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やっぱ、絶倫でしょ!?☆

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 スッと身を引いた侍女さんが再び無表情なり、私に訊ねた。

「ところで、なにか食べられますか?」

 いろいろとショックな私はベッドに体を倒した。顔を枕に押しつけ、不貞腐れたように声を出す。

「……あまりほしくないです」
「それは、食べようと思えば食べられるということですか?」

 どこがズレた質問に私は答えに詰まった。

「そう……ですね」
「では、なにを食べますか?」
「食べることが前提ですか」

 顔を横に向けて睨むと、侍女さんが無表情のまま不思議そうに首をかしげる。これはこれで愛嬌があるかも。

「食べられる時に食べておくことは、当然のことではありませんか?」
「……どうしてですか?」
「いつ食べられなくなるか分かりませんから」
「え? そんなに食べ物がないのですか?」
「食べ物はありますが……今日と同じ明日がくるとは限りません。突然、隣国が攻めてきて戦争になるかもしれませんし、内乱が起きて王制が変わるかもしれません」

 平和な世界に浸っていた私は頭を殴られたような衝撃を受けた。
 でも、考えれば分かること。知識としては知っていたけど、実際に自分が体験することになるとは。
 感情の整理がつかない内に侍女さんが話を進める。

「それに、あなたが身代わりだと発覚しましたら、獅子王を騙した罪であなたは処刑されます」

 私は思わず体を起こして叫んだ。

「しょ、処刑!? それって殺されるってこと!?」
「はい。王を騙すことは重罪ですから」
「ま、待って。ウサギ族は? 私は処刑されてウサギ族はお咎めなし?」
「いえ。族長を筆頭にウサギ族は他種族への見せしめとして全員処刑されるでしょう。身代わりが発覚する前に、自ら罪を申し出て慈悲を請えば、まだ情状酌量で一族が全滅する危機だけは避けられると思いますが」

 ゾクリと背中が冷える。異世界だから考え方の違いもあるだろうけど……
 私は思わず自分の頭から垂れている耳を掴んだ。

「それって、私に見ず知らずのウサギ族たちの命もかかっているってこと!? バレたらウサギ族と一緒に心中ってこと!?」
「そうです」
「なにそれ……勘弁してよ……」

 唸る私に侍女さんの淡々とした声が響く。

「違う世界から来たあなたは、ウサギ族がどうなろうと関係ないのではありませんか?」

 思わぬ言葉に私は顔をあげて主張した。

「それでも! 私が原因で今まで普通に暮らしていた人たちが死ぬなんて、夢見悪すぎでしょ!」
「夢を見る前にあなたが処刑されますけど」
「分かってるわよ。それでも! 私のせいで誰かが死ぬのは嫌なの」
「けど、他人ですよね? なぜ、他人の死をいちいち気にするのですか?」

 心底理解できない、という雰囲気の侍女さん。無表情だけど。

(こればっかりは文化と育ちの違いなんだろうな。根底が違う)

 私は理解してもらうことを諦めた。ついでに敬語もやめた。

「そういう考えもあるってこと。私は平和な世界に生きていたから考え方や感覚が違うのもしょうがないわ」
「平和な世界、ですか?」
「平和よ。今日と同じ明日が来るし、食べることの心配をすることはなかったし、安全は保証されていたから。それだけでも、この世界より平和でしょ?」

 侍女さんが無言で固まる。困惑しているのような雰囲気。無表情でも意外と分かりやすい。
 私はここぞとばかりに質問した。

「そういえば、侍女さんの名前は?」
「私の……名、ですか?」
「そう。よかったら教えて」

 この世界のことについて、もっと知らないと元の世界に戻る方法も探せない。侍女さんから、この世界について教えてもらわないと。
 それなら、まずは名前から。

 侍女さんは少し戸惑うような間の後、小さな声で言った。

「ラビ……です」
「ラビさん、ね。この世界について知らないことだらけだから、いろいろ教えてね。ラビさん」
「敬称はつけないでください。あなたのほうが身分は上ですから。それと……その、あまり名は呼ばないでください」
「名前で呼んだらいけない決まり?」
「そうではなく……呼ばれ慣れていませんので」

 そう言ってラビさん……いや、ラビが少し怒ったように顔をそむけた。でも、ウサギ耳はピクピクとこちらを向いている。

(なんか可愛いかも)

 こっそり和んだことがバレたのかラビの鋭い視線が私を刺す。

「で、食事はどうされますか?」
「じゃあ、なにか果物がいいな。あ、ラビのオススメの果物ちょうだい」

 ラビの視線がますますキツくなる。

「ずいぶんと馴れ馴れしい……いえ、軽々し……いえ、素直なご姿勢で」
「私の行動しだいでウサギ族の運命が決まるんでしょ? じゃあ、ウサギ族のラビも私と同じ運命。つまり一蓮托生、運命共同体。仲良くしよ?」

 私の提案にラビが目を丸くする。それでも顔は無表情を維持しようとしているようで、ラビの感情に触れた気がした。



 その後、ラビは果物を準備するために退室。そこまでは良かった。それから、ラビと入れ替わるように獅子王が部屋に来た。

 光りを背負ったような神々しい美丈夫。金髪と筋肉が眩しい。何度見ても好みど真ん中。ずっと鑑賞していたい……けど、相手は王様。

(そうだ! 王様だった!)

 ベッドに座っていた私は慌てて立ち上がろうとしたが、獅子王に手だけで止められた。

「寝ていろ」
「で、ですが」
「忘れ物を取りに来ただけだ」

 そう言って獅子王がテーブルにあったペンを手に取る。筋張った長い指。私の手よりずっと大きい。その手で昨夜は……

 つい思い出してしまい、私は顔が沸騰する。慌てて頭を振ると、たれ耳もパタパタと跳ねた。

「どうした?」
「い、いえ! なんでもありません」

 顔をあげると正面に金髪のイケメン顔。鋭い琥珀の瞳が私を覗き込む。すべてを見抜かされそうで、私は慌てて顔をそらした。

「あ、あの、本当になんでもありませんから! お仕事の途中なんですよね? 私のことは気にせず戻ってください」
「別におまえのことなど気にしていない」

 素っ気ない言葉とともに獅子王が離れる。いや、私がボロボロになるぐらい抱きつぶしといて、その言い方はなくない? 今だって、まだ腰が怠いのに。
 カチンときた私は嫌みっぽく言った。

「気にしてるから、わざわざペンを取りに戻ったのでしょう? じゃなかったら、ペンなんて他にもあるし、他の人に取ってこさせればいいのに。素直じゃないと嫌われますよ」

 私の言葉に立ち去りかけていた獅子王の足が止まる。ここで私は自分の失態に気づいた。
 一声、命令を出せばウサギ族全員を処刑できる権力の持ち主。私の命なんて簡単に奪える。でも、ここで自分の言い分を撤回するのも、なんか悔しい。イケメンだからって、なにをしても言ってもいいわけではない。

 無言でかまえる私に獅子王が振り返る。

(ちくしょう! こうして見るとやっぱり好みど真ん中! いや、好みだからこそ許せないこともある!)

 根性で見返していると獅子王が私に覆い被さった。その迫力に押され、私の体がベッドに倒れる。

(これは壁ドンならぬ、ベッドドン?)

 怒り混じりの琥珀の瞳が私を威圧する。

「おまえにオレのなにがわかる?」
「わかりませんよ」
「は?」

 私の返事が予想外だったのか、獅子王の鋭い気配が薄らぐ。

「会話もロクにしてないのに、あなたのことなんてわかりません」
「……噂ぐらいは聞いているだろ」
「昨日も言いましたが、噂は噂。他人の言葉が混じったもので、あなたの口から出た言葉ではありません」
「……そうか」

 獅子王が体を起こしてドアを睨む。

「入れ」

 その言葉に静かにドアが開き、果物を持ったラビが入ってきた。

「そこに置いておけ」
「はい」

 ラビがサイドテーブルに果物が載った皿を置く。私は視線で助けを求めたが、微笑みを返されただけだった。

(さっき名前を呼んで反応を楽しんでいた仕返しとして放置される!?)

 そう直感した私は慌てて体を起こした。

「ら、ラビ! これは、どういう果物? どうやって食べたら……」
「オレが食べ方を教えてやる」
「ふぇ!?」

 なにか企んだように口角をあげる獅子王。私が硬直した隙にラビが頭をさげて退室した。

「ラビ! まっ……」

 手を伸ばしたけど無情にも閉まるドア。

「どれから食う?」
「ひゃっ!?」

 低い声が私の耳の毛を揺らす。ぞくぞくとした感覚に尻尾の毛もボワッと広がった。

「選ばないなら、適当に口にいれていくぞ」

(果物を食べるだけ、ですよね?)

 私の心の中の問いは見事に裏切られた。



 ピチャピチャと水音が響くのは水分が多い果物のせいだけではない。

「ほら、しっかり閉じないと口からこぼれているぞ」
「だ、だって、ふぅん……あぁ!」

 ラビが部屋から出て行った後、なぜか獅子王の膝にのせられて果物を食べることに。太い腕で力が抜けた体を支えられたまま、あーんと言わんばかりに果物を口に運ばれて。

 いや、それまでは良かった。それが、いつのまにか服に果物の汁が付くからと脱がされ、胸を触られ、気がつけば下から獅子王のモノがはいっ……

「た、食べるから動かなっ……んん! あん!」

 口にいれられたイチゴのような果物を飲み込もうとするけど、ゆるゆると揺すられて口が閉じられない。
 私の口からポタポタと果汁が私の胸に滴り落ちる。

「もったいないだろ」
「ひゃっ! んぅ!」

 獅子王が赤い舌で胸に落ちた果汁を舐めあげた。そのまま胸先を果物のように口に含み、舌で転がす。

(こんな、昼間っから……恥ずかし……)

 私は快楽に染まりかけた頭で、この状況から抜け出す方法をどうにか考える。

「あ、あの……獅子王さ……ま、んあ!」

 胸から獅子王の口が離れる。

「レオ」
「え?」
「レオと呼べ」

 名前で呼べって言われも、呼び捨てはダメだろうから。えっと……

「レオ……さま」
「レオでいい」
「で、ですか……」
「敬語もいらん。侍女と話していた口調で話せ」
「それって、盗み聞きぃ、んんぅ!」

 乱暴にキスをされ口を塞がれる。レオの舌が私の口の中にあったイチゴのような果物を奪う。
 そのまま果物を食べたレオが軽く首をかしげる。

「…………あまいな。こんなに甘かったか?」

 私はレオの胸にすがったまま息を整えた。筋肉ふかふかな胸。こんな状況じゃなかったら堪能したいのに……って、そうじゃなくて!

「れ、レオ? あの、仕事は? 仕事が途中なのでは?」
「今のオレは跡継ぎを作るのも仕事の一つだ」
「でも、今しなくてもぉ……あん! はぁ、あぁ!」

 仕事に戻ってくれれば……という私の儚い希望は一瞬で砕かれ、夜まで抱かれ続けた。
 いや、もう、これ絶倫でしょ。

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