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無自覚な執着の芽生え

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 その後、闇商人は全員捕縛。裏で糸を引いていた貴族が赤の騎士隊に脅しをかけてきたが、事前に闇商人と結託していた証拠をそろえていたため、そのまま拘束された。

 そして、赤の騎士隊では少しの変化が……

「そういえば、最近は私に見合いの話がきませんね」

 フリオの言葉に書類にサインをしていたランドルの手が止まる。

「隊長は何かご存知で?」

 意地の悪い質問から逃げるようにランドルがカップを口につけた。

「さ、さあな」

 いつもと同じ珈琲の芳醇な香りと爽やかな苦味が鼻を抜ける。

 まだ若いフリオには幸せな家庭を築いてほしいと考えているのに、あの事件の後から、心が拒否をするようになっていた。

 その結果、フリオへの見合い話を察知すると叩き潰すように。

 しかも、自分以外の誰かがフリオの隣に立っているのを想像するだけで、嫉妬が湧き上がり、それは仕事中でも……

 コンコン。

 軽いノックの音の後、若い騎士が入ってきた。

「失礼します。副隊長に確認したいことがありまして」
「はい、何でしょう?」
「ここの書類についてですが……」

 若い騎士の質問に和やかに答えるフリオ。

 その光景を黙って見つめるランドル。すると、若い騎士の肩がビクリと跳ねて。

「あ、ありがとうございました! あとは大丈夫ですので!」

 と、そそくさと退室した。
 その後ろ姿に、フリオが肩をすくめながら振り返った。

「あまり威圧しないでください」
「威圧? していないが?」
「無意識ですか?」
「は?」

 にっこりと微笑んだフリオがランドルの前に立つ。
 そのまま手を伸ばし、無精ひげが生えた顎に白い指を添えてランドルの顔を上に向かせた。
 端正な顔がゆっくりと近づいてくる。
 吐息がかかるのでは、というほどの距離で、灰色の瞳と茶色の瞳が絡み合う。

「心配しなくても、私はずっと隊長一筋ですよ」

 言葉の意味が分からずポカンとなるランドル。

「……は?」

 フリオが妖艶な微笑みを浮かべて、カップへ視線をずらした。

「毎日、私の珈琲が飲みたくなるように、美味しい珈琲の淹れ方をかなり練習しましたから」

 思わぬ告白にますます頭が混乱しているランドルにフリオが続ける。

「第二性もバレてしまいましたし、これからは積極的にいきますね」

 ランドルが無意識に言葉を反芻する。

「積極的?」

 フリオがスッと離れる。

「はい。まあ、私が積極的にしなくても隊長がかなり威嚇をしたので、隊員たちは勘づいたみたいですが」
「つまり、どういうことだ?」

 ランドルの質問にフリオが微笑む。
 その笑みに枯れていたはずの感情が芽を出す。遠くかなたに忘れてきたはずの独占欲が、情欲が育っていく。心が動かされるのは、面倒だと思っていたのに……

「そういうことですよ」

 すべてを見透かしたように細くなる灰色の瞳。

 その姿にランドルは額を押さえて俯いた。

「……マジか」

 しかも、この感情が嫌ではない自分がいる。
 ランドルは深いため息を吐いた。


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