上 下
12 / 12

その裏では~ライオネル視点・後編~

しおりを挟む
「チッ、なんだあいつは」
『あなたの大切なお相手の社長よ。敵にまわさないようにね』
「なら、懐柔するか」
『それが賢明ね』

 ここでライオネルが日本語と英語で会話をしていることに気が付いた。

「……日本語が分かるのか?」
『日本語でアニメを見るために勉強したの』

 ブランド物のバックや服にしか興味がなさそうな外見なのに、まさかアニメが趣味とは。

「見た目によらないな」
『そう? 今回の来日だって、秋葉原と池袋乙女ロードへ買い物に行く時間がなければ、あなたのスケジュール調整なんてしなかったわ』
「……そうか」

 ライオネルの本能がこれ以上、詮索するなと警鐘を鳴らす。マネージャーの意外な一面は放置して撮影へ。

 準備を終えてスタジオへ足を踏み込むと、空気が一変した。緊張と怖れが混じりながらも、羨望と嫉妬の気配も感じる。

(いつものことだな。ここの連中はあまり表情に出さないだけマシか)

 気にすることなく周囲を見回していると、なんと雪斗の方からやってきた。
 糸で吊るされたように真っすぐに伸びた背。綺麗な姿勢で隙なく歩く姿はパリコレのランウェイを見ているようで。
 見惚れていると淡い茶髪が目の前で止まった。

「先程はすみませんでした。本日、一緒に撮影させていただくかなめ 雪斗です。よろしくお願いします」

 自己紹介をしながら笑顔で手を出され…………

(なんて、神々しい笑顔だ!? いや、天使か!? ダメだ! 直視できない!)

 最初は手を出して握手をしようとしたが、ライオネルは理性を保つために顔を背けて離れた。だらしなく緩んでしまった口元を慌てて手で隠す。

「落ち着け。落ち着け、俺。とにかく、落ち着くんだ」

 雪斗に聞こえないようにブツブツと自分に言い聞かせる。
 平常心を取り戻すことに必死になりすぎていたため、雪斗が不機嫌になっていることに気づかず。

 こうして、すれ違いのまま撮影が始まった……のだが、トラブルが発生。

 なんと炭酸水を運んでいた新人が目の前でこけた。炭酸水を撒きながら宙を舞うペットボトル。このままでは、雪斗マイエンジェルが炭酸水まみれになる、と頭が判断した時には体が勝手に動いていた。盛大に炭酸水を被り、全身がびしょ濡れに。

(これでは撮影を続けられないが、彼にかからなくて良かった)

 安堵とともに、これで撮影が終了するという寂しさを感じていると、予想外のことが起きた。

 あの可愛らしい天使が盛大に炭酸水をかけてきたのだ。その悪戯をした子どものような楽しげな表情に釣られ、気分があがる。

(君がその気なら、こちらも全力で応えよう)

 こうして予定外の炭酸水のかけあいに。そして、水しぶきに煌めく雪斗にライオネルがますます目を奪われたのは言うまでもない。

 そのまま去り際に連絡先を渡すこともに成功。

 その後、撮影時間以外はずっとスマホを確認して、呼び出し音が鳴るのをひたすら待った。だが、目的の相手からの呼び出し音はないままで。

『あら、あら。ライオネルがフラれるなんてことがあるのね』

 マネージャーであるリサの軽い言葉が重く胸に刺さる。

「……フラれてなどいない」
『でも、連絡がないんでしょ?』
「ぐっ」

 リサが豊満な胸を揺らしながら呆れたように肩をすくめた。

『アプローチされるばっかりだったから、たまには待たされる方の身になればいいのよ。それか、よほどアプローチが下手だったのね』

 まさかの言葉に深緑の瞳が丸くなる。

「……俺は、アプローチしていたのか?」

 その様子に今度はリサの目が丸くなった。

『彼のために日本にまで来たのでしょう? これをアプローチと言わないなら、何て言うの? ストーカー?』

 後半の言葉はライオネルの耳に入っていなかった。

 なぜ、こんなにも雪斗のことが気になったのか。その理由がようやく分かり、これまでの自分の行動に納得する。

「……そうか。そういうことか」

 自覚したライオネルの行動は早かった。
 雪斗の社長から電話番号を聞き出し、無理やり夜の予定を空ける。

「絶対に君を手に入れる」

 分刻みのスケジュールを破壊され、阿鼻叫喚となったスタッフの叫び声を聞きながら、ライオネルが獰猛に白い歯を覗かせる。

「さて、どう攻めるのがいいかな」

 狙いを定めた肉食獣のように深緑の瞳が光を放つ。

「確実に手に入れよう」

 こうして、ライオネルによる本気の狩りが始まった。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

男の娘を好きに成っても良いですか?

小春かぜね
BL
とある投稿サイトで、自分を応援してくれる人を、女性だと信じ好意を持ってしまった主人公。 相手のプロフィールから、思い思いに女性の姿を想像し、日増しにその想いは強く成っていく。 相手プロフィールからの情報で、自分との年齢差が有る事から、過度の交流を悩んでいた主人公だが、意外にも相手側が積極的の感じだ!? これを機会と捉えた主人公は、女性だと思われる人とやりとりを始めるが……衝撃事実に発展する!!!

死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」 すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。 王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。 発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。 国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。 後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。 ――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか? 容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。 怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手? 今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。 急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…? 過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。 ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!? 負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。 ------------------------------------------------------------------- 主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

雪は静かに降りつもる

レエ
BL
満は小学生の時、同じクラスの純に恋した。あまり接点がなかったうえに、純の転校で会えなくなったが、高校で戻ってきてくれた。純は同じ小学校の誰かを探しているようだった。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

Estrella

碧月 晶
BL
強面×色素薄い系 『Twinkle twinkle little star.How I wonder what you are? ────きらきらきらめく小さな星よ。君は一体何ものなの?』 それは、ある日の出来事 俺はそれを目撃した。 「ソレが大丈夫かって聞いてんだよ!」 「あー、…………多分?」 「いや絶対大丈夫じゃねぇだろソレ!!」 「アハハハ、大丈夫大丈夫~」 「笑い事じゃねぇから!」 ソイツは柔らかくて、黒くて、でも白々しくて 変な奴だった。 「お前の目的は、何だったんだよ」 お前の心はどこにあるんだ───。 ─────────── ※Estrella→読み:『エストレージャ』(スペイン語で『星』を意味する言葉)。 ※『*』は(人物・時系列等の)視点が切り替わります。 ※BLove様でも掲載中の作品です。 ※最初の方は凄くふざけてますが、徐々に真面目にシリアス(?)にさせていきます。 ※表紙絵は友人様作です。 ※感想、質問大歓迎です!!

処理中です...