3 / 5
正念場です
しおりを挟む「袖が広がっているデザインのドレスで良かった」
私は左腕のドレスの袖に細工をしてホールに戻った。少しよろめきながら、顔は扇子で半分隠し、体調が悪いフリをする。
すぐに視線が集まり、人々がざわめく。そこにヒロインを連れたギュレッドが歩いてきた。
「やっと戻ったか。逃げようとしても、そうはいかないぞ。おまえの悪事を白日の下に晒し、追放する」
ここぞとばかりに意気揚々としていますが、あなた隣のヒロインにこれから殺されますよ。
と、言いたいけど、グッとこらえる。
「最初におまえがシンシアにしたことは……」
私がヒロインにした悪事をギュレッドがつらつらと述べていく。えっと……何個か身に覚えのないものがあるのだけど、今は流そう。
これでもか、とベラベラ話していたギュレッドが言葉を切った。どうも喉が乾いたらしい。これだけ独演会状態のことをしていたら、喉も乾くわよね。
そのことに気がついたヒロインが飲み物を持ってきた。天窓から月が顔をだす。
「どうぞ、ギュレッド様」
「さすが、シンシア。気がきくな」
ギュレッドがヒロインから飲み物を受け取った。細長いグラスに入ったシャンパン。気泡とともに白いナニかが揺らめく。
私は扇子を閉じて素早くギュレッドからグラスを奪った。
「なにをする!?」
「あら、私も説教を聞いてばかりで喉が乾きましたの」
「なんだと!?」
怒るギュレッドを尻目に私は微笑んだ。そして、グラスに口をつけようとした瞬間――――――――
「ダメ!」
ヒロインから聞いたことがないほどの大声がでた。しかも、そのまま飛びかかってくる。
私は急いでシャンパンを口に含んだ。そして、ハンカチを口に当てながら、飛びかかってきたヒロインを軽くかわす。
「あら、あら。いきなり襲ってくるなんて、野蛮な……ゴホッ! ゲホッ!」
私は飲みかけのシャンパンを近くのテーブルに置いて激しく咳をした。
体を折り曲げ、お腹を押さえて苦顔する。そして、ひときわ大きな咳と同時に血を吐いた。
「キャー!」
「ワー!」
「医者! 誰か医者を呼べ!」
そのまま膝から崩れ落ちる私。でも、このまま倒れるわけにはいかない。
私はこちらを見ているヒロインを指さした。
「ど、毒を、いれた……わね」
私の一言で周囲がますます騒がしくなる。
「毒だと!?」
「そいつを捕まえろ!」
ギュレッドがヒロインを抱きしめて叫ぶ。
「シンシアはなにもしていない!」
護衛がすぐに駆けつけ、ギュレッドとヒロインを引き離す。
本来なら、この毒を飲んで死ぬのはギュレッド。それから、この混乱の中でヒロインは毒入りシャンパンを処分して姿を消し、密通していた隣国へ。
そのことを知った王は隣国と戦争をするが、ギュレッドが生前にヒロインへ軍事情報を流していたから、戦況は不利。そこから負け戦が続いて、ついには滅亡。
そんなルートになったら私の身だって危ない。なんとしても避けないと。
「殿下! 一度安全な場所へ!」
「やめろ! シンシアと私を離すな!」
混乱の中、私は証拠の毒入りシャンパンを守るため、テーブルにすがりついた。このシャンパンを誰かに処分されたら、ヒロインがギュレッドを殺そうとした証拠が消える。
「これだけは、守らない……と」
たった一口、口に含んだだけなのに。しかも、ちゃんと吐き出してワインで口をゆすいだのに。
口の中が痺れて、めまいがする。手足に力が入らない。
「なんて、強力な毒……なのよ」
朦朧とする意識の中、誰かの手が見えた。
「大丈夫。これは重要な証拠品。悪いようにはしません」
「だ、れ?」
「私は昔あなたに……」
遠くなっていく声とともに、私は床に倒れた。
11
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
平和的に婚約破棄したい悪役令嬢 vs 絶対に婚約破棄したくない攻略対象王子
深見アキ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・シェリルに転生した主人公は平和的に婚約破棄しようと目論むものの、何故かお相手の王子はすんなり婚約破棄してくれそうになくて……?
タイトルそのままのお話。
(4/1おまけSS追加しました)
※小説家になろうにも掲載してます。
※表紙素材お借りしてます。
拾った仔猫の中身は、私に嘘の婚約破棄を言い渡した王太子さまでした。面倒なので放置したいのですが、仔猫が気になるので救出作戦を実行します。
石河 翠
恋愛
婚約者に婚約破棄をつきつけられた公爵令嬢のマーシャ。おバカな王子の相手をせずに済むと喜んだ彼女は、家に帰る途中なんとも不細工な猫を拾う。
助けを求めてくる猫を見捨てられず、家に連れて帰ることに。まるで言葉がわかるかのように賢い猫の相手をしていると、なんと猫の中身はあの王太子だと判明する。猫と王子の入れ替わりにびっくりする主人公。
バカは傀儡にされるくらいでちょうどいいが、可愛い猫が周囲に無理難題を言われるなんてあんまりだという理由で救出作戦を実行することになるが……。
もふもふを愛するヒロインと、かまってもらえないせいでいじけ気味の面倒くさいヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより pp7さまの作品をお借りしております。
【完結】もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~
鬼ヶ咲あちたん
恋愛
内容も知らない乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢は、ヒロインや攻略対象者たちを放って今日も生徒会活動に勤しむ。もったいないおばけは日本人の心! まだ使える物を捨ててしまうなんて、もったいないですわ! 悪役令嬢が取り組む『もったいない革命』に、だんだん生徒会役員たちは巻き込まれていく。「このゲームのヒロインは私なのよ!?」荒れるヒロインから一方的に恨まれる悪役令嬢はどうなってしまうのか?
転生したら乙女ゲームのヒロインの幼馴染で溺愛されてるんだけど…(短編版)
凪ルナ
恋愛
転生したら乙女ゲームの世界でした。
って、何、そのあるある。
しかも生まれ変わったら美少女って本当に、何、そのあるあるな設定。
美形に転生とか面倒事な予感しかしないよね。
そして、何故か私、三咲はな(みさきはな)は乙女ゲームヒロイン、真中千夏(まなかちなつ)の幼馴染になってました。
(いやいや、何で、そうなるんだよ。私は地味に生きていきたいんだよ!だから、千夏、頼むから攻略対象者引き連れて私のところに来ないで!)
と、主人公が、内心荒ぶりながらも、乙女ゲームヒロイン千夏から溺愛され、そして、攻略対象者となんだかんだで関わっちゃう話、になる予定。
ーーーーー
とりあえず短編で、高校生になってからの話だけ書いてみましたが、小学生くらいからの長編を、短編の評価、まあ、つまりはウケ次第で書いてみようかなっと考え中…
長編を書くなら、主人公のはなちゃんと千夏の出会いくらいから、はなちゃんと千夏の幼馴染(攻略対象者)との出会い、そして、はなちゃんのお兄ちゃん(イケメンだけどシスコンなので残念)とはなちゃんのイチャイチャ(これ需要あるのかな…)とか、中学生になって、はなちゃんがモテ始めて、千夏、攻略対象者な幼馴染、お兄ちゃんが焦って…とかを書きたいな、と思ってます。
もし、読んでみたい!と、思ってくれた方がいるなら、よかったら、感想とか書いてもらって、そこに書いてくれたら…壁|ω・`)チラッ
【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって
鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー
残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?!
待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!
うわーーうわーーどうしたらいいんだ!
メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!
婚約破棄されたので、契約不履行により、秘密を明かします
tartan321
恋愛
婚約はある種の口止めだった。
だが、その婚約が破棄されてしまった以上、効力はない。しかも、婚約者は、悪役令嬢のスーザンだったのだ。
「へへへ、全部話しちゃいますか!!!」
悪役令嬢っぷりを発揮します!!!
公爵子息に気に入られて貴族令嬢になったけど姑の嫌がらせで婚約破棄されました。傷心の私を癒してくれるのは幼馴染だけです
エルトリア
恋愛
「アルフレッド・リヒテンブルグと、リーリエ・バンクシーとの婚約は、只今をもって破棄致します」
塗装看板屋バンクシー・ペイントサービスを営むリーリエは、人命救助をきっかけに出会った公爵子息アルフレッドから求婚される。
平民と貴族という身分差に戸惑いながらも、アルフレッドに惹かれていくリーリエ。
だが、それを快く思わない公爵夫人は、リーリエに対して冷酷な態度を取る。さらには、許嫁を名乗る娘が現れて――。
お披露目を兼ねた舞踏会で、婚約破棄を言い渡されたリーリエが、失意から再び立ち上がる物語。
著者:藤本透
原案:エルトリア
婚約破棄された悪役令嬢は聖女の力を解放して自由に生きます!
白雪みなと
恋愛
王子に婚約破棄され、没落してしまった元公爵令嬢のリタ・ホーリィ。
その瞬間、自分が乙女ゲームの世界にいて、なおかつ悪役令嬢であることを思い出すリタ。
でも、リタにはゲームにはないはずの聖女の能力を宿しており――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる