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婚約パーティー

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 そして春風が吹き渡り、花が咲き乱れる晴れの日。
 とうとう、私とキースの婚約パーティーが開催された。

 私はアリアとシェルから、ニ時間かけて念入りに着替えとヘアメイクをしてもらった。

 全身鏡の前に映る自分の姿を見ると、首元で光るエメラレルド石の輝きに目が奪われた。
 私は少し胸が苦しくなり、目を瞑ると心の中で囁いた。


『ソラが亡くなって、4ヶ月。私、キース王子様と婚約することになったのよ。ソラ、貴方が生きていたら私は今頃ー。』

 急に目頭が熱くなったのを感じ、私は決して消えぬソラへの想いにまた封をした。


 王城内のホールには国内の重役だけでなく、外国からの来客もあり、大変賑わっているようだった。
 主役である私とキースの入場は最後で、私がホールの前に着くと既にキースは私を待っていた。

 振り返るったキースの姿を見て、私はその場で固まった。
 キースはいつも無造作にしていた髪を固めて前髪を上げ、白いタキシードを着こなしていた。

「綺麗…。」

 思わず出た言葉に、私は手で口を覆った。
 キースには聞こえなかったようで、キースは微笑みながら私に近付き跪いた。

「さぁ、行こう。私の可愛いフィアンセ、ルーナ。」

 私は鼓動が早くなるのを感じながら、その手を取って目元を緩めた。
 キースはまるで御伽話に出てきそうな本物の王子様だと、私は思った。


「おめでとうございます、キース様。ルーナ様。」
「キース様、なんて麗しい淑女をお選びになりましたね。」

 婚約パーティーでは常にキースの隣で、本当に大勢の国内外の客人と挨拶を交わした。
 周りから平民出の婚約者だとよく思われないんじゃないかと危惧していたが、意外とそんなことはなく祝福を受けた。

 小一時間ほど経った時、やっとシャンパンに口をつけた私の耳元でキースは呟いた。

「誰も彼も魅了する、立ち振る舞いだよ。平民出だとは思えない。」
「ありがとうございます。」
「さすがティア女王。」

 淑女の振る舞いは、前世から身体に染み付いており、身体が覚えていた。
 ただ来賓の情報だけは必死に覚えて、キースのフォローを受けながら、粗相なくここまで来れた。

「それにしても、キース様。」
「ん?」
「私に対する、年頃の貴族の令嬢達からの態度はよそよそしかったですね。」
「…あぁ。」

 多忙ですっかり忘れていたけど、キースは貴族の令嬢達と楽しく過ごすために私と婚約したのだ。
 キースは苦笑すると、私から目を逸らした。
 少し私の機嫌が悪くなっているのは、何故だろう。


 気まずい空気が流れる私達の前に次に現れたのは、同世代のカップルだった。

「キース様、ご無沙汰しておりました。ルーナ様、初めてお目にかかります。私はリュート・セブラン。隣は、婚約者のエレン・ジューンです。」

 そう名乗って私達に深々と頭を下げた二人は有名人で、私でさえもよく知っていた。
 リュートは宰相の息子で、エレンは社交界の華と呼ばれる公爵令嬢であった。
 茶髪に黒目で長身細身のリュートと、クリクリの紫色の目に桃色の髪で小柄のエレンはお似合いのカップルだった。

「お前がキース様なんて言うなんて、なんか気色悪いな。」
「仕方ないだろ、公式の場なんだから。それにしても、本当に婚約を決めたんだなキース。あんなに貴族との縁談が持ち寄られていたのに、平民の女を選ぶとはな。この女にどんな魅力があるんだ?」
「こら、リュート。その態度と言葉遣い、やめなさい。誰が聞いているか分からないんだから。そういうことはもっと内輪で話さないと。」

 リュートの挑発的な態度から、私のことを良く思っていないんだとすぐに分かった。
 エレンが止める手を避けてリュートは私に近付くと、私にだけ聞こえる声で囁いた。

「没落した伯爵家の令嬢ルーナ。お前、呪われてるんだろ?」

 リュートはキースからひと睨みを受けると、すぐにエレンを連れて人混みの中に消えていった。
 私はキースからリュートから何を言われたのだと問い詰められたが、嘘をついて誤魔化していた。

 しかし私はそれから心ここにあらずの状態で、得意のダンスもあまり上手く踊れなかった。


 婚約パーティーが終わると、私はキースより先に部屋に戻り頭を抱えていた。
 呪われていると言われた真意を考えていた。

 ー私が前世持ちだということを知っている?それとも悲惨な半生のことを指しているのか?

 とりあえずリュートは自分にとって要注意人物だと位置付けた。
 そして気を取り直してベッドに横たわろうとしていた時、ドアがノックされる音が聞こえた。

「ルーナ。今日はお疲れ様。」
「キース様。」

 寝間着に着替えていたキースは、私の部屋に入ると真っ直ぐにベッドに向かい横になった。

「キース様、まさか私の部屋で寝るんですか?」
「当たり。婚約したんだからいいよね、早く来てよルーナ。」

 キースはそう言うと布団を被り、隣の枕を指差し私を呼んだ。
 婚約早々一緒に寝るなんて想定外だった私は、キースの隣に正座して座った。

「私まだ覚悟とかしてないんですけど、そこまではしないですよね?」
「うーん、今日は疲れたからしないけど。」

 キースはなんだか意地悪に笑うと、私の膝の上に頭を寄せた。
 そして本当に疲れていたんだろう、直ぐに寝息を立てるキースの白髪を、私は無造作に撫でていた。


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