色んなストーカー

なゆか

文字の大きさ
上 下
33 / 53

背中を押す

しおりを挟む
俺の妹の千春は、
中学で虐められたんだか
知らないが
かれこれ5年くらい
部屋に引き篭もっている。

「あんたも声掛けてあげるなりしてあげてよ」

高校を卒業して、
大学入学と共に家を出た俺は
実家に帰省する度に、
母から文句を言われている。

千秋「面倒くせーな、ずっと篭ってんだから
今更、俺がとやかく言っても出てこねーだろ」

「お兄ちゃんでしょ!」

千秋「はぁ…面倒くせー」

母がうるさい為、
妹の部屋の前に行き、乱暴にドアを叩く。

千秋「いい加減出て来いよ、千春」

千春「…無理」

久々に声を聞いたが、声掛けたし
まぁ生きてんならいいだろと
俺は地元の友達らと飲みがある為、
実家を後にした。



?「何々、千春ちゃんは引き篭もってるの?」

千秋「そのせいで親がうっさくてさー、つか
お前、誰だっけ?」

春馬「春馬だよ」

千秋「あー春馬な…まぁいいや、
お前さー、千春の事何とかしてくんね?」

春馬「分かったよ」

千秋「んー、よろしく」

春馬「任せてよ」

酒飲んでうる覚えだが、
そんな話を誰かにした記憶はあった。



千春「お兄ちゃん、起きてよ」

千秋「あったま…いてー」

昨日の飲み会後、誰かに家まで送ってもらって
それで…どうしたんだっけ?

千春「お兄ちゃんは、何考えてるの」

千秋「あ?部屋から出て来たのか」

二日酔いで頭が痛い中、久々に妹の姿見たなと
目を擦り、顔をよく見ると
誰かに殴られたのか鼻血や目に青痣が出来ていて
服も何故かがボロボロだった。

千秋「何だよ、その顔」

千春「お兄ちゃんの無神経のせいじゃん!」

千春は怒ってんのか、
俺の胸ぐらを掴んだ。

千秋「何すんだよ、
二日酔いなんだから揺らすな」

千春「お兄ちゃんがアイツを入れたせいで、
私はまたこんなになった!」

顔を近づけて来る千春を押し退け、
怠い身体を起き上がらせる。

千春「無神経過ぎる!
私の事なんだと思ってるの!」

千秋「耳元で喚くな、
お前は引き篭もりで穀潰しだろ」

千春「酷い!
全部お兄ちゃんのせいなのに!」

千秋「引き篭もり理由を俺のせいにすんな」

千春「全部お兄ちゃんのせいだよ!」

千春の金切り声に耐えらず、
俺は耳を塞ぎながら、立ち上がり
脱衣所に向かう。

千春「お兄ちゃん!」

千秋「あーうるせ、後で話でもなんでも
聞いてやっから、いつもみてーに部屋に篭ってろ」

千春「死ね!馬鹿!」

千春は俺の背中を殴って
脱衣所から出て行った。

千秋「うざ」



「千秋ッ!起きなさい!」

今度はなんだよと、部屋から出ると
母が仁王立ちで立っていた。

千秋「二日酔いなんだよ、勘弁しろよ」

今度は母親の金切り声かよと、
ため息を吐く。

「そんな事どうでもいい!
あんた、何したの!」

千秋「何が」

「千春がまた暴力を振られているじゃない!」

千秋「知らねーよ」

「まさか、また春馬って男を
連れ込んだんじゃないでしょうね!」

千秋「春馬?」

「あんたの中学の時の同級生よ!」

千秋「誰それ」

「千春にあれだけ酷い事した男を覚えてないの?」

そこから、今まで気にも留めていなかった
千春の引き篭もっている原因を説明された。

その春馬ってのが、千春のストーカーで
千春にフラれたのに逆上して、
嫌がらせから始まり、最終的に手を出されたそうだ。

警察には相談済みで、よくある何メートル以上
近付いたら駄目的な規制法?で
今までは近付いて来なかったらしい。

何されたんだから、それがトラウマで
千春は部屋に引き篭もったとの事。

それは俺が家を出た後の話で、
春馬が中学の同級生だったとしても
俺と面識ないし…

千秋「つか、俺の事責めるけど
俺のせいじゃねーし、元中だか知らねーけど
春馬が悪いんだろ。
その規制法?破ったんなら
また警察にでも、相談すりゃいいじゃん」

俺は水を飲もうとするが、
それを母に払われ、水をモロに被る。

「そんな単純な話しじゃないの!
あんた、分かってるの⁉︎
妹がどんな目に遭っていたのか」

千秋「どうでもいい」

帰る度にコレはだる過ぎるなと、
俺は耳を塞ぎ、母の金切り声の中
ドアノブに手を掛ける。

「あんた昨日会って
連れて来たんでしょ!」

千秋「酒飲んでるし、覚えてねーよ」

「あんたッ
自分の妹にストーカーをけしかけるなんて
千春に謝って、あのストーカーを
あんたが何とかしなさい」

千秋「うるさ」

俺は母を押し退けて、部屋のドアを閉める。

廊下から、まだ母の声はするが
俺はベットに倒れ、目を閉じた。



春馬「僕、ずっとね千秋君に憧れていたんだよ。
中学では僕と千秋君は違う世界を生きていたから
話し掛けられる事出来なかったけど、
でも、ずっと見ていたよ。
高校は僕の学力が足りなくて、
同じ学校に通えなくて…あのね、君に会いたくて
妹の千春ちゃんに近付こうとしたけど失敗したんだ。
それで大学受験は駄目になっちゃったけど、
でもね、1年浪人した分君と同じ大学に
行ける事になって…嬉しいな。
それにさっき、君のお母さんが僕を君に任せるって
背中を押してくれたから、
コレでずっと一緒に居られるね、千秋君」

耳元でコソコソと誰かが喋っていて
目を覚ますと、俺の部屋で知らない男が
俺の上に跨っている。

千秋「…あ?」

誰だよコイツ…

春馬「あぁ、起こしちゃったね。
もっと、君の寝顔を見ていたかったんだけど
どんな表情でも、千秋君の事愛してるよ」

千秋「キモい」

酒抜け切れてないのか、暴れる気力が起きない。

千秋「退けよ、水持って来い」

春馬「あぁ…千秋君に
また命令されるなんて嬉しいな」

コイツが千春のストーカーの春馬なんだろう。

春馬は俺の上から退き、部屋から出て行った。

千秋「…はあ」

俺は怠い身体を起き上がらせ、
ベットのヘリに座る。

身体に怠さはあるが、頭は冴えて来ていた。

俺は春馬が千春のストーカーだと知らずに酔っ払って
アイツを家に招いて、千春は再び暴力を振られ
母に怒られた。

さっき春馬は、俺に憧れて千春に
近付いたとか言ってたから、
千春が引き篭ってんのは、俺のせいって事か…

千秋「お兄ちゃんか…」

お兄ちゃんなんだからと、
何度母に言われて来た事か…

父は居ないから、頼れるのは長男の俺ってか?

頭の中でぐるぐると考え、
結論が出ないまま、春馬が部屋に戻って来た。

春馬「持って来たよ」

母と妹しかこの居ない家に、
コイツを野放しにしたのは俺。

千秋「お前、俺の事好きなんだろ」

ガシャンッ

春馬「…えっ」

春馬はコップを落とした。

千秋「聞いてんだけど」

春馬「好きじゃなくて、愛してるよ」

俺の足元に擦り寄って来た春馬は
気持ち悪い笑みを向けてくる。

お兄ちゃんなんだから…

千秋「二度と、俺の妹に近づくな」

俺は兄として、
コイツをどうにかしないといけない。

千秋「お前の事、受け入れてやるから
俺だけに着いて来い」

春馬「うん!」



しおりを挟む

処理中です...