需要わい

なゆか

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ある生き物の威嚇

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昼休み、相談室を借りて
私は電話の野郎にリダイアルをした。

「どうしたんだい、友永法子」

友永「何考えて私に寄越したのか知りませんけど、
ミミさんを帰らせてください」

「ミミでは、不満か?」

友永「不満どうこうの問題じゃないでしょ、
そもそもがおかしい、なんで欲求不満なミミさんを
私に?間違ってんだろ」

「間違ってはいないよ」

友永「本人が間違ってるって言ってんだから
間違ってんだよッ、宅富とか田岡さんみたいな
需要ある人にしろよ」

「電話口で怒鳴らないでくれ、
聞き取りづらくなる」

友永「…はぁ、とにかくミミさんに代わるんで」

私の前で泣いているミミさんにスマホを差し出すが、
受け取らない。

友永「スピーカーにするんで」

私はスピーカーにして、机に置く。

ミミ「…マスター」

「ミミ?今まで君に出来なかった事なかっただろう。
それなのに今回はどうしたんだ?」

ミミ「法子が嫌がる」

「嫌がる相手でもミミなら」

ミミ「それは駄目、法子に嫌われる」

「なら、別の個体を出すか?」

ミミ「…嫌」

何の話だよと、私は相談室から出た。



相談室から出ると、
林先生、菜摘、宅富の3人が待っていた。

林「昼休みの間だけよ?」

友永「分かってます」

八重津「法子ちゃん、そんなに怒らないでよぉ」

友永「うっさい菜摘」

宅富「何、ミミさん泣かしてんだよ!」

友永「宅富はもっとうるさいわ」

私は相談室の前に座り込む。

八重津「法子ちゃん、昼行かないのぉ?」

友永「ミミさんに触発されて、
勘違いした馬鹿共がいるでしょうが」

相談室の前を往復する男子や、
廊下の影に隠れて様子を窺っている教頭もいる。

宅富「お前が怒ってる理由ってそれかよ」

友永「は?」

宅富「ミミさんが襲われんの嫌なんだろ」

友永「そうだけど、何」

宅富「だから、お前のところにミミさんが
来たんじゃねーの」

友永「は?意味分かんないわ」

八重津「にゃるほど、
今までラブドールとして生きて来たミミさんは
性欲処理しかしたことが無い、つまり
それ以外の経験をさせる為に法子ちゃんと出会い
ラブドールとしてでは無い人生を…」

友永「いや、そんな綺麗事ではない。
あの電話口の野郎、ちゃんと性欲処理玩具だって
言ってたしね」

宅富「ぶち壊すなよ友永」

友永「変な推測すんな」

私はため息を吐き、ドアに寄り掛かると
廊下の奥から、あんま良い噂を聞かない
上級生が来た。

「そこに女居るんだって?」

何ともあからさまなの来たわと、
壁に寄り掛かり続ける。

「暇してたんだわ、そこ退いてくんね?」

林先生はいつの間にどこかに行ってるし、
菜摘も宅富も壁のポスターを観ている。

「聞いてんの?」

友永「はぁ」

イライラするな…これ以上イラつかせんなよ。

上級生2人を見上げ、
ここを通したら、ミミさんは
相手は違えど自分の役目を果たせるだろう。

でも、こんな上級生2人相手に…

ガラッ

後ろのドアが開き、ミミさんが出て来た。

「おっ話に聞いてたけど、超えろいじゃん」

「おねーさん、俺らの相手してよ」

上級生達はすぐにミミさんに絡みに行くが
私は上級生達の足を掴んだ。

「なんだコイツ」

「俺ら今からおねーさんと遊ぶんだから、
邪魔すんなよ、ブス」

ミミ「法子」

友永「ミミさん、帰るんですよね」

ミミ「…帰らない」

友永「そうですか」

「ミミちゃんって言うんだ?
ほら、ブスは退いてな」

上級生達に足蹴りされ、本当どうした事かと
廊下に倒れ込む。

ミミ「法子!」

「はいはい、行こうねー」

ミミ「嫌、法子が良い」

「あ?来いって言ってんだろ」

ミミさんは髪の毛を掴まれ、
相談室に引き摺られて行った。

八重津「法子ちゃん!大丈夫⁈」

宅富「立ち上がれよ、友永!」

ドアが閉まってすぐにポスター観てた
2人が駆け寄って来たが、何なんコイツらと
立ち上がり、相談室のドアを開ける。

「てめ、入って来んなブス」

既に床に押し倒されているミミさん。

友永「…本当自業自得でしょ、
だから、変なのに目付けられて…」

「まじで邪魔すんなよ、ブス」

上級生の1人に頭を殴られ、
これで私も手を上げたら、暴力沙汰とかで
停学になるかもしれない。

本当、こういうのは漫画の中だけで良い…

こうやって、不良上級生に絡まれるとか
普通に真面目に生きて来たら
起こらないハプニングだろ…

そもそも、ラブドールってなんだよッ

友永「最悪、まじで踏んだり蹴ったり」

「あ?」

友永「退いてください、
ミミさんは私のなので」

ミミ「…法子」

「もう俺らのだから、お前はお役御免」

友永「お役御免?
役も何もしてないので」

「ぐだぐだ言ってねーで、まじで出てけよ」

再び頭を殴られ、
殴られて出来たコブを摩りながら思う。

こういうのってどう対処すりゃ良いんだ?

その時、ふと頭に何のヒナだか分からないが
そのヒナの威嚇映像が頭に浮かび、
私は自分の口に二本、指を押し込んだ。



その後の事は鮮明に覚えている。

まず、上級生2人の断末魔、
その後すぐに菜摘と宅富の悲鳴、
2人の悲鳴を聞いた後に
廊下に居た人達の血の引いた顔、
そして、汚いミミさんの笑顔。

友永「ゲプッ…この後の高校生活
どうにでもなれだわ」
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