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新人モデルの実力
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何回か撮影したことがある雑誌の表紙。そのため、撮影スタッフも顔見知り。
だが、今日はいつもと雰囲気が違った。緊張と無言の圧が圧し掛かり、新人スタッフなどはその空気にのまれて動きがぎこちない。
「……大丈夫か?」
こういう時の嫌な予感は当たらなくていいのに当たりやすい。
ライオネルがスタジオ入りすると、一瞬で空気が凍った。それまでのざわつきが消え、鎮まり返るスタジオ。男性陣はゴクリと息を呑み、女性陣は緊張しながらも見惚れている。
このままでは、ライオネルの空気に呑まれる。
そう判断した雪斗は、この雰囲気を変えるために踏み出した。
「先程はすみませんでした。本日、一緒に撮影させていただく要 雪斗です。よろしくお願いします」
自己紹介をしながら笑顔で手を出す。
そんな雪斗を深緑の瞳が静かに見下ろし………………スッと顔を背けて離れた。
微妙な間だったが、少し離れた場所に移動したライオネルは右手で口元を押さえてブツブツと呟いている。
そのことに雪斗の中で戦いのゴングが鳴った。
(はぁぁぁぁ!? こっちが下手に出てやったのに! 噂通り、モデルになった目的は女か! 僕が女じゃないから不満なのか!? そっちがその気なら、こっちもヤッてやる! 見てろよ!)
先に失礼なことを言った自分のことは遥か彼方の棚に上げ、ライオネルを女好きの最低男へと評価を下げ、敵対心を燃やしていく。
それでも、今は大事な仕事中。
怒りを抑えた雪斗は、撮影の邪魔にならないように準備された椅子に座った。
スケジュールが詰まっているライオネルが先に一人で撮影をして、次に二人で撮影。そして、最後に雪斗が一人で撮影の予定。
そのため、お手並み拝見とばかりに足を組んで眺めていたのだが。
「……やっぱり、うまいな」
雪斗が表情には出さず、悔しさをこぼす。
モデルは俳優と違ってセリフや動きはない。カメラに収める、その一瞬、その瞬間ですべてを伝えなければならない。たった一枚の写真で読者を虜にする。それは、容易なことでない。
だが、ライオネルという男はそれをやってのける。
「いいね、その視線! もっと、こっちに頂戴! そう、その表情もいいね! 最高だ!」
最初は雰囲気に呑まれかけていたカメラマンも普段の調子で褒めながら次々とシャッターを切っていく。他のスタッフも最初は緊張していたが、最高の被写体にプロ根性が刺激され、ライオネルから最高のパフォーマンスを引き出そうと動く。
この光景に雪斗は口元に手を当てて呟いた。
「……並べる、か?」
この純然たる雄の雰囲気をまとったライオネルの隣に自分は立てるのか。
(見劣りするのでは…………)
思わず浮かんだ弱音。
「いや!」
頭を振って気持ちを振り払う。それから、両手を額に当てて俯いた。
「僕は世界一のモデル。僕は世界一のモデル。僕は……」
これまで見てきたモデル雑誌を思い出しながら暗示のように言い聞かす。
腹は立つが、この仕事が決まってからライオネルの写真集も買い、どの位置、どの角度なら自分が見劣りせずに輝くことができるか研究してきた。足を引っ張るなんて、絶対にしたくない。
見劣りするなんて、以ての外。
「じゃあ、次は二人で! 雪斗君、いけるかい?」
名前を呼ばれて顔をあげる。
「はい」
爽やかな笑顔で立ち上がる。
それだけでスタジオの空気が一変した。撮影のコンセプトである清々しい初夏の風が吹き抜ける。ライオネルが眩しい太陽なら、雪斗は涼しさが漂う清涼な小川。
相手に合わせ、求められるモデル像をそのまま作り出す。
これが脅威の新人モデルであり、依頼が絶えない雪斗の実力だった。
だが、今日はいつもと雰囲気が違った。緊張と無言の圧が圧し掛かり、新人スタッフなどはその空気にのまれて動きがぎこちない。
「……大丈夫か?」
こういう時の嫌な予感は当たらなくていいのに当たりやすい。
ライオネルがスタジオ入りすると、一瞬で空気が凍った。それまでのざわつきが消え、鎮まり返るスタジオ。男性陣はゴクリと息を呑み、女性陣は緊張しながらも見惚れている。
このままでは、ライオネルの空気に呑まれる。
そう判断した雪斗は、この雰囲気を変えるために踏み出した。
「先程はすみませんでした。本日、一緒に撮影させていただく要 雪斗です。よろしくお願いします」
自己紹介をしながら笑顔で手を出す。
そんな雪斗を深緑の瞳が静かに見下ろし………………スッと顔を背けて離れた。
微妙な間だったが、少し離れた場所に移動したライオネルは右手で口元を押さえてブツブツと呟いている。
そのことに雪斗の中で戦いのゴングが鳴った。
(はぁぁぁぁ!? こっちが下手に出てやったのに! 噂通り、モデルになった目的は女か! 僕が女じゃないから不満なのか!? そっちがその気なら、こっちもヤッてやる! 見てろよ!)
先に失礼なことを言った自分のことは遥か彼方の棚に上げ、ライオネルを女好きの最低男へと評価を下げ、敵対心を燃やしていく。
それでも、今は大事な仕事中。
怒りを抑えた雪斗は、撮影の邪魔にならないように準備された椅子に座った。
スケジュールが詰まっているライオネルが先に一人で撮影をして、次に二人で撮影。そして、最後に雪斗が一人で撮影の予定。
そのため、お手並み拝見とばかりに足を組んで眺めていたのだが。
「……やっぱり、うまいな」
雪斗が表情には出さず、悔しさをこぼす。
モデルは俳優と違ってセリフや動きはない。カメラに収める、その一瞬、その瞬間ですべてを伝えなければならない。たった一枚の写真で読者を虜にする。それは、容易なことでない。
だが、ライオネルという男はそれをやってのける。
「いいね、その視線! もっと、こっちに頂戴! そう、その表情もいいね! 最高だ!」
最初は雰囲気に呑まれかけていたカメラマンも普段の調子で褒めながら次々とシャッターを切っていく。他のスタッフも最初は緊張していたが、最高の被写体にプロ根性が刺激され、ライオネルから最高のパフォーマンスを引き出そうと動く。
この光景に雪斗は口元に手を当てて呟いた。
「……並べる、か?」
この純然たる雄の雰囲気をまとったライオネルの隣に自分は立てるのか。
(見劣りするのでは…………)
思わず浮かんだ弱音。
「いや!」
頭を振って気持ちを振り払う。それから、両手を額に当てて俯いた。
「僕は世界一のモデル。僕は世界一のモデル。僕は……」
これまで見てきたモデル雑誌を思い出しながら暗示のように言い聞かす。
腹は立つが、この仕事が決まってからライオネルの写真集も買い、どの位置、どの角度なら自分が見劣りせずに輝くことができるか研究してきた。足を引っ張るなんて、絶対にしたくない。
見劣りするなんて、以ての外。
「じゃあ、次は二人で! 雪斗君、いけるかい?」
名前を呼ばれて顔をあげる。
「はい」
爽やかな笑顔で立ち上がる。
それだけでスタジオの空気が一変した。撮影のコンセプトである清々しい初夏の風が吹き抜ける。ライオネルが眩しい太陽なら、雪斗は涼しさが漂う清涼な小川。
相手に合わせ、求められるモデル像をそのまま作り出す。
これが脅威の新人モデルであり、依頼が絶えない雪斗の実力だった。
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