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番外編
大切な人との再会(レイ視点)
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アデナ城を後にして倒れたレイは、エルベラで意識を戻したが二晩早期陣痛にもがき苦しんだ。
母子の命が油断のできない状況の中、陣痛から三日目の早朝にレイは奇跡的に女児を出産した。
そして産後間も無くまた意識を失ったレイが目を覚ましたのは産後二日目の朝だった。
「あれ…私は…。」
「レイ!」
「レイ、本当に目を覚ましたの?」
ぼやけて映るレイの視界に、レイの下に跪くいつも側で支えてくれたレオとずっと会いたかった人の姿が見えた。
レイは夢を見ているのかと、その会いたかった人の頬に手を触れた。
「お母さん?」
「レイ。」
そう言って涙を溜めた顔でレイの両手を握りしめたのは、ナタリーだった。
感動の再会にレイも目を潤ませ、そして薄くなったお腹に手を触れた。
「私の赤ちゃんは?」
レイは最後の壮絶な記憶が蘇り、恐怖で声が震えていた。
しかしレイがレオに視線を移すと、レオは優しく微笑んでおり、レイの頭を優しく撫でた。
「子供は無事に生まれたよ。元気な女の子だった。だけど…。」
レオが俯きながら事実を伝えようとすると、部屋にリリィが赤子を抱き現れた。
そして腕の中で大きな泣き声を上げている赤子を、リリィはレイに渡した。
「私が抱いてもいいのですか?」
「ええ。この子は母子の命と引き換えに、大聖女になるべく力を失って産まれてきました。レイ様の手でお育てください。」
「私の命と引き換えに…!」
レイは子供が起こした奇跡に胸が熱くなりながら、恐る恐る赤子を抱いた。
赤子は泣き止み、目を大きく開けてレイを見つめた。
赤子の金髪碧眼の容貌は父親にそっくりで、レイは驚いた。
「可愛い。セラにそっくり。」
しばらく愛らしい我が子を見つめていると、レイは強く胸を締め付けられ苦しくなった。
レイは胸を抑えて呼吸が荒くなり、赤子をナタリーに託した。
「レイ様。すぐに医者に診てもらいましょう。」
「ええ。その子を頼みます。」
「しばらく私が面倒を見てるわ。」
赤子を抱いたナタリーにそのまま世話を頼むと、レイは胸に手を抑えて深呼吸をし目を瞑った。
間も無くレイを診察した医師からは、出産時に生死を彷徨ったために起きた後遺症が残ってしまったと診断を受けた。
しかし本来は死ぬはずだったその身が生きているという現実に、レイは歓喜した。
レイはしばらく自室で休んでいたが、目が覚めれば赤子の面倒を見たいと落ち着かなかった。
医師の助言の元、カルメンに少しずつ離床を手伝ってもらった。
そして意識が戻って三日が経った早朝に、ナタリーの付き添いの下初めて赤子に乳を上げた。
「レイ。赤ちゃん、本当に可愛いわね。」
「ありがとう。それにお母さんにまた会うことができて本当に嬉しいわ。でも私のせいで大変な思いをさせてしまって、本当にごめんなさい。」
「レイは悪くない。もう大丈夫よ、この通り。レイが危篤だと聞いた時には不安だったけど、レイと孫に会うことができて本当に良かったわ。」
ナタリーはそう微笑むと、レイと赤子を包み込み優しく抱きしめた。
赤子は授乳後眠ってしまったが、時々新生児微笑を見せてくれた。
「レイ。この子の名前は決めた?」
「ええ。サンにしようと思ってるの。」
レイは躊躇うことなくそう言うと、窓の向こうの空を眺めて言った。
「私はサンに初めて会った日の、朝日の光が忘れられなくて。サンには、お日様のように明るく育って欲しいと思ってるの。」
「サン、素敵ね。」
二人は微笑みながらぐっすり眠るサンを見つめ、髪を優しく撫でた。
それから一ヶ月後、レオは故郷へ帰って行った。
そして春先までエルベラに滞在し、一緒に世話をしてくれたナタリーもエラベラを出ることになった。
レイの体調はすっかり良くなっていたが、娘と孫の行く末を不安に思ったナタリーは、レイにあることを提案した。
「レイはこれからどうするの?セラ様を待つの?」
「いいえ。この子を産む決断をした時、セラには頼らないと決めていたの。」
「そう。それでは、レイも私の住む家に一緒に帰りましょう。」
そう言って柔らかく微笑むナタリーに対し、レイはこれ以上迷惑をかけられないと首を横に振った。
しかしレイはもうこれ以上エルベラの加護を受けるわけにもいかないと思っているのは現実であった。
セラには内緒で子供を産んだ自分とサンを受け入れてもらえるのか、レイは恐怖が纏っていたのであった。
「レイは病気のこともあるんだから、サンと二人で自立できる日が来て、私が安心するまでいるのは私と一緒にいるのはどう?私このまま心配で帰れないわ。私のために、親孝行だと思って。」
「駄目よ。私と一緒にいたら、またお母さんが酷い目に遭うかもしれない。」
「レイ、私が住んでいるのは静かな街にある別宅よ。それに私はレイの母親なんですから、孫の成長も見させて頂戴。」
「お母さん…。これからよろしくお願いします。」
レイはセラのことを片隅でも忘れる日はなかった。
しかし今はサンと二人で自立して生活できる日を目指しながら、ナタリーに着いて生きていくことを決めたのだった。
それからレイがセラと再会したのは、二年半の月日が経った時だった。
~
ずっと描きたかった、ナタリーとの再会です(^^)
本当はレイは妊娠せずにナタリーを頼り、城下町で花嫁修行をしてハルクに乗り込む展開も考えました…!!笑
次回はフィン視点の話になります☺︎
母子の命が油断のできない状況の中、陣痛から三日目の早朝にレイは奇跡的に女児を出産した。
そして産後間も無くまた意識を失ったレイが目を覚ましたのは産後二日目の朝だった。
「あれ…私は…。」
「レイ!」
「レイ、本当に目を覚ましたの?」
ぼやけて映るレイの視界に、レイの下に跪くいつも側で支えてくれたレオとずっと会いたかった人の姿が見えた。
レイは夢を見ているのかと、その会いたかった人の頬に手を触れた。
「お母さん?」
「レイ。」
そう言って涙を溜めた顔でレイの両手を握りしめたのは、ナタリーだった。
感動の再会にレイも目を潤ませ、そして薄くなったお腹に手を触れた。
「私の赤ちゃんは?」
レイは最後の壮絶な記憶が蘇り、恐怖で声が震えていた。
しかしレイがレオに視線を移すと、レオは優しく微笑んでおり、レイの頭を優しく撫でた。
「子供は無事に生まれたよ。元気な女の子だった。だけど…。」
レオが俯きながら事実を伝えようとすると、部屋にリリィが赤子を抱き現れた。
そして腕の中で大きな泣き声を上げている赤子を、リリィはレイに渡した。
「私が抱いてもいいのですか?」
「ええ。この子は母子の命と引き換えに、大聖女になるべく力を失って産まれてきました。レイ様の手でお育てください。」
「私の命と引き換えに…!」
レイは子供が起こした奇跡に胸が熱くなりながら、恐る恐る赤子を抱いた。
赤子は泣き止み、目を大きく開けてレイを見つめた。
赤子の金髪碧眼の容貌は父親にそっくりで、レイは驚いた。
「可愛い。セラにそっくり。」
しばらく愛らしい我が子を見つめていると、レイは強く胸を締め付けられ苦しくなった。
レイは胸を抑えて呼吸が荒くなり、赤子をナタリーに託した。
「レイ様。すぐに医者に診てもらいましょう。」
「ええ。その子を頼みます。」
「しばらく私が面倒を見てるわ。」
赤子を抱いたナタリーにそのまま世話を頼むと、レイは胸に手を抑えて深呼吸をし目を瞑った。
間も無くレイを診察した医師からは、出産時に生死を彷徨ったために起きた後遺症が残ってしまったと診断を受けた。
しかし本来は死ぬはずだったその身が生きているという現実に、レイは歓喜した。
レイはしばらく自室で休んでいたが、目が覚めれば赤子の面倒を見たいと落ち着かなかった。
医師の助言の元、カルメンに少しずつ離床を手伝ってもらった。
そして意識が戻って三日が経った早朝に、ナタリーの付き添いの下初めて赤子に乳を上げた。
「レイ。赤ちゃん、本当に可愛いわね。」
「ありがとう。それにお母さんにまた会うことができて本当に嬉しいわ。でも私のせいで大変な思いをさせてしまって、本当にごめんなさい。」
「レイは悪くない。もう大丈夫よ、この通り。レイが危篤だと聞いた時には不安だったけど、レイと孫に会うことができて本当に良かったわ。」
ナタリーはそう微笑むと、レイと赤子を包み込み優しく抱きしめた。
赤子は授乳後眠ってしまったが、時々新生児微笑を見せてくれた。
「レイ。この子の名前は決めた?」
「ええ。サンにしようと思ってるの。」
レイは躊躇うことなくそう言うと、窓の向こうの空を眺めて言った。
「私はサンに初めて会った日の、朝日の光が忘れられなくて。サンには、お日様のように明るく育って欲しいと思ってるの。」
「サン、素敵ね。」
二人は微笑みながらぐっすり眠るサンを見つめ、髪を優しく撫でた。
それから一ヶ月後、レオは故郷へ帰って行った。
そして春先までエルベラに滞在し、一緒に世話をしてくれたナタリーもエラベラを出ることになった。
レイの体調はすっかり良くなっていたが、娘と孫の行く末を不安に思ったナタリーは、レイにあることを提案した。
「レイはこれからどうするの?セラ様を待つの?」
「いいえ。この子を産む決断をした時、セラには頼らないと決めていたの。」
「そう。それでは、レイも私の住む家に一緒に帰りましょう。」
そう言って柔らかく微笑むナタリーに対し、レイはこれ以上迷惑をかけられないと首を横に振った。
しかしレイはもうこれ以上エルベラの加護を受けるわけにもいかないと思っているのは現実であった。
セラには内緒で子供を産んだ自分とサンを受け入れてもらえるのか、レイは恐怖が纏っていたのであった。
「レイは病気のこともあるんだから、サンと二人で自立できる日が来て、私が安心するまでいるのは私と一緒にいるのはどう?私このまま心配で帰れないわ。私のために、親孝行だと思って。」
「駄目よ。私と一緒にいたら、またお母さんが酷い目に遭うかもしれない。」
「レイ、私が住んでいるのは静かな街にある別宅よ。それに私はレイの母親なんですから、孫の成長も見させて頂戴。」
「お母さん…。これからよろしくお願いします。」
レイはセラのことを片隅でも忘れる日はなかった。
しかし今はサンと二人で自立して生活できる日を目指しながら、ナタリーに着いて生きていくことを決めたのだった。
それからレイがセラと再会したのは、二年半の月日が経った時だった。
~
ずっと描きたかった、ナタリーとの再会です(^^)
本当はレイは妊娠せずにナタリーを頼り、城下町で花嫁修行をしてハルクに乗り込む展開も考えました…!!笑
次回はフィン視点の話になります☺︎
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