11 / 12
その裏では~ライオネル視点・前編~
しおりを挟む
それは、偶然だった。
ライオネルがたまたま見かけた日本の雑誌。
流行りの服を着て並木道を歩く、よくあるワンシーン。
だが、深緑の瞳はそのページから目が離せなかった。
淡い茶色の髪を風に遊ばせながら、遠くを見つめる色素の薄い茶色の瞳。ツンとした鼻に、儚げな唇。青年と分かる容姿だが美麗という言葉がこの上なく似合う。
夜空に凛と輝く月のような煌めきを放つ人間離れした雰囲気。
一目見た、その瞬間。ライオネルの全身に衝撃が走った。
撮影の時の怪我が原因でアクション俳優としての道が閉ざされ、やけになってモデルへ転身。仕事としてこなすが、ライオネル自身はやりがいも何もなく、抜け殻のようになっていた。
周囲の注意に耳を傾けることもなく、自堕落な日々。そんなライオネルに周囲は呆れていた。
だが、すべては一枚の写真で激変する。
「すべては君と一緒に仕事をするためだったんだな」
強烈な運命を感じたライオネルは、すぐにそのモデルについて調べた。
名前は要 雪斗。注目株の新人モデルだという。
「予定は全部キャンセルだ! 日本で彼と仕事をする!」
この言葉に、事務所内が阿鼻叫喚に包まれたのは言うまでもない。
スタッフたちは半泣き状態で数年先まで埋まっているスケジュールを調節。それから、雪斗との撮影の仕事を取りつけ、セッティングした。
こうして、ライオネルは半ば強引に待ち望んでいた日本へ。
祖母と何度も来たことのある見慣れた空港だが、まるで初めて訪れたように新鮮に映った。
(ようやく君と会える)
弾む気持ちを抑え、淡々とスケジュールをこなす。それも、これも、すべては雪斗とともに仕事をするため。
そして待ちに待った、その日がやってきた。
表情には出さなかったが、天にも昇る気持ちで撮影スタジオの廊下を歩くライオネル。その少し先を淡い茶色の髪が揺れている。
(……まさか)
顔を確認するまでもない。月のように淡く柔らかい光が包み、彼の周囲だけ空気が違う。
(どうするか……)
声をかけることに戸惑うなんて、これまでの人生で一度もなかった。いや、いつも声をかけられる側で声をかけることがなかったのだ。
それだけではなく、ここまで一人の人間を追いかけたのも初めてで。
(クソッ。これじゃあ、10代の若造じゃないか)
初めての感覚に戸惑っていると、耳を疑うような言葉が聞こえた。
「人気モデルである僕が、俳優くずれのモデルと撮影なんて……」
(俳優くずれ? まさか、俺のことか!?)
頭から冷や水をかけられたようだった。初めての熱に浮かれていた感情が一気に下がる。
気が付けば考えるより先に言葉が出ていた。
「ほう? 俳優出身のモデルとは仕事できない、と?」
目の前の肩がビクリと跳ねる。それから、慌てたように振り返った。
「いや、そうではなく……」
色素の薄い茶色の瞳がライオネルを捕らえる。
その瞬間、世界が止まった――――――
風に揺れる軽やかな淡い茶髪。大きな目に高すぎない鼻。花弁のような唇に、象牙のように滑らかな肌。そこに、長い手足と均整のとれた体。絵画に描かれたような完璧すぎる容姿。
(あぁ、なんてことだ! 天使が……天使がいる!)
先程の言葉も忘れ、再び熱があがる。
呆然と見上げる雪斗に見惚れるライオネル。
そこに耳障りな甲高い英語が響いた。
『ライオネル、メイク室はコッチよ』
マネージャーのリサがライオネルの腕をガッシリと捕獲する。
少しでも目を離すと雪斗を探してふらつくため探し回っていたのだ。しかし、深緑の目には可憐な天使しか映っておらず、言葉もほとんど耳に入っていない。
感動のあまりライオネルが動けずにいると、目の前の天使が微笑んだ。
「言葉の通りですよ。女性に現を抜かしているようなヤツとなんか……んぐっ!?」
天上の音楽を紡ぐ声が突如、止まった。
思わず睨むと50代ぐらいの男が雪斗の口を後ろから塞いでいる。そのまま、微笑みながら頭をさげた。
「うちのモデルが失礼をしました。あとでお詫びに伺いますので」
そう言うと、こちらが話す前に雪斗を引きずって姿を消した。
ライオネルがたまたま見かけた日本の雑誌。
流行りの服を着て並木道を歩く、よくあるワンシーン。
だが、深緑の瞳はそのページから目が離せなかった。
淡い茶色の髪を風に遊ばせながら、遠くを見つめる色素の薄い茶色の瞳。ツンとした鼻に、儚げな唇。青年と分かる容姿だが美麗という言葉がこの上なく似合う。
夜空に凛と輝く月のような煌めきを放つ人間離れした雰囲気。
一目見た、その瞬間。ライオネルの全身に衝撃が走った。
撮影の時の怪我が原因でアクション俳優としての道が閉ざされ、やけになってモデルへ転身。仕事としてこなすが、ライオネル自身はやりがいも何もなく、抜け殻のようになっていた。
周囲の注意に耳を傾けることもなく、自堕落な日々。そんなライオネルに周囲は呆れていた。
だが、すべては一枚の写真で激変する。
「すべては君と一緒に仕事をするためだったんだな」
強烈な運命を感じたライオネルは、すぐにそのモデルについて調べた。
名前は要 雪斗。注目株の新人モデルだという。
「予定は全部キャンセルだ! 日本で彼と仕事をする!」
この言葉に、事務所内が阿鼻叫喚に包まれたのは言うまでもない。
スタッフたちは半泣き状態で数年先まで埋まっているスケジュールを調節。それから、雪斗との撮影の仕事を取りつけ、セッティングした。
こうして、ライオネルは半ば強引に待ち望んでいた日本へ。
祖母と何度も来たことのある見慣れた空港だが、まるで初めて訪れたように新鮮に映った。
(ようやく君と会える)
弾む気持ちを抑え、淡々とスケジュールをこなす。それも、これも、すべては雪斗とともに仕事をするため。
そして待ちに待った、その日がやってきた。
表情には出さなかったが、天にも昇る気持ちで撮影スタジオの廊下を歩くライオネル。その少し先を淡い茶色の髪が揺れている。
(……まさか)
顔を確認するまでもない。月のように淡く柔らかい光が包み、彼の周囲だけ空気が違う。
(どうするか……)
声をかけることに戸惑うなんて、これまでの人生で一度もなかった。いや、いつも声をかけられる側で声をかけることがなかったのだ。
それだけではなく、ここまで一人の人間を追いかけたのも初めてで。
(クソッ。これじゃあ、10代の若造じゃないか)
初めての感覚に戸惑っていると、耳を疑うような言葉が聞こえた。
「人気モデルである僕が、俳優くずれのモデルと撮影なんて……」
(俳優くずれ? まさか、俺のことか!?)
頭から冷や水をかけられたようだった。初めての熱に浮かれていた感情が一気に下がる。
気が付けば考えるより先に言葉が出ていた。
「ほう? 俳優出身のモデルとは仕事できない、と?」
目の前の肩がビクリと跳ねる。それから、慌てたように振り返った。
「いや、そうではなく……」
色素の薄い茶色の瞳がライオネルを捕らえる。
その瞬間、世界が止まった――――――
風に揺れる軽やかな淡い茶髪。大きな目に高すぎない鼻。花弁のような唇に、象牙のように滑らかな肌。そこに、長い手足と均整のとれた体。絵画に描かれたような完璧すぎる容姿。
(あぁ、なんてことだ! 天使が……天使がいる!)
先程の言葉も忘れ、再び熱があがる。
呆然と見上げる雪斗に見惚れるライオネル。
そこに耳障りな甲高い英語が響いた。
『ライオネル、メイク室はコッチよ』
マネージャーのリサがライオネルの腕をガッシリと捕獲する。
少しでも目を離すと雪斗を探してふらつくため探し回っていたのだ。しかし、深緑の目には可憐な天使しか映っておらず、言葉もほとんど耳に入っていない。
感動のあまりライオネルが動けずにいると、目の前の天使が微笑んだ。
「言葉の通りですよ。女性に現を抜かしているようなヤツとなんか……んぐっ!?」
天上の音楽を紡ぐ声が突如、止まった。
思わず睨むと50代ぐらいの男が雪斗の口を後ろから塞いでいる。そのまま、微笑みながら頭をさげた。
「うちのモデルが失礼をしました。あとでお詫びに伺いますので」
そう言うと、こちらが話す前に雪斗を引きずって姿を消した。
27
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
夏の扉を開けるとき
萩尾雅縁
BL
「霧のはし 虹のたもとで 2nd season」
アルビーの留学を控えた二か月間の夏物語。
僕の心はきみには見えない――。
やっと通じ合えたと思ったのに――。
思いがけない闖入者に平穏を乱され、冷静ではいられないアルビー。
不可思議で傍若無人、何やら訳アリなコウの友人たちに振り回され、断ち切れない過去のしがらみが浮かび上がる。
夢と現を両手に掬い、境界線を綱渡りする。
アルビーの心に映る万華鏡のように脆く、危うい世界が広がる――。
*****
コウからアルビーへ一人称視点が切り替わっていますが、続編として内容は続いています。独立した作品としては読めませんので、「霧のはし 虹のたもとで」からお読み下さい。
注・精神疾患に関する記述があります。ご不快に感じられる面があるかもしれません。
(番外編「憂鬱な朝」をプロローグとして挿入しています)
勇者の弟が魔王の配下に恋をした
しょうこ
BL
魔王と人々が争う世界で小さな村に兄と両親で暮らす心優しいノアはある日森の中で不思議な男と出会う。男はディランと名乗り、二人はまた会う約束を交わした。二人はゆっくりと交流を深めていく一方、ノアの兄はタレント持ちとして王都へと旅立つ。
互いの立場を知らないまま、どんどんと惹かれていく二人に立ちはだかるはブラコン勇者にぽんこつ魔王のあれやこれ。
ほのぼのハッピーエンドを目指して頑張ります。
死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!
時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」
すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。
王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。
発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。
国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。
後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。
――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか?
容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。
怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手?
今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。
急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…?
過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。
ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!?
負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。
-------------------------------------------------------------------
主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる