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第三幕
二人の王女様の結末
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命からがら、レイはレオと共にアデナ城から無事に脱出することができた。
レイは張り詰めた糸が解れたかのように、帰路でレオに身体を預けて眠ってしまっていた。
「ごめんね…寝ちゃって。」
レイが目を覚ましたのは、レオが馬から降りてエルベラからの使者を待っている時であった。
エルベラに戻れば、レイはもう外に出ることはできない。
レイは最後にマリアと会うことができた満足感と、命をかけて自分の身を守ってくれたレオへの感謝の気持ちで溢れていた。
「レオ。ここまで着いてきてくれて本当にありがとう。私、マリアに再会できて本当に良かった。」
「マリア様がレイにつかみかかろうとした時はどうなるかと思ったけど。良かったよ。これでレイの望みが叶ったのなら。」
「ええ。でも願わくば、最期にやり残したことを身届けたか…。」
レイは話の途中で急に顔色が青くなり、下腹の激痛に襲われた。
「痛い。苦しい…。助けて…。」
レイは痛むお腹を押さえながら意識が遠のき、そのまま前のめりに倒れそうになったのをレオは瞬時に支えた。
そして草原の上に横になったレイは、激痛のたまり目を開けるのもやっとで苦悶していた。
レイの両手を握り締め、慌てふためくレオの周囲に眩しい光が走った。
「レイ様!」
「カル…メン…。」
そんなレイの下にすぐにカルメンが複数の聖女と共に担架を持って現れた。
すぐさまレオと聖女達で、レイを白の担架に乗せた。
聖女達の瞬時の動きを見たレオは、まるでレイが倒れてしまうことが事前に分かっていたのかのようだった。
リリィは予言ができるとカルメンが言っていたことをレオは思い出したが、拳を握り締め分かっていたのであればなぜ避けられなかったのかとレオは憤怒した。
「レイ!レイ!」
「…レオ。」
レオは怒りを抑えながら再びレイの手を握り、レイの名前を呼び続けた。
「お願いします、私の命はいらないからこの子を助けて…。」
「レイ!!」
レイはそう言うと走馬灯のように、これまでの出来事が頭の中を巡った。
『セラ…ごめんね。』
そしてセラと初めて会った日に暖炉の前で寄り添った風景を最後に、レイの意は事切れた。
レイを載せた白い担架はすっかり血の色に染まっていた。
レイは腹部から、大量の出血をしていた。
マリアはレイと別れると、すぐにマヤ王妃様の寝所へと向かった。
マヤ王妃様はここ数日、四六時中唸り苦しみながらかろうじて生きていた。
マリアは一日に数回マヤ王妃様の部屋に訪れ、その苦しむ姿を部屋の隅から見ていた。
マリアはマヤ王妃様の自室から、ずっとマヤ王妃様が綴っていた日記を読んだ。
その日記から、マヤ王妃様は愚かにもアリセナ国の勝運をずっと信じていたことを知った。
そしてアデナ城にマリアと共に向かうことを決めた本当の狙いは、マヤ王妃様自らマリアを殺し、カヌイにアリセナ国の王権を譲ろうとしていたからだった。
マリアは、弱っていくマヤ王妃様の姿を茫然と見ていた。
「貴方はどうして私を産んだのですか。」
自分を赤子の時から現在まで殺めようとしている母親は、どうしてそんなに憎んでまで自分を産んだのだろうかーと、マリアはずっと思っていた。
マリアはもう話すことができないマヤ王妃様に近づくと、その衰えた手を握り自分の頰に当てた。
マヤ王妃様の手は青白く、すっかり熱を失っていた。
「さっき、レイに会いました。私は生きて、この国を守ります。貴方はきっと、そのために私を産んでくれたのですよね。」
そんな自分も国のために母を殺すなんて、狂っているーと、マリアは自虐したを
しかしレイが命をかけて自分に伝えてくれた言葉を思い出し、マリアは絶望の中にも希望を見出して生きる決心をしていた。
マヤ王妃様は一度目を開けてマリアを暫く見つめた。
そして目を瞑ると、静かに息を引き取った。
マヤ王妃様が最期を迎えた頃、アデナ城内はクルート国軍が放った矢で火が上がり、燃え始めていた。
マリアはマヤ王妃様の亡骸を置いて、重いドレスを持ち上げながら火の気のない場所を探して歩いた。
しかし辺りを燃え尽くしている炎でマリアの視界は悪く、足取りはなるにか進まなかった。
マリアは再び絶望感が溢れ、跪いて呟いた。
「ごめんなさいレイ。私はここで、死んでしまう。アリセナ国を守ることができない。これは、実の母親をこの手で殺めた罪なのかしら。」
マリアは懺悔すると、呼吸が苦しくなってきた。
朦朧とする意識の中、燃え上がる瓦礫の中から人が現れたことにマリアは気付いた。
「マリア!」
マリアは自分の名前を呼ばれると同時に、声の主に自分の体を抱き抱えられていた。
耳に残る懐かしい声と煙の中でぼやけて見えるその姿に、マリアはこれは幻ではないのかと現実を信じることができなかった。
「…ゼロ?」
マリアは未だ愛して止まない者の名前を告げると、確かにゼロはそこにいて優しくマリアに微笑みかけていた。
ゼロの腕の中でマリアは意識を失った。
ゼロに命を助けられたマリアは、翌日クルート国軍の陣地にて目を覚ました。
マリアは何よりもすぐに、セラにアリセナ国の降参を告げ、二国の戦争はこうしてアデナ城の終戦で幕を閉じた。
レイは張り詰めた糸が解れたかのように、帰路でレオに身体を預けて眠ってしまっていた。
「ごめんね…寝ちゃって。」
レイが目を覚ましたのは、レオが馬から降りてエルベラからの使者を待っている時であった。
エルベラに戻れば、レイはもう外に出ることはできない。
レイは最後にマリアと会うことができた満足感と、命をかけて自分の身を守ってくれたレオへの感謝の気持ちで溢れていた。
「レオ。ここまで着いてきてくれて本当にありがとう。私、マリアに再会できて本当に良かった。」
「マリア様がレイにつかみかかろうとした時はどうなるかと思ったけど。良かったよ。これでレイの望みが叶ったのなら。」
「ええ。でも願わくば、最期にやり残したことを身届けたか…。」
レイは話の途中で急に顔色が青くなり、下腹の激痛に襲われた。
「痛い。苦しい…。助けて…。」
レイは痛むお腹を押さえながら意識が遠のき、そのまま前のめりに倒れそうになったのをレオは瞬時に支えた。
そして草原の上に横になったレイは、激痛のたまり目を開けるのもやっとで苦悶していた。
レイの両手を握り締め、慌てふためくレオの周囲に眩しい光が走った。
「レイ様!」
「カル…メン…。」
そんなレイの下にすぐにカルメンが複数の聖女と共に担架を持って現れた。
すぐさまレオと聖女達で、レイを白の担架に乗せた。
聖女達の瞬時の動きを見たレオは、まるでレイが倒れてしまうことが事前に分かっていたのかのようだった。
リリィは予言ができるとカルメンが言っていたことをレオは思い出したが、拳を握り締め分かっていたのであればなぜ避けられなかったのかとレオは憤怒した。
「レイ!レイ!」
「…レオ。」
レオは怒りを抑えながら再びレイの手を握り、レイの名前を呼び続けた。
「お願いします、私の命はいらないからこの子を助けて…。」
「レイ!!」
レイはそう言うと走馬灯のように、これまでの出来事が頭の中を巡った。
『セラ…ごめんね。』
そしてセラと初めて会った日に暖炉の前で寄り添った風景を最後に、レイの意は事切れた。
レイを載せた白い担架はすっかり血の色に染まっていた。
レイは腹部から、大量の出血をしていた。
マリアはレイと別れると、すぐにマヤ王妃様の寝所へと向かった。
マヤ王妃様はここ数日、四六時中唸り苦しみながらかろうじて生きていた。
マリアは一日に数回マヤ王妃様の部屋に訪れ、その苦しむ姿を部屋の隅から見ていた。
マリアはマヤ王妃様の自室から、ずっとマヤ王妃様が綴っていた日記を読んだ。
その日記から、マヤ王妃様は愚かにもアリセナ国の勝運をずっと信じていたことを知った。
そしてアデナ城にマリアと共に向かうことを決めた本当の狙いは、マヤ王妃様自らマリアを殺し、カヌイにアリセナ国の王権を譲ろうとしていたからだった。
マリアは、弱っていくマヤ王妃様の姿を茫然と見ていた。
「貴方はどうして私を産んだのですか。」
自分を赤子の時から現在まで殺めようとしている母親は、どうしてそんなに憎んでまで自分を産んだのだろうかーと、マリアはずっと思っていた。
マリアはもう話すことができないマヤ王妃様に近づくと、その衰えた手を握り自分の頰に当てた。
マヤ王妃様の手は青白く、すっかり熱を失っていた。
「さっき、レイに会いました。私は生きて、この国を守ります。貴方はきっと、そのために私を産んでくれたのですよね。」
そんな自分も国のために母を殺すなんて、狂っているーと、マリアは自虐したを
しかしレイが命をかけて自分に伝えてくれた言葉を思い出し、マリアは絶望の中にも希望を見出して生きる決心をしていた。
マヤ王妃様は一度目を開けてマリアを暫く見つめた。
そして目を瞑ると、静かに息を引き取った。
マヤ王妃様が最期を迎えた頃、アデナ城内はクルート国軍が放った矢で火が上がり、燃え始めていた。
マリアはマヤ王妃様の亡骸を置いて、重いドレスを持ち上げながら火の気のない場所を探して歩いた。
しかし辺りを燃え尽くしている炎でマリアの視界は悪く、足取りはなるにか進まなかった。
マリアは再び絶望感が溢れ、跪いて呟いた。
「ごめんなさいレイ。私はここで、死んでしまう。アリセナ国を守ることができない。これは、実の母親をこの手で殺めた罪なのかしら。」
マリアは懺悔すると、呼吸が苦しくなってきた。
朦朧とする意識の中、燃え上がる瓦礫の中から人が現れたことにマリアは気付いた。
「マリア!」
マリアは自分の名前を呼ばれると同時に、声の主に自分の体を抱き抱えられていた。
耳に残る懐かしい声と煙の中でぼやけて見えるその姿に、マリアはこれは幻ではないのかと現実を信じることができなかった。
「…ゼロ?」
マリアは未だ愛して止まない者の名前を告げると、確かにゼロはそこにいて優しくマリアに微笑みかけていた。
ゼロの腕の中でマリアは意識を失った。
ゼロに命を助けられたマリアは、翌日クルート国軍の陣地にて目を覚ました。
マリアは何よりもすぐに、セラにアリセナ国の降参を告げ、二国の戦争はこうしてアデナ城の終戦で幕を閉じた。
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