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節制者
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促されるまま椅子に腰をおろすと、隣の椅子に幼女が手をかけた。
「よいしょ」
可愛らしい声ととも椅子に座る。その動きが可愛らしすぎて、ずっと見ていられる。ただ、十代後半から成人した人たちが集まった中で、その幼い姿は少々浮いていて。
(このまま一緒に話を聞くのかな? 途中で眠くなったりしないかな……あ、この世界の人は寝ないんだった。でも、退屈になるんじゃあ……)
と、いろいろ心配していると、お茶が入ったカップがふよふよと飛んできて、カチャリと私の前に着地する。ちなみに幼女の前にはオレンジの液体が入ったガラスのコップが飛んできた。
カップに口をつけるか悩むところだけど、多種多様な目から穴があくほど見つめられ、なんだか動けない。悪意や敵意がある視線ではなく、興味と好奇心が占める。
緊張で居心地が悪くなっていると、白髪の青年が口を開いた。
「では、改めて自己紹介から始めましょうか。私はイーンシーニスです」
ここで私は幼女が呼んできた名と違うことに気づいた。
「シーニスではなくて?」
「それは愛称です。本名はイーンシーニスです」
そこに、フフフという笑い声がした。
「エカリスちゃんはイーンシーニスって呼ぼうとすると、イーンチーニスってなっちゃうのよね」
「フランマ! うるさいですよ!」
フランマと呼ばれた赤髪の人がニコリと微笑む。それは相手を見下しているのではなく、優しく見守るような目で。
「まぁ、まぁ。エカリスちゃんだけの呼び方なんだから、いいでしょ?」
「わたちだけ?」
「そうよ。みんなはイーンシーニスって呼んでるでしょ? エカリスちゃんだけの特別よ」
その説明に不満に染まっていた幼女の可愛らしい顔がパァァァと明るくなる。
「わたちだけ! 特別!」
腰に手をあてて、フン! と胸を張る。その姿は素直で愛らしくて。
「ロリの虜になっちゃう……」
私は両手で顔を覆って天を仰いだ。
「ロリ?」
フランマが反応したが、それをイーンシーニスが遮る。
「気にしない方がいい単語だと思いますので、話を先に進めます。彼は火炎管理人代表のフランマです」
「よろしく」
ツリ目をパチンと軽くウインクする。
彼、ということは男性なんだろうけど、それより気になったのが。
「代表って、管理人は一人じゃないの?」
私の質問にフランマが肩をすくめて答える。
「一人ですべてを管理できるわけないじゃない。あっちこっちに拠点があって、それぞれの管理人が仕事をしているわ」
「へぇ……」
驚いていると青髪の麗人が話に入った。
「このことを知らないなんて、『星読みの聖女』は本当に違う世界の人なんだね」
「だから、何度も説明したじゃないですか」
そう言うとイーンシーニスが私の方を向いて麗人を紹介した。
「彼女は水海管理人代表のマレです」
「……彼女!?」
そう言われたら女性にも見えるけど、所作がカッコよすぎて男性のイメージになっていた。
マレが綺麗な笑みを浮かべて私に声をかける。
「いつも驚かれるんだよね。よろしく」
「よ、よろしく」
パニックになった頭では愛想笑いを返すだけで精一杯で。
そこに容赦なくイーンシーニスが紹介を続けていく。
「次に風音管理人代表のカエルムです」
刈り上げた緑髪が揺れ、特徴的なタレ目が緩む。
「オレはあの二人に比べたら普通だから。よろしく」
どうやら、カエルムは見た目と性別が合っているらしい。こうなったら、外見と中身の年齢が違うことが些細に感じるようになってきた。
「……よろしくです」
爽やかな普通の青年……耳から魚のヒレが生えているけど。いや、この世界では普通なのかも。
(あ、この世界は魚が空を泳ぐから、その関係?)
納得しかけていると、最後に茶髪の少女が声を出した。
「私は地中管理人代表のペトラと申します。よろしくお願いいたしますわ」
優雅に微笑みながらの自己紹介は前の世界の貴族令嬢たちを思い出す。
でも、あの令嬢たちのようにギスギスとした雰囲気もなく、隙あらば蹴落とそうとする不穏な気配もない。箱入りの穏やかな令嬢、という様相。
「よろしくお願いします」
前の世界もこんな令嬢ばっかりだったら安心できたのに、と無駄な考えが過ぎる。
そこにイーンシーニスが幼女を手で示した。
「あと、こちらはエカリス。私と同じ節制者です」
そこで私は書籍館で読んだ本を思い出した。
この世界は管理しているモノによって髪の色が違う。
気温は火炎管理人で赤髪。
水系は水海管理人で青髪。
気候は風音管理人で緑髪。
重力は地中管理人で茶髪。
フランマたちは本の説明通りの髪の色をしている。けど、白髪については管理しているモノが書かれていなかった。
「白髪は何を管理しているんですか?」
私の質問にイーンシーニスが当然のように答える。
「管理人ではありません。節制者、規律を守る者です」
「規律……もしかして、私が知らない間に規律を乱すようなことをした? それで、ここに連れてこられたの?」
ビクビクする私にイーンシーニスが軽く首を横に振った。
「いえ。規律を乱したのはラディウスです」
「わたちの邪魔をしたんです!」
憤慨するエカリスをイーンシーニスが冷淡な声で注意する。
「私が説明をしますので、エカリスは黙っていてください」
「むー」
白い頬を膨らませ小さな口を尖らせる。不満を隠さず表現しつつも、ちゃんと口を閉じた。その姿は愛らしすぎて。
「あー、もう、偉い! 可愛すぎる!」
私は立ち上がって隣に座るエカリスの真っ白な髪をくしゃくしゃと撫でまわした。
「ちょっ!? なにをするんですか!?」
言葉では怒っているが、顔はどこか嬉しそうにはにかんでいる。小さな頭に柔らかな髪の毛は極上の絹のような触り心地。できれば、このまま抱きしめたいほど。
私の癒しを邪魔するように、咳払いが割って入った。
「で、話を続けていいですか?」
イーンシーニスの冷えた水色の目が私に刺さる。
「はい、お願いします」
体を小さくして自分の席に戻ると、イーンシーニスが一冊の絵本を出した。
「この本を読まれたことはありますか?」
それは書籍館で読んだ絵本だった。
「六つ目の太陽が現れると、世界が闇に包まれて滅びるって書いてある本?」
「そうです。ちなみに、これはおとぎ話ではなく、これから実際に起こることです」
「えっと……どういうこと?」
私は六つ目の太陽を月だと予想したけど、確信はない。他の可能性もあるし、闇も別の何かの比喩かもしれない。
回答を待つ私に無表情だったイーンシーニスが少しだけ困惑した色を浮かべる。
「信じられないかもしれませんが、この闇というモノが本当に存在するのです。すべての太陽が空から消えた時、光がなくなり、世界は闇に包まれます」
言葉が終わると同時に沈黙が落ちる。
誰も視線を合わさず、下を向いたまま微動だにしない。
沈痛な面持ちで、この世の終わりのような雰囲気……なのだけど。
(なんか、すっごく深刻になってるけど、それって……)
私は普通に声を出していた。
「つまり、すべての太陽が沈んで夜になるってことでしょ? けど、時間が経てば太陽は出てくるし、それの何が問題なの?」
私の言葉に全員の視線が集まる。まるで信じられないものを見るような目で。
その中でイーンシーニスが私に訊ねた。
「驚かないのですか?」
「え? 何に驚くの?」
「すべての太陽が空から消えることに、です」
「いや、だって私にとっては夜がないこの世界のほうが驚きだったし」
「へ?」
全員が絶句する。
その中で最初に我に返ったフランマが私の顔を覗き込んだ。
「もしかして、お嬢ちゃんがいた世界だと闇は普通にあったの?」
「夜のことを闇と言うのなら。太陽は一つしかなかったから、一日の半分は夜だったし」
私の発言に、全員が息を呑み……
「「「「「「太陽が一つだけ!?」」」」」」
これだけ個性豊かな面々だが、全員の声が揃った。
と、同時にラディにも同じように驚かれたことを思い出した。
「よいしょ」
可愛らしい声ととも椅子に座る。その動きが可愛らしすぎて、ずっと見ていられる。ただ、十代後半から成人した人たちが集まった中で、その幼い姿は少々浮いていて。
(このまま一緒に話を聞くのかな? 途中で眠くなったりしないかな……あ、この世界の人は寝ないんだった。でも、退屈になるんじゃあ……)
と、いろいろ心配していると、お茶が入ったカップがふよふよと飛んできて、カチャリと私の前に着地する。ちなみに幼女の前にはオレンジの液体が入ったガラスのコップが飛んできた。
カップに口をつけるか悩むところだけど、多種多様な目から穴があくほど見つめられ、なんだか動けない。悪意や敵意がある視線ではなく、興味と好奇心が占める。
緊張で居心地が悪くなっていると、白髪の青年が口を開いた。
「では、改めて自己紹介から始めましょうか。私はイーンシーニスです」
ここで私は幼女が呼んできた名と違うことに気づいた。
「シーニスではなくて?」
「それは愛称です。本名はイーンシーニスです」
そこに、フフフという笑い声がした。
「エカリスちゃんはイーンシーニスって呼ぼうとすると、イーンチーニスってなっちゃうのよね」
「フランマ! うるさいですよ!」
フランマと呼ばれた赤髪の人がニコリと微笑む。それは相手を見下しているのではなく、優しく見守るような目で。
「まぁ、まぁ。エカリスちゃんだけの呼び方なんだから、いいでしょ?」
「わたちだけ?」
「そうよ。みんなはイーンシーニスって呼んでるでしょ? エカリスちゃんだけの特別よ」
その説明に不満に染まっていた幼女の可愛らしい顔がパァァァと明るくなる。
「わたちだけ! 特別!」
腰に手をあてて、フン! と胸を張る。その姿は素直で愛らしくて。
「ロリの虜になっちゃう……」
私は両手で顔を覆って天を仰いだ。
「ロリ?」
フランマが反応したが、それをイーンシーニスが遮る。
「気にしない方がいい単語だと思いますので、話を先に進めます。彼は火炎管理人代表のフランマです」
「よろしく」
ツリ目をパチンと軽くウインクする。
彼、ということは男性なんだろうけど、それより気になったのが。
「代表って、管理人は一人じゃないの?」
私の質問にフランマが肩をすくめて答える。
「一人ですべてを管理できるわけないじゃない。あっちこっちに拠点があって、それぞれの管理人が仕事をしているわ」
「へぇ……」
驚いていると青髪の麗人が話に入った。
「このことを知らないなんて、『星読みの聖女』は本当に違う世界の人なんだね」
「だから、何度も説明したじゃないですか」
そう言うとイーンシーニスが私の方を向いて麗人を紹介した。
「彼女は水海管理人代表のマレです」
「……彼女!?」
そう言われたら女性にも見えるけど、所作がカッコよすぎて男性のイメージになっていた。
マレが綺麗な笑みを浮かべて私に声をかける。
「いつも驚かれるんだよね。よろしく」
「よ、よろしく」
パニックになった頭では愛想笑いを返すだけで精一杯で。
そこに容赦なくイーンシーニスが紹介を続けていく。
「次に風音管理人代表のカエルムです」
刈り上げた緑髪が揺れ、特徴的なタレ目が緩む。
「オレはあの二人に比べたら普通だから。よろしく」
どうやら、カエルムは見た目と性別が合っているらしい。こうなったら、外見と中身の年齢が違うことが些細に感じるようになってきた。
「……よろしくです」
爽やかな普通の青年……耳から魚のヒレが生えているけど。いや、この世界では普通なのかも。
(あ、この世界は魚が空を泳ぐから、その関係?)
納得しかけていると、最後に茶髪の少女が声を出した。
「私は地中管理人代表のペトラと申します。よろしくお願いいたしますわ」
優雅に微笑みながらの自己紹介は前の世界の貴族令嬢たちを思い出す。
でも、あの令嬢たちのようにギスギスとした雰囲気もなく、隙あらば蹴落とそうとする不穏な気配もない。箱入りの穏やかな令嬢、という様相。
「よろしくお願いします」
前の世界もこんな令嬢ばっかりだったら安心できたのに、と無駄な考えが過ぎる。
そこにイーンシーニスが幼女を手で示した。
「あと、こちらはエカリス。私と同じ節制者です」
そこで私は書籍館で読んだ本を思い出した。
この世界は管理しているモノによって髪の色が違う。
気温は火炎管理人で赤髪。
水系は水海管理人で青髪。
気候は風音管理人で緑髪。
重力は地中管理人で茶髪。
フランマたちは本の説明通りの髪の色をしている。けど、白髪については管理しているモノが書かれていなかった。
「白髪は何を管理しているんですか?」
私の質問にイーンシーニスが当然のように答える。
「管理人ではありません。節制者、規律を守る者です」
「規律……もしかして、私が知らない間に規律を乱すようなことをした? それで、ここに連れてこられたの?」
ビクビクする私にイーンシーニスが軽く首を横に振った。
「いえ。規律を乱したのはラディウスです」
「わたちの邪魔をしたんです!」
憤慨するエカリスをイーンシーニスが冷淡な声で注意する。
「私が説明をしますので、エカリスは黙っていてください」
「むー」
白い頬を膨らませ小さな口を尖らせる。不満を隠さず表現しつつも、ちゃんと口を閉じた。その姿は愛らしすぎて。
「あー、もう、偉い! 可愛すぎる!」
私は立ち上がって隣に座るエカリスの真っ白な髪をくしゃくしゃと撫でまわした。
「ちょっ!? なにをするんですか!?」
言葉では怒っているが、顔はどこか嬉しそうにはにかんでいる。小さな頭に柔らかな髪の毛は極上の絹のような触り心地。できれば、このまま抱きしめたいほど。
私の癒しを邪魔するように、咳払いが割って入った。
「で、話を続けていいですか?」
イーンシーニスの冷えた水色の目が私に刺さる。
「はい、お願いします」
体を小さくして自分の席に戻ると、イーンシーニスが一冊の絵本を出した。
「この本を読まれたことはありますか?」
それは書籍館で読んだ絵本だった。
「六つ目の太陽が現れると、世界が闇に包まれて滅びるって書いてある本?」
「そうです。ちなみに、これはおとぎ話ではなく、これから実際に起こることです」
「えっと……どういうこと?」
私は六つ目の太陽を月だと予想したけど、確信はない。他の可能性もあるし、闇も別の何かの比喩かもしれない。
回答を待つ私に無表情だったイーンシーニスが少しだけ困惑した色を浮かべる。
「信じられないかもしれませんが、この闇というモノが本当に存在するのです。すべての太陽が空から消えた時、光がなくなり、世界は闇に包まれます」
言葉が終わると同時に沈黙が落ちる。
誰も視線を合わさず、下を向いたまま微動だにしない。
沈痛な面持ちで、この世の終わりのような雰囲気……なのだけど。
(なんか、すっごく深刻になってるけど、それって……)
私は普通に声を出していた。
「つまり、すべての太陽が沈んで夜になるってことでしょ? けど、時間が経てば太陽は出てくるし、それの何が問題なの?」
私の言葉に全員の視線が集まる。まるで信じられないものを見るような目で。
その中でイーンシーニスが私に訊ねた。
「驚かないのですか?」
「え? 何に驚くの?」
「すべての太陽が空から消えることに、です」
「いや、だって私にとっては夜がないこの世界のほうが驚きだったし」
「へ?」
全員が絶句する。
その中で最初に我に返ったフランマが私の顔を覗き込んだ。
「もしかして、お嬢ちゃんがいた世界だと闇は普通にあったの?」
「夜のことを闇と言うのなら。太陽は一つしかなかったから、一日の半分は夜だったし」
私の発言に、全員が息を呑み……
「「「「「「太陽が一つだけ!?」」」」」」
これだけ個性豊かな面々だが、全員の声が揃った。
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