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虚無になりました〜キヌファ視点〜
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ここは竜族の盟主の城。私は盟主補佐として、ここで仕事をしています。
以前は城での生活が窮屈だから、とあまり寄り付かなかった盟主が、最近はとある事情から城に住むようになり。おかげで、仕事が以前のように溜まることもなく、スムーズに処理されるようになったのですが――――――――
盟主であるニアが、私の目の前で机に突っ伏していた。
「なんか、さあ。もう、セリーヌが日に日に可愛くなっててさぁ。まともに顔が見れねぇんだよ」
毎日、執務室に現れるようになった理由がコレ。ガラス工房でセリーヌと顔を合わすのが恥ずかしいそうで。
いい大人が恋愛初心者ですか? 今どきの子どものほうが、しっかりした恋愛してますよ。
「……大丈夫ですか?」
頭の中身は。
と言いかけた言葉はのみこみました。
「いや、もう大丈夫じゃねぇ! あの、サラッサラッでツヤッツヤッな髪。いくらでも撫でていられる。それに、あの澄んだキラッキラッした大きな目。もう、いつまでも見ていられるし。あと、あの小さな顔。両手にすっぽり収まって……」
「はい、はい、はい、はい。もう、いいです。もう、結構」
何回聞いたか、この話。気が長い竜族の私でも、いい加減にキレるレベル。
話を強制終了させた私をニアが口を尖らせてにらむ。
「なんだよ。まだまだこれからなのに」
「何百回と聞きましたので、もう結構です。それなのに、手も握れないそうですね?」
ガタッとニアが椅子から落ちかけた。
「な、なんで、それを知っているんだ!?」
「今まで、あれだけ触って抱き上げたりしていたのに、どうしたのですか?」
「い、いや、あれは……その流れでさ、無意識というか……とにかく! 意識すると、ダメなんだ!」
私は盛大なため息を贈った。筋肉質な巨体でウジウジ悩まれても邪魔にしかなりません。
「セリーヌ殿が悲しんでいましたよ。近づいたり、手が触れたりしたら、あなたが逃げる、と」
「悲しんで!? いや、でも……だって、人族だぞ? あんな華奢で柔らかくて……なんか、触ったら壊れそうなんだよ」
私は思わず口がポカンとあいてしまった。
「あなた、人族の女性とも付き合ったことありましたよね? 一夜限りの関係ですけど」
「あー! もう、それ言うな! 抹消したい過去なんだよ! 若気の至りだ!」
「それなのに、いまさら?」
「あー! もう! いまさらだよ! いまさら! 悪いか!」
あ、開きなおりましたね。
「結婚まで申し込んでおいて、その態度はどうかと思いますけどねぇ」
「だから、もう! 助けてくれ!」
あのニアが。孤立しようが。孤独になろうが。この道、どの道、我が道を行く、オレ様だったニアが。
ますます開きなおって、助けまで求めてくるとは。
見下ろす私の前でニアが机に沈む。私は顎に手をそえて考えた。
「では、距離をあけます?」
「それはない」
「はい、即答。ですが、近くにいられないんですよね?」
「さ、触らなければ大丈夫だ」
ニアが顔を真っ赤にしてそらす。
「では、徐々に触れて慣れていく、ということですか?」
「そ、そうだ、な……徐々に、なら」
「だ、そうですよ」
私はソファーの影に声をかけた。すると、小さな金髪がひょっこりと動き、姿を現す。
それを見たニアの顔が真っ青になった。
「な、ななな、なな、な、なんでっ!?」
セリーヌが恥しそうにうつむいたまま前に出る。そして、おずおずと口をひらいた。
「ニアの態度が最近、よそよそしくて……ガラス作品も一緒に作ってくれないので、キヌファ様に相談したら……あの、こうなりまして」
ニアが魔力を全開でぶつけてきた。即、魔法で結界を張ったので被害はありませんけど。
「キィヌゥファァァ!?」
予想通りの怒り展開。というか、なぜ私が怒られないといけないのか。
「セリーヌ殿を心配させるような態度をとったニアが悪いのでしょう? このままだと竜族の城を出ると言っていたセリーヌ殿を引き止めたんですから、むしろ感謝してください」
「城を出る!?」
ニアの顔がますます青くなった。というか、あの浅黒い肌が蒼白になっている。
セリーヌが俯いたままボソボソと話した。
「だって、ニアはカッコいいし、モテるし……私よりずっとカワイイ子とか、美人の竜族の女性のほうがお似合い……」
その大きな青い瞳には薄っすらと涙が。
「それは、違う!」
ニアが俊足でセリーヌの前に立つ。うつむいたセリーヌの頬に手をそえて上を向かせた。
おい、手も触れない、壊れそう発言、どこいった?
キヌファの心の中のツッコミをよそに、ニアが苦しそうに微笑む。
「オレの相手はおまえだけだ。こんな気持ちになったのは、おまえしかいない。だから、ずっと側にいてくれ。でないと、オレのほうが……」
「…………ニア」
セリーヌのあふれた涙をニアが親指で拭う。
徐々に触れて慣れていく発言は、どこにいった?
キヌファは魂を遠くへ飛ばしながら思った。
他所でやれ!
以前は城での生活が窮屈だから、とあまり寄り付かなかった盟主が、最近はとある事情から城に住むようになり。おかげで、仕事が以前のように溜まることもなく、スムーズに処理されるようになったのですが――――――――
盟主であるニアが、私の目の前で机に突っ伏していた。
「なんか、さあ。もう、セリーヌが日に日に可愛くなっててさぁ。まともに顔が見れねぇんだよ」
毎日、執務室に現れるようになった理由がコレ。ガラス工房でセリーヌと顔を合わすのが恥ずかしいそうで。
いい大人が恋愛初心者ですか? 今どきの子どものほうが、しっかりした恋愛してますよ。
「……大丈夫ですか?」
頭の中身は。
と言いかけた言葉はのみこみました。
「いや、もう大丈夫じゃねぇ! あの、サラッサラッでツヤッツヤッな髪。いくらでも撫でていられる。それに、あの澄んだキラッキラッした大きな目。もう、いつまでも見ていられるし。あと、あの小さな顔。両手にすっぽり収まって……」
「はい、はい、はい、はい。もう、いいです。もう、結構」
何回聞いたか、この話。気が長い竜族の私でも、いい加減にキレるレベル。
話を強制終了させた私をニアが口を尖らせてにらむ。
「なんだよ。まだまだこれからなのに」
「何百回と聞きましたので、もう結構です。それなのに、手も握れないそうですね?」
ガタッとニアが椅子から落ちかけた。
「な、なんで、それを知っているんだ!?」
「今まで、あれだけ触って抱き上げたりしていたのに、どうしたのですか?」
「い、いや、あれは……その流れでさ、無意識というか……とにかく! 意識すると、ダメなんだ!」
私は盛大なため息を贈った。筋肉質な巨体でウジウジ悩まれても邪魔にしかなりません。
「セリーヌ殿が悲しんでいましたよ。近づいたり、手が触れたりしたら、あなたが逃げる、と」
「悲しんで!? いや、でも……だって、人族だぞ? あんな華奢で柔らかくて……なんか、触ったら壊れそうなんだよ」
私は思わず口がポカンとあいてしまった。
「あなた、人族の女性とも付き合ったことありましたよね? 一夜限りの関係ですけど」
「あー! もう、それ言うな! 抹消したい過去なんだよ! 若気の至りだ!」
「それなのに、いまさら?」
「あー! もう! いまさらだよ! いまさら! 悪いか!」
あ、開きなおりましたね。
「結婚まで申し込んでおいて、その態度はどうかと思いますけどねぇ」
「だから、もう! 助けてくれ!」
あのニアが。孤立しようが。孤独になろうが。この道、どの道、我が道を行く、オレ様だったニアが。
ますます開きなおって、助けまで求めてくるとは。
見下ろす私の前でニアが机に沈む。私は顎に手をそえて考えた。
「では、距離をあけます?」
「それはない」
「はい、即答。ですが、近くにいられないんですよね?」
「さ、触らなければ大丈夫だ」
ニアが顔を真っ赤にしてそらす。
「では、徐々に触れて慣れていく、ということですか?」
「そ、そうだ、な……徐々に、なら」
「だ、そうですよ」
私はソファーの影に声をかけた。すると、小さな金髪がひょっこりと動き、姿を現す。
それを見たニアの顔が真っ青になった。
「な、ななな、なな、な、なんでっ!?」
セリーヌが恥しそうにうつむいたまま前に出る。そして、おずおずと口をひらいた。
「ニアの態度が最近、よそよそしくて……ガラス作品も一緒に作ってくれないので、キヌファ様に相談したら……あの、こうなりまして」
ニアが魔力を全開でぶつけてきた。即、魔法で結界を張ったので被害はありませんけど。
「キィヌゥファァァ!?」
予想通りの怒り展開。というか、なぜ私が怒られないといけないのか。
「セリーヌ殿を心配させるような態度をとったニアが悪いのでしょう? このままだと竜族の城を出ると言っていたセリーヌ殿を引き止めたんですから、むしろ感謝してください」
「城を出る!?」
ニアの顔がますます青くなった。というか、あの浅黒い肌が蒼白になっている。
セリーヌが俯いたままボソボソと話した。
「だって、ニアはカッコいいし、モテるし……私よりずっとカワイイ子とか、美人の竜族の女性のほうがお似合い……」
その大きな青い瞳には薄っすらと涙が。
「それは、違う!」
ニアが俊足でセリーヌの前に立つ。うつむいたセリーヌの頬に手をそえて上を向かせた。
おい、手も触れない、壊れそう発言、どこいった?
キヌファの心の中のツッコミをよそに、ニアが苦しそうに微笑む。
「オレの相手はおまえだけだ。こんな気持ちになったのは、おまえしかいない。だから、ずっと側にいてくれ。でないと、オレのほうが……」
「…………ニア」
セリーヌのあふれた涙をニアが親指で拭う。
徐々に触れて慣れていく発言は、どこにいった?
キヌファは魂を遠くへ飛ばしながら思った。
他所でやれ!
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