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正念場です

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「袖が広がっているデザインのドレスで良かった」

 私は左腕のドレスの袖に細工をしてホールに戻った。少しよろめきながら、顔は扇子で半分隠し、体調が悪いフリをする。

 すぐに視線が集まり、人々がざわめく。そこにヒロインを連れたギュレッドが歩いてきた。

「やっと戻ったか。逃げようとしても、そうはいかないぞ。おまえの悪事を白日の下に晒し、追放する」

 ここぞとばかりに意気揚々としていますが、あなた隣のヒロインにこれから殺されますよ。
 と、言いたいけど、グッとこらえる。

「最初におまえがシンシアにしたことは……」

 私がヒロインにした悪事をギュレッドがつらつらと述べていく。えっと……何個か身に覚えのないものがあるのだけど、今は流そう。

 これでもか、とベラベラ話していたギュレッドが言葉を切った。どうも喉が乾いたらしい。これだけ独演会状態のことをしていたら、喉も乾くわよね。

 そのことに気がついたヒロインが飲み物を持ってきた。天窓から月が顔をだす。

「どうぞ、ギュレッド様」
「さすが、シンシア。気がきくな」

 ギュレッドがヒロインから飲み物を受け取った。細長いグラスに入ったシャンパン。気泡とともに白いナニかが揺らめく。

 私は扇子を閉じて素早くギュレッドからグラスを奪った。

「なにをする!?」
「あら、私も説教を聞いてばかりで喉が乾きましたの」
「なんだと!?」

 怒るギュレッドを尻目に私は微笑んだ。そして、グラスに口をつけようとした瞬間――――――――


「ダメ!」


 ヒロインから聞いたことがないほどの大声がでた。しかも、そのまま飛びかかってくる。

 私は急いでシャンパンを口に含んだ。そして、ハンカチを口に当てながら、飛びかかってきたヒロインを軽くかわす。

「あら、あら。いきなり襲ってくるなんて、野蛮な……ゴホッ! ゲホッ!」

 私は飲みかけのシャンパンを近くのテーブルに置いて激しく咳をした。
 体を折り曲げ、お腹を押さえて苦顔する。そして、ひときわ大きな咳と同時に血を吐いた。

「キャー!」
「ワー!」
「医者! 誰か医者を呼べ!」

 そのまま膝から崩れ落ちる私。でも、このまま倒れるわけにはいかない。
 私はこちらを見ているヒロインを指さした。

「ど、毒を、いれた……わね」

 私の一言で周囲がますます騒がしくなる。

「毒だと!?」
「そいつを捕まえろ!」

 ギュレッドがヒロインを抱きしめて叫ぶ。

「シンシアはなにもしていない!」

 護衛がすぐに駆けつけ、ギュレッドとヒロインを引き離す。

 本来なら、この毒を飲んで死ぬのはギュレッド。それから、この混乱の中でヒロインは毒入りシャンパンを処分して姿を消し、密通していた隣国へ。
 そのことを知った王は隣国と戦争をするが、ギュレッドが生前にヒロインへ軍事情報を流していたから、戦況は不利。そこから負け戦が続いて、ついには滅亡。

 そんなルートになったら私の身だって危ない。なんとしても避けないと。

「殿下! 一度安全な場所へ!」
「やめろ! シンシアと私を離すな!」

 混乱の中、私は証拠の毒入りシャンパンを守るため、テーブルにすがりついた。このシャンパンを誰かに処分されたら、ヒロインがギュレッドを殺そうとした証拠が消える。

「これだけは、守らない……と」

 たった一口、口に含んだだけなのに。しかも、ちゃんと吐き出してワインで口をゆすいだのに。
 口の中が痺れて、めまいがする。手足に力が入らない。

「なんて、強力な毒……なのよ」

 朦朧とする意識の中、誰かの手が見えた。

「大丈夫。これは重要な証拠品。悪いようにはしません」
「だ、れ?」
「私は昔あなたに……」

 遠くなっていく声とともに、私は床に倒れた。
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