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暴露

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伊野弘樹
爽やかなイケメンで頭が良く、
顔が小さく良い匂いがする。
身長もそれなりに高く腹筋が割れてるらしいと
話を聞いたことがある。
そして、いつも楽しそうにしている。

風潮なのか知らないが、
イケメンはイケメンと連んでいる。

周りのギャルも可愛い子多いし、
何ともリア充してんなと側から見て、
住む世界違うなと
別次元の人間だという認識をしている。

考えれば考えるほど、彼は乙女ゲーの
攻略キャラにいてもおかしくないなと思う。

山田「おっと…よだれが」

そんな人と喋ったんだなと、あの時の事を
思い出すたび、口の中の唾液が溢れる。

以前は体育祭、文化祭、後夜祭とかで目立ってんな
イケメンご馳走的な存在だったが
今は絡んで来てくれる。

山田「よだれ止まらんな」

伊野「独り言でかくない?」

ガタンッ

山田「痛ッ!」

私は横から声を掛けられ、驚いて足をぶつけた。

伊野「放課後によだれが止まらないとか
何どういう事?」

伊野君は私の机の前にしゃがみ、
見上げて来た。

山田「い……ぬぜ…ここに」

クラス違うのになんで居んだよと
ツッコたいのも、やまやまだが
まぁ驚きで言葉が出ない。

伊野「ぬぜって…ほんと面白いなー。
なんか電気点いてたから気になって来てみた。
つか山田さんこそ、
下校時間過ぎてんのになんでいんの? 
あと、よだれの理由も5文字以内に」

山田「え…えと、その」

大喜利かよと思いながら、理由を…いや
嘘つこうとし、口を開くが…

伊野「はい、残念~5文字過ぎました」

ぶっぶーと、口を尖らせる伊野君に
私は更によだれが…

山田「ごくり」

伊野「あっ今唾飲み込んだ?
まさか、俺と卑猥なことを考えて…」

伊野君は立ち上がり、
胸を隠くすジェスチャーをした。

伊野「へんたーい」

伊野君は笑っているが、私は笑えない。

山田「…はッ」

クッソ萌える…
伊野君に変態と言われた。
何と言うご褒美だ。

山田「…本当勘弁して下さい」

脳内は伊野君フィーバーでパラダイスだが、
実際は何とも耐えられない。

伊野「それ、こっちのセリフでしょ。
俺の卑猥な妄想して、
よだれ垂らすとか山田さん、やばいよね」

山田「やばいのは認めますけど、私にとって
そちらは刺激ブツなんで、絡んでくるたびに
胃が痛いんですよ」

実際に起きる萌えは、ダメージがデカイ。
考えと身体が矛盾している。

関わりたいけど関わりたくない…
妄想ならやりたい放題だけど、リアルは怖い。

伊野「ふーん」

伊野君は再びしゃがんで、
私の顔を覗き込んでくる。

山田「…何してるんですか」

伊野「顔見てる」

山田「な…なぜまた」

伊野「全然目合わせないから」

山田「…ほっ惚れるからやめて下さい」

伊野「目合わせたくらいで、普通惚れる?」

山田「惚れます、そちらはイケメンなので」

伊野「そちらじゃなくて、伊野だからね」

山田「名前呼ぶのもおこがましいんで」

伊野「なんで、そんな卑下すんの?」

山田「卑下というか、
臓器同じなのもおこがましいんで…こうやって
会話してくれるのも、神のご加護的な…
一生味わえない事を今こうして
味わってるんで」

伊野「何言ってんのか、分かんないわ」

伊野君はまた小首を傾げて萌えを爆発させている。

山田「そのくらいテンパってるんで」

伊野「…やっぱ、変わってる」

山田「よく言われます」

伊野「やっぱ、認めてんじゃん。
この前、気のせいとか言ってたくせに」

山田「あの時は仕方なく」

伊野「確かに俺の事追い払ったもんな」

山田「えと…伊野さんは帰らないんですか」

伊野「伊野さんかよ!
じゃっ山田さんと一緒に帰ろっかな」

山田「あっ私、今日学校に泊まるんで」

早く帰って欲しい、もうメンタル崩壊する。

伊野「嘘つけ、なんでそんなんなの?
普通そうやって妄想で
よだれ垂らすほどの相手と下校するなんて
喜んで青春謳歌するでしょ」

山田「伊野さんの思ってる好きと、
私の好きは別もんなんですよ…」

伊野「別もん? ラブじゃなくて、
ライク的な?」

多分リア充にはラブと萌えの違いは、
一生理解出来ないと思う。
それに、価値観が違う。

私なんかがイケメンと交わるなんて
ただの妄想の産物、
実際には決して起こらないのだ。
今こうして起きているのは、神の悪戯
こんなの妄想の産物止まりで良かったのに…

山田「違いますよ」

伊野「ラブでも、ライクでもない
好きって何?」

山田「萌えですよ」

伊野「燃え?」

山田「萌ぇ~の方のオタクの萌えです」

伊野「あ…あー、そっちのか」

全然ピンときていない様子だ。

伊野「…んで、山田さんは
俺の事萌えてるってことか」

山田「はい」

伊野「…むずいわ」

そりゃそうだ。

山田「アニメとか観ないですよね?」

伊野「小学校とかの頃は観てたけど」

山田「乙女ゲームとか知らないですよね?」

伊野「乙女ゲーム?」

山田「乙女ゲームと言うのは、
二次元イケメンとイチャコラする
アドベンチャーゲームの事ですよ。
私はオタクなもんで、
その乙女ゲのイケメンに対しての好きが
伊野さんに向けてる好きなんですよ。
私の見解ですが、心がトゥンクするんじゃなくて、
よだれ垂らすほどハスハスする感じです」

私の説明に遂に顔を引きつらせた伊野君。

山田「二次元と妄想ならイケメンと同等に
なんだって出来ますが、
今みたいにリアルでイケメンに
接しられると心がズタボロなんです」

伊野「つまり、山田さんは俺に
話しかけてくんなって言いたいわけ?」

山田「奇跡くらいの確率なら
糧になりますけど」

伊野「なんなのそれ?
そうやって人に話しかけてくんなって言ったのに
たまに話しかけてきてって」

山田「キモいって思ってください。
そしたら、話しかけるのも嫌になりますよね」

ここまで引かせたんだ。
今後はこんなに関わってくる事をして来ないよなと
本人に直接釘を刺した。

伊野「キモいはキモいけど、
意味わかんないわ。
俺の事嫌いってわけでもなくて、
でも話しかけてくるなって
話しかけるのは奇跡くらいの確率とか…
は?って感じなんだけど」

眉間にシワを寄せて、唸っている伊野君。

伊野「んー…これからの対応困るわ」

福野「私なんかで頭悩ませないでください。
もう空気みたいな存在なんで、
気にしただけ損なんで」

伊野「やっぱよくわかんないわ、どー言う事?
俺は何したらいいわけ?」

伊野君は優しい…
普通に、自分の事考えて
よだれ垂らしてる相手に対し、
今もこうして悩んで話してくれている。

普通だったら、罵詈雑言し拒絶されても
おかしくない…まぁ罵詈雑言は少しだけ
期待してたが…

山田「伊野さんは回れ右して、
帰ればいいんですよ。
それで明日からは空気的な」

伊野「ここまで知って、山田さんを空気とか無理だろ」

山田「じゃあ変わった同級生で」

伊野「山田さんの俺に対する
萌えについては?」

山田「それについては忘れて下さい。
今は伊野さんフィーバーなので
妄想はしてしまいますけど、迷惑は掛けません。
ストーカー行為とかは絶対やらないんで、
そこは保証します。
大体長くて一ヶ月くらいは
フィーバーが続いて、その後は別に移るので」

伊野「忘れろって…
つか、別に移るってどういうこと?」

山田「私は熱しやすくて冷めやすいタイプなもので
アニメのキャラとかハマったら、その時は
そのキャラの事が頭から離れないですけど
次を見つけたら、そのキャラに意識向くんですよ」

伊野「飽きたらポイってこと?
それかなり失礼じゃね…俺に対してもだけど
要はいっときの娯楽って事だろ?」

ごもっとも過ぎて、返答が出来ない。

伊野「黙ったな…はいはい、俺は
山田さんの一ヶ月の娯楽って事ね~なるほど」

伊野君はそっぽを向いた。

まぁ、怒らせても仕方ない…

山田「なんかすいません」

伊野「謝る気ない謝罪ならいらない」

山田「こんなクズなんで、相手にするだけ
無駄って事ですよ、だから」

伊野「だから、関わんなってか?
すっげー、自己中発言」

伊野君を怒らせて、この先学校通えるか
不安になってきた…変な噂とかこの事を
バラされたりでもしたら…

伊野「根っからの変わりもんなんだな。
オタクでキモくて、変態で……」

伊野君は振り返った。

伊野「さっき俺との卑猥な妄想してるって、
否定しなかったけどさ、まじでそんな事考えて
よだれ垂らしてたの? つか、何妄想してた?」

まさかそこを掘られるとは思っていなく
呆然とし、声が出なかった。

伊野「顔背けたな…卑猥な事ってつまり、
俺とエロい事したいって事だろ?」

伊野君は再びしゃがみ込んで
顔を覗き込んで来る。

伊野「何、俺とエロい事したいの?」

その発言に私は爆撃をくらった。

伊野「顔伏せんの?
俺とエロい事する妄想してるのに」

山田「ご…ッ…すいません」

私はテンパり過ぎて、涙が出てきた。

伊野「そこで泣くか普通、
泣きたいのはこっちだわ。
今まで山田さんの妄想で
俺はどんな事されて来たんだか…」

山田「…べ…別にエロだけじゃ…」

伊野「ここで言い訳されてもなー、
結局エロ妄想してたんだろ?」

山田「…しましたけど、でもそれは
もし伊野さんが弟と知り合いで
家に泊まりに来たらとか
関尾さんとかとホモってんのかなとか…」

伊野「否定しないんだね。
つか、まーた新しい言葉出て来たわ。
何俺がホモだって妄想までしてたわけ?」

山田「受けっぽいなとか…」

伊野「山田さんの頭の中で俺やられたい放題かよ」

山田「…それだけ、キャラっぽくて…
ネタのし甲斐が」

伊野「よくもまぁ本人にそれ言い切ったね。
キャラっぽいって俺はアニメとかの
キャラじゃなくて、実際に存在してるから、
それもかなり失礼だからね」

山田「本当すみません…でも
馬鹿にしてるとかじゃなくて…
画面の中の人みたいな」

伊野「画面の中に居なくて、今こうして
対面してるけど?」

私は顔を上げないまま、話しているが
伊野君は私の頭をツンツンと突いた。

山田「…手汚染されますよ。
昨日頭洗ってないから」

伊野「げー、まじかよ」

山田「伊野さんの神聖なるお手を
これ以上汚したく無いので、もう帰った方が
いいですよ。空気感染してしまう」

伊野「発言が中二っぽいな、どんだけだよ」

山田「もうメンタルとか考え方とか
呪われてるんで、関わっただけ
嫌な思いしますんで
早く下校した方がいいです」

伊野「ふーん、山田さんがそこまで言うなら」

ガタンッ

伊野さんは立ち上がったっぽい。

私はそっと顔を上げる。

伊野「帰るわけないじゃん」

目と鼻の先に伊野君の顔があった。

伊野「このまま、卑猥な妄想されるの嫌だし」

目がチカチカする。

伊野「見張ってないとじゃん?」

これは現実なんだよね…彼はなぜここまで挑発
してくんだろ…

私は、ゆっくりと椅子ごと後ろに倒れた。

山田「惚れるだろッ…」

バタンッ

伊野「リアクションが派手!」

笑っている伊野君は、私の事軽蔑してるんだか
よく分からない。

山田「もう軽蔑してくださいよ…」

伊野「軽蔑はしてるよ、
気持ち悪いとも思ってる」

山田「ならなんで笑っていられるんですかッ」

伊野「え? そりゃ面白いから」

山田「価値観違い過ぎて、
私の方がわけわからん」

あんな洗いざらい言ったのに、
面白いからと言われる。

山田「面白けりゃ、自分でどんなこと
思われてもいいって事ですか⁈
心広いな!」

伊野「ここでまさかの褒められるとは
まぁ、もう高校卒業だし
高校におかしい人いたって思い出作り的な?」

思い出の産物か…

伊野「今まで会ったことないタイプだから
貴重な体験してるなって」

山田「前向きだな…流石イケメン」

伊野「山田さんって、
俺の事イケメンとか言うけど
そんな事ないと思うよ、彼女居ないし」

山田「え…完璧なのに
彼女居たことないんですか?」

伊野「いや、居たことはあるけど」

山田「やっぱり、勝ち組ですね。
伊野さんは正真正銘のイケメンですよ。
キャーキャーは言われない、
いや気付いてないだけで女子に
よく見られてますよ。
それだけ目立つ存在なんですよ、モッテモテ」

伊野「モテモテじゃない。
別にキャーキャー言われないし
本当のイケメンって廊下を通っただけで
歓声が起きて、ファンクラブある奴が
モテモテなんじゃん」

山田「そこまで言ったら、アイドルですよ。
伊野さんは一般のイケメンで…
でも伊野さんなら全然アイドルいけますよ」

伊野「山田さんのモテモテの基準が
分かんないわ」

山田「天然なんですか?
伊野さんがちょっと女子引っ掛けたら
絶対お持ち帰り出来るレベルですよ」

伊野「そんな軽くない」

山田「例えばですよ」

伊野「その例え間違ってんだろ。
俺がモテるとしたら、なんで山田さんは
一緒に下校しないんだよ。
引っ掛けたのに、お持ち帰り出来てないじゃん」

山田「私は変わり者だって
言ってるじゃないですか!」

全く話に収集がつかない。

伊野「うわー頭パンクだわ」

山田「だから!
私は伊野さんに対して
卑猥な事を考える対象なので、
そういうリアルにキャッキャウフフする
価値なんてないんですよ!」

ガラッ

私はそう伊野君に伝えた時、
教室のドアが開いた。

先生「なんつう話ししてんだよ。
さっさと帰れ、下校時間とっくに過ぎてんぞ」

山田「誤解です!」

伊野「誤解じゃないです。山田さんが
俺の事を卑猥な目で見てくるんですよ」

先生「…山田、あんまり同級生相手に
問題発言やめとけよ」

伊野「襲われそうになりましたー」

山田「違う! 襲おうなんて
思った事……な、ないです」

先生「そこでどもるなよ山田」

伊野「事実だから、
嘘つけないもんな山田さん」

山田「本当違うんですって!」

先生「はいはい、分かったから
早く下校しろよ」

先生に呆れられ下校を急かされた。

そして、流れ的に伊野君と
帰ることになってしまった。
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