上 下
41 / 46
番外編

大切な人との再会(レイ視点)

しおりを挟む
アデナ城を後にして倒れたレイは、エルベラで意識を戻したが二晩早期陣痛にもがき苦しんだ。
母子の命が油断のできない状況の中、陣痛から三日目の早朝にレイは奇跡的に女児を出産した。
そして産後間も無くまた意識を失ったレイが目を覚ましたのは産後二日目の朝だった。

「あれ…私は…。」
「レイ!」
「レイ、本当に目を覚ましたの?」

ぼやけて映るレイの視界に、レイの下に跪くいつも側で支えてくれたレオとずっと会いたかった人の姿が見えた。
レイは夢を見ているのかと、その会いたかった人の頬に手を触れた。

「お母さん?」
「レイ。」

そう言って涙を溜めた顔でレイの両手を握りしめたのは、ナタリーだった。
感動の再会にレイも目を潤ませ、そして薄くなったお腹に手を触れた。

「私の赤ちゃんは?」

レイは最後の壮絶な記憶が蘇り、恐怖で声が震えていた。
しかしレイがレオに視線を移すと、レオは優しく微笑んでおり、レイの頭を優しく撫でた。

「子供は無事に生まれたよ。元気な女の子だった。だけど…。」

レオが俯きながら事実を伝えようとすると、部屋にリリィが赤子を抱き現れた。
そして腕の中で大きな泣き声を上げている赤子を、リリィはレイに渡した。

「私が抱いてもいいのですか?」
「ええ。この子は母子の命と引き換えに、大聖女になるべく力を失って産まれてきました。レイ様の手でお育てください。」
「私の命と引き換えに…!」

レイは子供が起こした奇跡に胸が熱くなりながら、恐る恐る赤子を抱いた。
赤子は泣き止み、目を大きく開けてレイを見つめた。
赤子の金髪碧眼の容貌は父親にそっくりで、レイは驚いた。

「可愛い。セラにそっくり。」

しばらく愛らしい我が子を見つめていると、レイは強く胸を締め付けられ苦しくなった。
レイは胸を抑えて呼吸が荒くなり、赤子をナタリーに託した。

「レイ様。すぐに医者に診てもらいましょう。」
「ええ。その子を頼みます。」
「しばらく私が面倒を見てるわ。」

赤子を抱いたナタリーにそのまま世話を頼むと、レイは胸に手を抑えて深呼吸をし目を瞑った。
間も無くレイを診察した医師からは、出産時に生死を彷徨ったために起きた後遺症が残ってしまったと診断を受けた。
しかし本来は死ぬはずだったその身が生きているという現実に、レイは歓喜した。


レイはしばらく自室で休んでいたが、目が覚めれば赤子の面倒を見たいと落ち着かなかった。
医師の助言の元、カルメンに少しずつ離床を手伝ってもらった。
そして意識が戻って三日が経った早朝に、ナタリーの付き添いの下初めて赤子に乳を上げた。

「レイ。赤ちゃん、本当に可愛いわね。」
「ありがとう。それにお母さんにまた会うことができて本当に嬉しいわ。でも私のせいで大変な思いをさせてしまって、本当にごめんなさい。」
「レイは悪くない。もう大丈夫よ、この通り。レイが危篤だと聞いた時には不安だったけど、レイと孫に会うことができて本当に良かったわ。」

ナタリーはそう微笑むと、レイと赤子を包み込み優しく抱きしめた。
赤子は授乳後眠ってしまったが、時々新生児微笑を見せてくれた。

「レイ。この子の名前は決めた?」
「ええ。サンにしようと思ってるの。」

レイは躊躇うことなくそう言うと、窓の向こうの空を眺めて言った。

「私はサンに初めて会った日の、朝日の光が忘れられなくて。サンには、お日様のように明るく育って欲しいと思ってるの。」
「サン、素敵ね。」

二人は微笑みながらぐっすり眠るサンを見つめ、髪を優しく撫でた。


それから一ヶ月後、レオは故郷へ帰って行った。
そして春先までエルベラに滞在し、一緒に世話をしてくれたナタリーもエラベラを出ることになった。
レイの体調はすっかり良くなっていたが、娘と孫の行く末を不安に思ったナタリーは、レイにあることを提案した。

「レイはこれからどうするの?セラ様を待つの?」
「いいえ。この子を産む決断をした時、セラには頼らないと決めていたの。」
「そう。それでは、レイも私の住む家に一緒に帰りましょう。」

そう言って柔らかく微笑むナタリーに対し、レイはこれ以上迷惑をかけられないと首を横に振った。
しかしレイはもうこれ以上エルベラの加護を受けるわけにもいかないと思っているのは現実であった。
セラには内緒で子供を産んだ自分とサンを受け入れてもらえるのか、レイは恐怖が纏っていたのであった。

「レイは病気のこともあるんだから、サンと二人で自立できる日が来て、私が安心するまでいるのは私と一緒にいるのはどう?私このまま心配で帰れないわ。私のために、親孝行だと思って。」
「駄目よ。私と一緒にいたら、またお母さんが酷い目に遭うかもしれない。」
「レイ、私が住んでいるのは静かな街にある別宅よ。それに私はレイの母親なんですから、孫の成長も見させて頂戴。」
「お母さん…。これからよろしくお願いします。」

レイはセラのことを片隅でも忘れる日はなかった。
しかし今はサンと二人で自立して生活できる日を目指しながら、ナタリーに着いて生きていくことを決めたのだった。

それからレイがセラと再会したのは、二年半の月日が経った時だった。



ずっと描きたかった、ナタリーとの再会です(^^)
本当はレイは妊娠せずにナタリーを頼り、城下町で花嫁修行をしてハルクに乗り込む展開も考えました…!!笑

次回はフィン視点の話になります☺︎
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

たった一つの恋

hina
恋愛
『あなたはいつだって私のヒーローだった。なぜあのとき駆け落ちでもいいからあなたと生きる道を考えなかったのか。私は後悔してそして諦めて、偽装の結婚生活を送っている』 幼い頃から孤独で生き辛さを感じていた麗は、ひたすら無垢な想いで自分に接する静流に再会した。 必然に想い合うようになった二人には親同士の悲恋に縛られ、大きな苦難があった。 愛し合う二人が何度も別れを繰り返した末、待ち受けていた運命とはー。 ※ご閲覧ありがとうございます!悲恋、不倫要素あります。苦手な方には申し訳ありません。

処理中です...