上 下
71 / 127
Episode3 プロデュース第二弾

胃袋を掴んで目指せシックスパック! (一華side)⑨

しおりを挟む
 洗い物を終えてほっと一息。

「ねえ、龍輝さん。ソファでちょっと待っていていただけませんか。とっておきを用意するので」
「お、サプライズですね。了解!」

 瞳を輝かせた龍輝、今度は大人しくソファへ腰を下ろした。

 この後は、大人の時間の演出よ!
 まあ、今日直ぐに、どうこうって話じゃ無くて……成り行きでそうなったら別にいいんだけれど……でも、ムードづくりくらいはねぇ。

 色々言い訳しながら、一華はグラスワインの準備をする。

 少しくらいは飲んでもいいよね。後、ちょっとだけ甘い物も。

 手作りナッツ入りブラウニーはカカオ多めのビターな仕上がり。昨夜作って冷やしてあるので、しっとりと濃厚な味わいが深くなっている。
 小さく切り分けて、マスカルポーネチーズを添えて、ミントの葉を飾る。
 
 酸味の少ない赤ワインを合わせたら完璧よ。

 部屋のライトを間接照明に切り替えようと覗いてみれば、ソファのクッションに頭を突っ込んでいる龍輝の姿。

 あ、あれ?

 慌てて近づいてみると、すやすやと眠っている。

 え! 嘘!

 あまりにも無防備な姿に面食らいつつも、チャンスとばかりにそうっと床に座って寝顔を覗いてみた。

 クッションに顔半分埋もれさせながら、気持ち良さそうに寝息をたてている。

 長い睫毛、筋の通った鼻。いつもはきゅっと引き締まっている口元が軽く緩んでいて、ピンクの唇が艶やかだ。
 額に無造作にかかる髪、白い耳朶に繋がる骨ばった顎のラインが引き締まっていて美しい。

 一つ一つに視線を移しながら、一華は心臓の音がどんどん大きくなるのを感じていた。

 忙しいところ、必死で時間を作ってくれたのね。それなのに、ジムで体を動かして、皿洗いまで張り切ってやってくれて。

 一華の家に来ても緊張していないように見えていた龍輝。実はとても気を張っていたのかもしれないと思った。

 お疲れ様……

 心の中で呟きながら、そんな龍輝の寝顔に触れたくて仕方ない。
 体の芯から込み上げてくる衝動に抗いながらも、一華の顔は龍輝に近づいていく。

 龍輝の唇……どんな味がするかしら……

 その時、ぱちりと龍輝の目が開いた。慌てたように起き上がる勢いに押されて、一華も飛びのいた。

「あ! すみません。寝ちゃってた」
「あ、その、あの、お疲れだなと思って」
「ごめん。ソファに座ったらマシュマロに包まれたような感じになって、睡魔に勝てなかった」

 パチパチと瞬きして体を起こした龍輝。飛びのいた格好のまま固まっている一華に、バツの悪そうな笑顔を向けた。

「初訪問で寝ちゃうって、どんだけ図太いヤツだと思われましたよね」
「いえ、お疲れだったんだなと思って。それなのに、ジムで更に疲れさせちゃったかなって」

 一華の言葉に龍輝の瞳が深い色を湛え始めた。

「君は優しいね」
 ふわりと漂う大人の落ち着き、色香。

 一華さんでは無くて、『君』。

 いつもの龍輝と違う雰囲気に、完全に一華は飲まれていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

砕けた愛は、戻らない。

豆狸
恋愛
「殿下からお前に伝言がある。もう殿下のことを見るな、とのことだ」 なろう様でも公開中です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...