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Episode1 マッチングアプリで育成ターゲットをロックオンしました

予想外? いいえ、想定内です! (一華side)①

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 自分の方が早く着いたと思っていた一華は、店の扉を開けた途端に届いた彼からのメッセージに、一気に緊張感を取り戻した。

『すみません。早く着過ぎてしまいました。お店の右一番奥の席を取ってありますので、焦らずに来てください』
 
 待たせない男。第一印象としてはバッチリね。
 しかも席を取って連絡まで入れてくれる。気配りもあってなかなかいいじゃない。

 幸先の良いスタートに思わずにっこりする。

 お店の右一番奥の席ってことは……

 クーラーの効いた店内。滲んでいた汗を抑えるふりをしながら、さり気なく周囲へと目を配った。
  
 右奥はラタンの衝立があって良く見えないけれど、模様の隙間から柔らかそうなふわふわの髪が少しだけ見えた。

 ナチュラルな髪型。うんうん。いい感じ。

「ファイト! 私」
 一華はそう独りごちると、背筋を伸ばして歩き始めた。コツコツと響くヒールの音が自信を添えてくれる。
 
 一歩手前で歩調を緩めて、視線だけ彼の背へ向けた。
 シンプルなストライプの長袖シャツ。捲り上げた袖から見えるのは細いけれど案外筋肉質な腕。肩幅は広くて背の高さを感じさせた。

 プロフィールに記入されていた身体的項目は偽りなさそうね。
 でも……なんだろう? 
 
 なんとなく感じる違和感。想像していたような溌溂とした雰囲気よりは、なんとなく引き締まらない感。ナチュラルなゆるふわヘアと言うよりは、自然乾燥しただけと言うはね具合に、一華の心に警報が鳴る。
 
 でも、ここまで来てしまったし……お話しくらいはするのが礼儀よね?

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