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なにが、どうして、こうなった!?☆

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『おまえはオレがいなくても一人で生きていけるだろ』

 つい先日、そう言われて彼氏にフラれた。ただでさえ蒸し暑くて不快な夏がますます不快になった瞬間。
 憂さ晴らしのために私は友人と共に居酒屋に来ていた。
 ガヤガヤと雑に賑わう店内では少し浮く、真っ白なワンピースにミュールという清楚系の服装。でも、私は気にすることなくキンキンに冷えたビールを一気に煽った。

「勝手に決めつけるんじゃねぇ!」

 脳内に甦った言葉をビールジョッキでテーブルに叩き潰す。いくら飲んでも、泣いても私の鬱憤は溜まるばかり。
 そんな私の醜態に友人である由依がハイボールを飲みながら頷いた。

瑚々音ここねはしっかりした性格だからねぇ」
「だからって、毎回毎回ひどくない!? 『おまえは一人で大丈夫だけど、あいつはオレがいないとダメなんだ』って! 全員が全員、同じ言い訳しなくてもよくない!?」
「そもそも理想が高すぎなのよ。金髪マッチョのイケメンなんていないから」
「わかってる! そこは諦めたわ!」

 愚痴る私を見透かしたように由衣が肩をすくめた。

「ま、男なんてそんなもんなのよ」
「なによ。あんただって同じようなことを叫んでいたくせに」

 由衣だって数か月前に彼氏にフラれて、私が朝までやけ酒に付き合ったのは記憶に新しい。
 ジトッと睨む私の前で由衣が人差し指を左右に揺らした。

「チッチッチッ。私はね、気づいたの。男なんて癒やしにも活力にもならないって」
「どういうこと?」

 由依がスマホの画面を私に見せる。そこにはたれ耳ウサギの大量写真。

(黒っぽい焦げ茶の毛色……なんか、私の髪の色と似てる?)

 肩で切りそろえた髪に自然と手が伸びる。
 そんな私の前で満面の笑顔で由依が口を開いた。

「ホーランドロップのホイップちゃん。可愛いでしょー。お利口さんで、私の話に返事をしてくれるの」
「え? ウサギを飼い始めたの?」
「そう。だから、今日の飲みは九時までね。早く帰らないと、ホイップちゃんが寂しがるから」
「ちょっ、それ卑怯じゃない!? あんたがフラレた時は朝まで一緒に飲んだのに!」

 由依が不満気に口を尖らす。

「ホイップちゃんを部屋に残して飲みに付き合ってあげてるだけマシでしょ」
「じゃあ、あんたの部屋で飲む! それならいいでしょ! だから、朝まで付き合いなさいよ!」
「えー、仕方ないわねぇ」

 お互いに文句を言いながらも譲歩する。明け透けなく何でも言い合える十年来の貴重な友人。
 こうして私たちは居酒屋を切り上げ、コンビニで缶ビールと酎ハイとツマミを買って由依のアパートへ移動した。
 駅から少し歩いた先にある閑静な住宅街。その中にある単身者用のペット可の四階建てアパート。もともと動物好きだった由衣は彼氏にフラれたのをきっかけに動物を飼おうと引っ越したらしい。

「ホイップちゃーん! ただいまぁ!」

 超ご機嫌の由依がドアを開け、絶句する。散らばったティッシュに割れたカップ。ウサギのエサのドライフードも散乱。

「ホイップちゃんがゲージから逃げ出してる!」

 由依の悲痛な叫びと同時に足元をナニかが駆け抜けた。振り返れば由依のスマホに大量にあった写真と同じウサギが。
 私は慌てて由依の肩を叩いた。

「ちょ、由依! あれ!」
「なに……って、ホイップちゃん! なんで外に!?」

 由依の大声に驚いたのか、ウサギが脱兎のごとく逃げ出す。

「ホイップちゃん! 待って!」

 由依が駆け出すが、ウサギはすぐに夜の闇にとけた。

「ホイップちゃん……」

 私は呆然としている由依の両肩を掴んだ。

「早く探そう。今ならまだ遠くには行ってないだろうし。ホイップちゃんが好きなエサとかは?」
「えっと……ちょっと待ってて」

 由衣が持ってきたのはホイップちゃんの好物だというドライニンジン。
 それを片手に私は由依と二手に分かれて探した。駐車場の車の下や、壁の隙間、神社や河原など、ありとあらゆるところを覗く。
 夜とはいえ、まだまだ蒸し暑い。額から流れる汗を拭いながら私は呟いた。

「暗くて見えないわ。懐中電灯があれば……コンビニで売ってたかな」

 ウサギ探しは中断して、私は近くのコンビニへ歩いた。大きい通りではないが、抜け道として使われることも多く、コンビニの駐車場にはトラックが停まっている。
 コンビニの明かりが見えてきたところで、歩道に小さな黒い塊を見つけた。電柱の影に隠れるように丸くなり、ふわふわな前足で垂れた耳の毛づくろいをしている。
 そののんびりとした動作に怒りに近い感情が噴き出した。

「人が一生懸命探していたのに」

 私は怒りを抑え、ウサギに気づかれないように静かに距離を詰めた。しかし、あと一歩というところでウサギが顔をあげて私の方を向く。
 視線が合った瞬間、バチッと電気のような何かが走った。

「えっ?」

 それはウサギも同じだったようで、ビクリと体が跳ねた後、そのまま固まっている。
 お互いに見つめあうこと数秒。
 先に動いたのはウサギだった。もふもふの黒い足が地面を蹴って道路に飛び出す。

「待ちなさい!」

 反射的に私も道路へ。持っていたドライにんじんを投げ捨ててウサギに手を伸ばす。ふわりとした黒い毛が指に触れた。小さな温もりと鼓動が伝わる。想像よりずっと軽い体。
 バタバタと手足を動かすウサギを私は高々と持ち上げた。

「捕まえた!」

 そこに、けたたましく鳴るクラクション。耳を突き刺すブレーキ音。


 顔をあげると、ヘッドライトで視界が真っ白に――――――――


「キャ!」


 反射的に屈み込む。次に来る衝撃と痛みの恐怖に息を止めて震える。

 ……けど、なにも起きない。いくら待っても、何もない。
 苦しくなって息を吐いた私は、そのままゆっくりと目を開けた。

「ここ、どこ?」

 大理石の柱と白塗りの壁。足元は赤い絨毯が敷かれた廊下。大きな窓からは夜空とドーム型の屋根が見える。おとぎ話で出てくる異国の城のような……
 呆然とする私の頬を乾いた風が撫でた。さっきまでのジトジトと湿った空気と明らかに違う。心なしか砂っぽい。

「日本……じゃない?」

 少しでも情報がほしくて視線をさげれば、持っていたはずの鞄も、捕まえたウサギもいない。

「スマホもないの!? どうすれば!?」

 パニックになっている私に追い打ちがかかる。

「侵入者だ!」
「そっちに行ったぞ!」
「集まれ!」

 緊迫した声と足音が迫る。もう、訳が分らない。
 怖くなった私は咄嗟に背後のドアを開けて身を滑り込ませた。

「あぁ! あなたが身代わりの方ですか!」
「え?」

 振り返ると頭から白いベールを被った女性……というより少女? 華奢な体に高い声。

「顔はベールで隠して誰にも見られませんでした。あとは計画通りにお願いいたします」
「へ? え?」

 混乱している私の前で少女が白いベールを取る。
 粉雪のように煌めく長い白髪。その下には十代半ばほどの可愛らしい顔。大きな赤い目に小さな鼻と口。その表情には怯えと安堵が混じる。
 どうして、少女がそんな顔をしているのか気になるけど、それよりも……

 真っ白な髪の隙間から生えた真っ白なウサギ耳……

「み、耳!? うさぎ耳!? なんっ、えぇ!?」

 警戒するようにピクピクと動く耳は飾りではなさそう。
 驚く私を少女が不思議そうな目で見つめる。

「どうかされました? そこまで驚かれるほど私の耳は小さくはないかと。あなたほど立派な耳ではありませんが」
「りっぱな、みみ?」

 少女が持っていた白いベールを私の頭に被せると、そのまま私の頭の横に触れ、真っ黒な垂れ耳を私に見せた。

「あなたの耳です」
「ンッ!?」

 本当に驚いた時は声が出なくなる。目の前にあるのは、私の髪と同じ色をしたモフモフなウサギ耳。
 愕然としている私に少女が優雅に頭をさげた。

「まさか、希少種と言われる黒い垂れ耳の方が代わりとは思いませんでした。あとはお願いいたします」

 少女が踵を返す。遅れて異国の白い裾が波のように舞った。アラビアンナイトの話に出てくるデザインのドレスに柔らかく透けた布。
 その優雅さに目を奪われていると、少女が一足飛びで窓に飛びつき、そのまま外へ……

「ちょ! 待って!」

 私は慌てて窓から身を乗り出したけど、少女の姿は見えず。
 呆然としているとノックの音がした。

「入るぞ」

 ぶっきらぼうだけど、澄んだ低い声。艶っぽく、そこ声だけで全身が痺れる。

(なに!? この色気たっぷりのイケボイスは!?)

 声に引っ張られて振り返る。黄金のドアノブが動き、重厚なドアがゆっくりと開く。

 私は慌てて頭にあったベールを深くかぶった。ベールの隙間から部屋に入ってきた人物を覗き見る。

 そこで私は硬直してしまった。

 たてがみのような黄金の髪。夕陽を映したような琥珀の鋭い瞳。キリッとした眉に高い鼻。まっすぐ横に結ばれた口。太い首に、広い肩。服の上からでも分かる筋肉質な体。
 雄々しい限りの立派な美丈夫。

 これぞ、私の理想が具現化した姿!

「ふぁ……」

 感動のせいか出たことがない声が漏れる。

(理想のイケメン金髪マッチョ様!? しかも近づいてくる!?)

 呆然と見惚れていると、美丈夫が私の前で足を止めた。

「なんだ。まだ、そのベールをつけていたのか。初夜には邪魔だろ」
「しょ、初夜!?」
「なんだ? 今日が初夜だと知らないのか?」
「あ……」

 美丈夫が乱雑にベールを奪う。ベール越しではない、生イケメン金髪マッチョ! 眩しっ!? 刺激が強っ!? しかも、なんか甘い匂いがする!? イケメンの匂い!?
 パニックになりかけている私に気づかず美丈夫が私を鋭く睨む。

「ほう? 黒のたれ耳ウサギとは珍しい」

 値踏みされるような視線。急に恥ずかしくなった私は現状も忘れて、誤魔化すように怒った。

「名前も名乗らないどころか、いきなりベールを奪うなんて失礼よ!」

 私の勢いに美丈夫の表情が少しだけ崩れる。

「オレを前にして、そんなことを言うヤツがいるとは。おまえ、オレが怖くないのか?」
「ど、どうして怖いのよ!?」

 好み過ぎて、それがバレないようについ威勢をはってしまう。
 美丈夫がグイッと私の顔を覗き込んだ。

「獅子王、レオの噂を知らんのか?」

(獅子王!? 聞いたことないんですけど!?)

 私はこの場を凌ぐために必死に言葉を探した。

「う、噂は噂よ。他人が勝手に言ってるだけじゃない。本人に確認もしないで、好き勝手に裏で決めつけて……」

『おまえはオレがいなくても一人で生きていけるだろ』

 頭の中に元彼の声が流れる。
 急に頭が冷え、重い感情が私を飲み込む。

「そうよ……勝手に一人で生きていけるとか、決めつけて…………」

 訳の分からない状況の連続に私の精神は限界だった。トラックにひかれた、と思ったら知らない場所で、訳の分からない展開。
 私は獅子王から顔を背け、浮いてきた涙がこぼれないように手を握りしめた。

 そこで突然、顎を掴まれた。

「え? んふぅ!?」

 状況を理解する前に唇に柔らかなモノが触れた。そのまま深く口づけられ、獅子王の舌が私と舌にからみつく。

「ん、ふぅ……はぁ…………あっ」

 ようやく開放された時には、あまりの刺激に腰が砕け、立っていられず崩れかけた。座り込む前に獅子王が私を抱き上げ、広いベッドにおろす。

「威勢がいいのは最初だけか?」
「そん……あ、んぅ!」

 獅子王がたれ耳に触れる。指の動きが絶妙に気持ち良くて、全身がゾクゾクと痺れた。
 こういう経験がないわけではない。でも、いつもそんなに気持ちよくなくて、気がつけばフラれて……

「重鎮たちがさっさと跡継ぎを作れというからな。嫌ならば言え。考慮はしてやる」
「ふぁ!?」

 耳元で囁かれただけなのに腰に響く。声だけで疼いてしまう。

「ウサギ族の初夜の衣装か? 珍しい形だが、邪魔だな」

 お気に入りだったワンピースがあっさりと爪で破られる。そのまま、慣れた手つきで私の全身を暴いていく。ざらりとした舌が、皮膚にたてる歯が、無骨な指が。すべてが快感となり、吐息が漏れる。

 恥ずかしくなった私は手首を噛んで声をこらえた。すると、やんわりと手を外され、頭上で固定される。
 驚いて目をあければニヤリと笑う獅子王が。

「我慢するな。すべてをオレに曝けだせ」
「なっ、そんなの無理っ、んぅっ! あっ、はっ……そこっ! だめっ! あぁ!!」

 獅子王の大きな手が私のお尻を撫でた。それだけで、感じたことがない快感の波が押し寄せる。

「やはり尻尾が性感帯のようだな。ぴくぴく動いているぞ」
「し、尻尾!? 私、尻尾なんて、な……んあぁ!」

 お尻を撫でていた指の一本が私の秘処をまさぐる。ぐちょぐちょと響く水音。

「さすがウサギだな。すっかり濡れている」
「う、うそ……」
「嘘ではないぞ」

 そう言って出した獅子王の手は糸を引くほどぐっしょりと濡れて。恥ずかしくなった私は顔をそらした。けど、すぐに獅子王が私の顔を正面に向け、キスをする。
 口を塞がれた私は声が出せない。その間に私の中に指が入り、広げられていく。痛みはなく、快楽と気持ち良さが押し寄せる。
 でも、それが徐々にもどかしくなってきた。もっと大きなモノで突いてほしい。かき回して、イカせてほしい。でも、そんなこと恥ずかしくて言えない。

 獅子王の口が離れたところで、私の声が漏れる。

「あん……」
「どうした?」
「な、なんでも、なぃ……んぅ!」

 獅子王の指が乱暴に抜かれて声が跳ねる。代わりに今までとは比べものにならない太くて熱いモノが。

「挿れるぞ」

 意地悪に口角だけをあげて訊ねる獅子王。私はたまらず無言で獅子王の背中に抱きついた。股の間に熱いモノを感じる。
 獅子王が私の耳元に口を寄せた。

「おまえ、名前は?」
「……こ、瑚々音」
「ココネ、か」

 そのイケボで名前を呼ばれたら、もう何も考えられな……

「あぁぁぁ!」

 一気に貫かれる。しなる私を獅子王が激しく揺さぶる。

「クッ、締めすぎだ」
「あっ、はん…………ふぁ……あぁん!! そこっ、あっ……ヤメッ」
「ん? やめていいのか? 気持ちいいんじゃないか?」
「そ、その動きっ、ふっ、んぅ! お、おかしくな……ぁあ!」

 こうして私は一晩かけてドロドロに抱き潰された。



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