私のほかにいっぱいいるはず。
そう、リアルにこんな人に出会ったら、好きにならずにはいられないはずだものね。
心の中でお祝いを言う。
おめでとう。『ひなたぼっこ』さん。
私もそんな人に出会いたいな。そう思って、ふと高梨室長の顔が浮かんだ。
いやいやいや。これはカウントしちゃいけない出会いでしょ。
上司と部下、以上でも以下でもないんだから。
ほんの数秒のような気もするし、数時間のような気もする。
そんな短くて、永遠を感じる時間だった。
「ありがとう。お休み」
優しい低音が直接体に響いてくる距離。
ようやくほどけた腕が、名残惜しそうにもう一度私を引き寄せた。
「恋人らしいこと。もう一つだけ」
そう言って、私の額へと唇を落とす。続けて私の顎を引き上げた手が途中で止まった。
「これ以上はまたね」
また? もう無いはず。
心に沸き上がった落胆の気持ちに、自分で混乱する。
「おやすみ。明日もよろしく」
そう言って笑った高梨室長は、そのままバイバイと手をふりながら後ろを向いた。
それっきり。
振り返ることなく、黒い車は走り去って行った。
ほうっ―――
鍵を開けて部屋へ入って、その場に頽れた。
疲れた。でもそれ以上に……心がぐちゃぐちゃになっている。
心が動くことなんてないと思っていたのに。私ったら、一体どうしちゃったの。
胡蝶蘭男子の悩みを知ったからって、雑草が何かしてあげられるわけは無いんだから。
私なんて、なんの役にも立たないんだから……
だから、今日のことは、もう忘れよう。
明日はまた、室長と派遣社員なんだから。
シャワーを浴びてほっとする。そうだわ。こんな時はやっぱり『ひなたぼっこ』さんの写真を見て、心を落ち着かせよう。
―――『ヒメツルソバ』。金平糖みたいな形で可愛い花。花言葉は『愛らしい』『気が利く』『思いがけない出会い』。
自分を変えてくれる出会いなんてものは、早々あるわけじゃない。でも、絶対ないわけでも無い。
愛らしくて気が利いて、そんな人との出会いが、たまらなく嬉しい時もあるんだな―――
え!
『ひなたぼっこ』さん、素敵な人と出会えたのかしら?
嬉しいような寂しいような……複雑な気持ち。
でも、そうだよね。優しい『ひなたぼっこ』さんのことを好きになる人は、私のほかにいっぱいいるはず。
そう、リアルにこんな人に出会ったら、好きにならずにはいられないはずだものね。
心の中でお祝いを言う。
おめでとう。『ひなたぼっこ』さん。
私もそんな人に出会いたいな。そう思って、ふと高梨室長の顔が浮かんだ。
いやいやいや。これはカウントしちゃいけない出会いでしょ。
上司と部下、以上でも以下でもないんだから。
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