色んなストーカー

なゆか

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戸山「あ…また、間違えてる」

私の部屋の郵便受けに、戸山愛美宛で
ストーカーからの手紙が投函されている。

愛美さんの部屋は、私の部屋の真上で階が違う。

愛美「まーた?」

戸山「まーたですよ」

ここのマンションに越して来てから、
このストーカーからの手紙もそうだが、
苗字が同じ戸山で、名前も似ている為
他にも荷物を間違えられる事があった。

その度、荷物を愛美さんの部屋まで届けていた。

戸山「で、どうします?」

愛美「それ、手紙でしょ?」

戸山「そうですけど」

愛美「その辺に置いておいて」

愛美さんは、ずぼららしくストーカーの事は
警察に相談していないようだ。

戸山「大丈夫なんですか?」

愛美「平気平気、それより
昨日沢山クッキー作ったんだよねー、
太るから持ってって」

皿ごと、クッキーの山を押し付けられ
ドアを閉められた。

戸山「うわ…」

私は、手作りの料理とかお菓子とか
生理的に受け付けない為、たまにこうやって
愛美さんから貰う食べ物系の処分に困っている。

戸山「ストーカーにやればいいんじゃ?」

なんて思いながら、クッキーが落ちないように
エレベーター前に行くと鬼の形相をした
女性がエレベーターから出て来た。

確か、この人は愛美さんの隣人で
部屋で大型犬飼ってるんだが物音がうるさく
大家さんを困らせてる。

「それは?」

戸山「あぁ、愛美さんから貰いました」

「それ、2万で売って」

戸山「…え?」

「売って」

圧凄いなとどんだけクッキー食べたいんだよと
私は皿を差し出した。

戸山「えっいや、お金とか要らないので、
あと、さっき愛美さん沢山作ったって言ってましたよ」

「ありがとう」

さっきまでの鬼の形相から、
笑顔に変わり、横を通り過ぎていった。

戸山「あの人、やばいな」



次の日

戸山「あ、また間違えてる」

また私のポストに愛美さん宛ての手紙が
投函されている。

戸山「好きなら間違えないでよ…」

ストーカーなんだから、用意周到に行動してよと
手紙を取り出す。

戸山「全く、私が警察に相談しようかな」

このまま、愛美さんに
何か遭ったら後味悪いよな…

「こんにちは」

戸山「うわッ⁈」

手紙を持つ手を後ろから掴まれ、
振り返ると愛美さんの隣人だった。

「それ、愛美の手紙だよね?」

戸山「え、あぁっ毎回間違えられてて」

「だから、何度も何度も何度も何度も
愛美の部屋に来るんだね」

戸山「…え?あぁ、そうですね」

「わざわざ、ありがとう。
でも、毎回手間でしょ?
誤った投函は私のポストに入れてくれたら
私が愛美に渡しておくから、ね?」

そう言われ、ラッキーと思ったが
何故かジワリと額に汗が滲んだ。

戸山「あ…ありがとうございます」

愛美さんの隣人は私から手紙を受け取ると、
去って行ってしまった。



次の日

戸山「…まただ、何でこの人」

昨日の今日で
また間違えられて投函されている手紙。

戸山「…あの人のポストに」

私の手は震え、本当に愛美さんの隣人の
ポストに入れて良いのか?と悩んだ結果…

ゴソッ

手紙を掴んだ手を、
自分のポケットに入れていた。

「何してるの」

戸山「…ッ⁈」

後ろから声を掛けられ振り返ると、
愛美さんの隣人が私の手元を見ていた。

「それ、私のだよ」

戸山「え…この手紙
愛美さんのですよね」

「違う、私のだよ」

戸山「何言ってるんですか、だって」

コレは愛美さんのストーカーが書いたものだ。

「私のだから、ソレ返して」

信じられない程強い力で、手紙を奪われた。

戸山「警察に言うべきじゃないんですか」

「どうして?」

戸山「どうしてって…ストーカーじゃないですか、
愛美さんに危害とか」

「危害?」

戸山「まだ、手紙だけかも知れませんけど
住んでるところ知られてる時点で危険ですよ」

「大丈夫」

戸山「何を根拠に?」

「愛美には、危害ないから」

戸山「だから、根拠が無いって
言ってるじゃないですか。
何か遭ってからじゃ遅いんですよ」

「…戸山さんは愛美が心配?」

戸山「は?あぁ、まぁ…」

「なら、私の根拠を特別に見せてあげる」

着いて来いと、私は愛美さんの隣人の
部屋まで行く事になった。



ガチャン

愛美さんの隣人は、異常だった。

戸山「アレに…関わったら駄目だ」

今までの物音は、あの隣人が
愛美さんのストーカーを飼育してる音だった。

戸山「…やばいでしょ」

あんな異常者が同じマンションに居たなんて…

これ以上関わったら、
自分も危険な目に遭うんじゃないかと
すぐにここから引っ越して逃げようと
慌てて荷造りをするが、
本当にこのまま逃げてもいいのかと手を止めた。

ガサッ

戸山「…手紙?」

いつの間に着ていたコートのポケットに
愛美さんへの手紙が入っていた。

【助けて】

手紙に書かれた一言で、
私は自分のスマホを手にした。



30分後、マンションに警察が来た。

「…許さないッ許さないッ許さないッ!
私の邪魔をしたなッ…許さない、許さないッ」

愛美さんの隣人は、私に怒鳴り散らしながら
警察に連行されていった。

戸山「愛美さん、大丈夫ですか?」

愛美「何が?」

戸山「え、何がって」

愛美「せっかく、アレを有効活用してたのに
警察呼ぶとか困っちゃうんだけど」

警察を見送る横で耳を疑った。

愛美「まっいいやー、
すぐに次が見つかるし、ね?」

愛美さんは、私にそう微笑みかけ
事情聴取だと警察と一緒に去っていった。

戸山「…」

おかしいのは、あの隣人だけじゃなかった…
愛美さんもおかしいんだ…

戸山「引っ越そ」

ここに居たらいけない

ここに居たら私もきっと…
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