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Step3 胡蝶蘭男子の恋人役を務めることになりました
ヒメツルソバ①
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「ああー! スッキリした!」
パーティーが終わって車に乗り込んだ高梨室長の第一声。
「こんなに楽しかったことは初めてだ」
そ、そうなんですね。良かったです。でも……私は口を開くのも億劫なほどクタクタです。
緊張の連続で、記憶も曖昧で。この車に座った途端、体中の力が抜けてしまって、もう立ち上がることもできないかもしれません。
「はあ……」
私のため息を聞いて振り向いた室長、無邪気な笑顔を向けてくる。
「お疲れ様でした。今日は本当にありがとう。おかげで助かったし……楽しかったよ」
「それは良かったです。でも、本当に大丈夫だったのでしょうか。私こんなパーティー初めてで、テンパってしまいました」
「いや、凄くびっくりした。物凄く気品に満ちていて、君が一番かわいかったよ」
ああ、まだ恋人ごっこのノリのままなのですね。はいはい。でももう、終わりにしていいんじゃないでしょうか。
イケメンの微笑全開の高梨室長を見ても、もうトキメク力もないくらい疲れ切っていた私は、曖昧に微笑んだ。
「あ、ありがとうございます」
「いや、本当のことだよ。君が一番綺麗だった。みんな君の素晴らしさに嫉妬していたからね。いやあ、スッキリした」
「嫉妬していたのは私の素晴らしさにじゃ無くて、我こそは室長の恋人にって思ってきた方々に肩透かしを食らわせたからです。私はもう皆さんの視線が怖すぎて、いつ刺殺されるかと内心ヒヤヒヤでした」
「ごめん、ごめん。そうだよね。君は怖かったよね。でもさ、誰も何も言えなかっただろう。それは花乃ちゃんが堂々と振舞ってくれたからだよ。本当にありがとう」
そう言って私の手を取った。思わず引っ込めようとした手を強引に引き寄せられる。
高梨室長の体温を感じて、また心臓が大きく鳴り始めた。
「このまま攫ってしまいたいな」
その時、緊張がほどけたお腹がキュウんと鳴いた。
絶妙なタイミングでムードを壊す音。ああ……恥ずかしい。
「そうだ! お腹空いたよね。もうこんな時間だ。あんなにいっぱい食べ物があっても、君は何も食べられなかったんだよね」
「……は、はい。あの、家に帰れば食べる物ありますから」
「どうして? 一緒に食べようよ。俺も何も食べてないから。ああ、でも、もうこんな時間だからな。どこかのホテルでルームサービスでも」
「け、結構です!」
慌てて断った私を、高梨室長はまた、悪戯っ子のような瞳で見つめてくる。
「なーんてね。冗談だよ。でもお腹空いたから一緒に食べようよ。そうだな。夜景の綺麗なところにしよう」
「いえ、もう……」
「堀井さん、いつものところよろしく。後、その前にコンビニ」
「かしこまりました」
いつものところ? コンビニ?
一体どこに連れていかれるのかしら?
パーティーが終わって車に乗り込んだ高梨室長の第一声。
「こんなに楽しかったことは初めてだ」
そ、そうなんですね。良かったです。でも……私は口を開くのも億劫なほどクタクタです。
緊張の連続で、記憶も曖昧で。この車に座った途端、体中の力が抜けてしまって、もう立ち上がることもできないかもしれません。
「はあ……」
私のため息を聞いて振り向いた室長、無邪気な笑顔を向けてくる。
「お疲れ様でした。今日は本当にありがとう。おかげで助かったし……楽しかったよ」
「それは良かったです。でも、本当に大丈夫だったのでしょうか。私こんなパーティー初めてで、テンパってしまいました」
「いや、凄くびっくりした。物凄く気品に満ちていて、君が一番かわいかったよ」
ああ、まだ恋人ごっこのノリのままなのですね。はいはい。でももう、終わりにしていいんじゃないでしょうか。
イケメンの微笑全開の高梨室長を見ても、もうトキメク力もないくらい疲れ切っていた私は、曖昧に微笑んだ。
「あ、ありがとうございます」
「いや、本当のことだよ。君が一番綺麗だった。みんな君の素晴らしさに嫉妬していたからね。いやあ、スッキリした」
「嫉妬していたのは私の素晴らしさにじゃ無くて、我こそは室長の恋人にって思ってきた方々に肩透かしを食らわせたからです。私はもう皆さんの視線が怖すぎて、いつ刺殺されるかと内心ヒヤヒヤでした」
「ごめん、ごめん。そうだよね。君は怖かったよね。でもさ、誰も何も言えなかっただろう。それは花乃ちゃんが堂々と振舞ってくれたからだよ。本当にありがとう」
そう言って私の手を取った。思わず引っ込めようとした手を強引に引き寄せられる。
高梨室長の体温を感じて、また心臓が大きく鳴り始めた。
「このまま攫ってしまいたいな」
その時、緊張がほどけたお腹がキュウんと鳴いた。
絶妙なタイミングでムードを壊す音。ああ……恥ずかしい。
「そうだ! お腹空いたよね。もうこんな時間だ。あんなにいっぱい食べ物があっても、君は何も食べられなかったんだよね」
「……は、はい。あの、家に帰れば食べる物ありますから」
「どうして? 一緒に食べようよ。俺も何も食べてないから。ああ、でも、もうこんな時間だからな。どこかのホテルでルームサービスでも」
「け、結構です!」
慌てて断った私を、高梨室長はまた、悪戯っ子のような瞳で見つめてくる。
「なーんてね。冗談だよ。でもお腹空いたから一緒に食べようよ。そうだな。夜景の綺麗なところにしよう」
「いえ、もう……」
「堀井さん、いつものところよろしく。後、その前にコンビニ」
「かしこまりました」
いつものところ? コンビニ?
一体どこに連れていかれるのかしら?
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