上 下
101 / 127
Episode4 プロデュース第三弾

石垣島ダイビング旅行 ⑮

しおりを挟む
 フワリフワリと往復しながら、心行くまでクリーニングしてもらったマンタ達。
 やがてゆったりと泳ぎ去って行った。

 思わず息を止めて見ていた一華は、慌てて大きく息を吐いた。
 自らの視界に泡の幕ができる。

 龍輝がポンと一華の肩を叩いた。水中スケールを取り出して感動を伝えてくる。

『ラッキーだったね』
『いつもよりゆっくりみれたよ』 

 その時、また龍輝が文字を書きなぐった。
『かめ』

 え、かめ!

 振り返った一華の目の前に、今度は亀もやって来た。

 キャー! 亀も来た!

 一華と龍輝を気にする様子も無く、ひゅーっと近づいてくる。

 珊瑚の隙間に顔を突っ込んでは海藻をもぐもぐ。

 可愛い!

 二人でアイコンタクト。
 亀と一緒にしばらく泳ぐことができた。



 大興奮の一華はボートに戻ってからも、しばらく放心状態で座り込んでいる。
 横にやってきた龍輝がビデオをチェックしながらその様子をチラリ、チラリと見ている。
 
「一華さん、マンタにも亀にも会えるなんて、本当にツイているよ」
「そうだよね。嬉しい。もう、スッゴク可愛かった。ああ、夢が叶ったわ」

 素直に喜びを爆発させている一華が可愛くて仕方ない。

 撮影した一華の姿を確認して、その出来栄えに龍輝も大満足。
 上手く、マンタと一華、亀と一華を同じ画面に映し込むことに成功していた。
 
 これで、一華さんの記念すべき『マンタ&亀との初対面日』が記録に残せたぞ。


 三日連続の海での生活は、ひとまず今日で終わり。
 たくさんの生き物に出会えて未だ興奮冷めやらずの一華は、いつの間にか帰りの車の中で眠ってしまった。

 駐車場に停めて、そうっと一華を覗き込んだ龍輝は、そのまま寝顔をしばらく眺めていた。

 ここにも観察したい女性生き物がいる。
 まだまだ分からないことばかりだけれど、だからこそいくらでも見つめていたくなる。
 でも、他の生き物と違って言葉が通じるから嬉しい。
 
 ずっとがんばっていたからな。疲れたんだろうな。
 
 反対側の扉を開けると、そっと横向きに抱きあげた。


 まどろみの中、急にふわっと浮遊感を感じて、一華ははっと目を開けた。
 目の前には龍輝のたくましい胸板。

 あ、れ? ここはどこ?

 見上げた先に龍輝の顎。揺れる体。

 私、お姫様だっこされている!

 慌てて龍輝の胸を叩く。

「龍輝さん、ありがとう。ごめんね。歩けるから」
「おお、起こしちゃった。ごめん」
 龍輝が足を止めた。
 駐車場からホテルまでの外灯の下。龍輝の顔は陰になっているが、その瞳が優しいことはわかっている。

「ううん。ごめんね。重いでしょ」
「全然」
「でも……」
「折角筋トレしたから、成果を見せたいと思っていたんだ。どう? 乗り心地は」
「……スッゴクいいです」

 胸の中で赤くなって答える。

「嬉しいけれど……とっても嬉しいんだけれど、ホテルの中をこのまま歩くのは、ちょっと恥ずかしくない?」
「そうかなぁ」
 残念そうな龍輝。

「俺は別にいいけれど、一華さんが恥ずかしいなら」
 そう言って、そっと足を降ろしてくれた。
「ごめんね。ありがとう。でも、お姫様気分を味わえて嬉しかった」
「じゃあ、部屋に入ったらもう一度やろう」
「もう、龍輝さんたら」
 
 一華は本気で辞退したい気分だった。

 だって、嬉し過ぎて心臓持たないんだもの!
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】

佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。 異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。 幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。 その事実を1番隣でいつも見ていた。 一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。 25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。 これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。 何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは… 完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。

私の婚約者には、それはそれは大切な幼馴染がいる

下菊みこと
恋愛
絶対に浮気と言えるかは微妙だけど、他者から見てもこれはないわと断言できる婚約者の態度にいい加減決断をしたお話。もちろんざまぁ有り。 ロザリアの婚約者には大切な大切な幼馴染がいる。その幼馴染ばかりを優先する婚約者に、ロザリアはある決心をして証拠を固めていた。 小説家になろう様でも投稿しています。

契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
恋愛
 前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

聖女は妹ではありません。本物の聖女は、私の方です

光子
恋愛
私の双子の妹の《エミル》は、聖女として産まれた。 特別な力を持ち、心優しく、いつも愛を囁く妹は、何の力も持たない、出来損ないの双子の姉である私にも優しかった。 「《ユウナ》お姉様、大好きです。ずっと、仲良しの姉妹でいましょうね」 傍から見れば、エミルは姉想いの可愛い妹で、『あんな素敵な妹がいて良かったわね』なんて、皆から声を掛けられた。 でも違う、私と同じ顔をした双子の妹は、私を好きと言いながら、執着に近い感情を向けて、私を独り占めしようと、全てを私に似せ、奪い、閉じ込めた。 冷たく突き放せば、妹はシクシクと泣き、聖女である妹を溺愛する両親、婚約者、町の人達に、酷い姉だと責められる。 私は妹が大嫌いだった。 でも、それでも家族だから、たった一人の、双子の片割れだからと、ずっと我慢してきた。 「ユウナお姉様、私、ユウナお姉様の婚約者を好きになってしまいました。《ルキ》様は、私の想いに応えて、ユウナお姉様よりも私を好きだと言ってくれました。だから、ユウナお姉様の婚約者を、私に下さいね。ユウナお姉様、大好きです」  ――――ずっと我慢してたけど、もう限界。 好きって言えば何でも許される免罪符じゃないのよ? 今まで家族だからって、双子の片割れだからって我慢してたけど、もう無理。 丁度良いことに、両親から家を出て行けと追い出されたので、このまま家を出ることにします。 さようなら、もう二度と貴女達を家族だなんて思わない。 泣いて助けを求めて来ても、絶対に助けてあげない。 本物の聖女は私の方なのに、馬鹿な人達。 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

YOU BECAME SO…

せんのあすむ
恋愛
公立高校に、幼馴染の内田芙美とともに通う高校生モデル,梁川涼介。 とある日、デザイナーの先生に 太ったから痩せてこいと言われて… 爽やかに笑える、かもしれないラブコメ      こちらも母が遺した短編小説です。 母が管理していたサイトです。アカウントもパスワードもメールアドレスも紛失してしまって放置状態ですが……  → http://moment2009.ojaru.jp/index.html       5/26追記:母が亡くなって未完のままでしたが、せっかくなので私が完結にチャレンジすることにしました。 大失敗の予感しかしませんが、何事もチャレンジだと思います。

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...